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多羽(オオバ)くんへの手紙 ─16─
学年の最初というのは煩わしい決め事が何かと多い。
そのうちの一つが「委員決め」だ。
学級委員、図書委員などはまだ普通だが中には「こんなもの必要なんだろうか」と思われる委員もある。
一学期だけで良かったり、通年で務めなければならなかったり様々だ。
一年間何の委員にもならないのは至難の業だったが、私はなるべくそこを目指していた。
「ほなまず学級委員決めよか。ここだけ先生がやるから、後の司会は学級委員頼むわな。」
野口先生の最初だけ仕切る上手いやり方だ。
「学級委員やりたい人ー。手ぇ挙げてー。」
「ハイ!ハイ!」
隣の戸澤が勢いよく真っ先に挙手した。
「はーい!」
前の方の席から聞き慣れた女子の声がした。
お鈴だ。
不良2人が学級委員に立候補しても教室は全くザワつかなかった。
この頃「中3になると、不良が勉強以外の活動を頑張る」のがお決まりになっていたからだ。
「柄でもない2人やけど、他にやりたい人おらんかー。おらんねやったら戸澤と小牧に決まりな。」
教師が生徒のことを柄でもないと言う。
良くも悪くも何でも言えた時代だった。
大人の自分なら、通年の役にサッサと就いてしまえば良いものをと助言しただろう。
しかし、当時の自分ときたら優柔不断、グズグズしているうちに結局貧乏クジを引くことになるのが常であった。
列隣の多羽を横目で見ると、私と同じ「あわよくば逃れたい」空気を醸し出していた。
ただ、この時私には「逃れられないならこれならまだマシ」と思える通年の役が1つだけあった。
モタモタしていると手遅れになる。
珍しく気が急いた。
多羽もひょっとすると自分と同じではなかろうか。
単純で都合のよい少女の想像はとても跳べそうにない高い壁を
簡単に跳び越えてしまう。
持っていたシャープペンシルの先で多羽の肘を軽く突付いた。
こちらが吃驚するほど、多羽はビクッとし、太腿を机の裏板にぶつけたようだった。
「体育委員、一緒にせぇへん?」
体育委員は通年なので敬遠されがちだが、時々体育教師の手伝いをする程度で、今決めてしまえば後が楽だ。
緊張も戸惑いも躊躇もせず多羽に話しかけることが出来たのは不思議だったし、多羽への好意というよりは「助けてあげないと」という思いが大きかった。
多羽の顔に、狼狽や戸惑いや他にも色々な感情が綯い交ぜになっているのが見て取れる。
アンタもサッサと決めた方がええで、という無言の何かに圧倒されたのだろうか。
「あ、おぉ、と。え、えぇよ。」
多羽は冗談みたいに吃っていた。
この時の私には、マウンド上みたいにかっこええとこ見せてや多羽、と思うくらいのほんのちょっぴりの余裕があったというのに。