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多羽(オオバ)くんへの手紙 ─17─
「他に体育委員やりたい人いませんかぁ。いてないんやったら多羽くんと羽田さんで決まりです。」
他の生徒が挙手する隙を与えない、成り立て学級委員お鈴の援護射撃で、私と多羽は体育委員となった。
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「委員の集まりってダルいよなぁ。」
まだ特に何の仕事もしていない学級委員のお鈴がぼやいた。
1ヶ月に1度、授業が終わってから各学年の同じ委員が集まる会があり、お鈴が言うのはそのことだった。
「ま、ミスミンはいいよな。」
「お鈴も仲良しの戸澤やからええやん。」
「コザっちが吉野くんやったらナンボええか。」
久々に吉野の名前を聞いたが、そやなと曖昧な笑顔で誤魔化して、それ以上は触れないでおいた。
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「体育委員、2年2組の教室やって。」
多羽が教えてくれた。
いい加減だと思っていたのに案外真面目で少し驚いた。
一緒に移動するのだが、並んで歩いているのに無言は辛い。
「多羽の投げ方さ、桑田くんに似てるな。」
お世辞ではなく、ずっと思っていたことだが私の中では最高の褒め言葉だった。
「ホンマ?似てるか?桑田ゆうたら、タッチの達也のフォームな、あれ桑田を参考にしてるらしいで。」
ホンマ?と言った多羽は気のせいかもしれないが、嬉しさを堪えているように見えた。
「そうなん?知らんかった!」
タッちゃんのフォームのことは本当に知らなかった。
私が知らなかったことも多羽を喜ばせたようだ。
その後もサードはライナーが来ると結構怖いだの、貴代先生にプロレス技を掛けられるだの、前から友達だったような気すらするほど話しやすかった。
今までの緊張は何だったのだろう。
最初の一歩を踏み出す少しの勇気ときっかけさえあれば何とでもなったのだ。
月1委員会の日は試合前などを除き、余程のことが無ければどの部活動も休みだった。
「弘ちゃんら待ってるから。ほなな。」
弘ちゃんは多羽とは違う、文武両道を行く野球部のモテ男だ。
多羽は何も入っていなさそうな鞄を肩に引っ掛けてノシノシと歩いて行った。
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「姉ちゃん、今日な、俺桑田のフォームに似てるて言われてん。」
「羽田さんに?」
あり得ないが、貴代にどこからか見られていたのかと多羽はギョっとした。
「あんたさ、今日部活休みやったやろ。委員の日って言うてたやん?」
「そやで。弘ちゃんらと遊んでてん。」
「あんたはホンマにニブチンやな。」
ニブチンて何やねん。
貴代の容赦ないスリーパーホールドに堪らずタップすると、ニブチンの言葉はどこかへ飛んで行ってしまった。