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多羽(オオバ)くんへの手紙 ─14─

新学年の始まりは、たいてい50音順の座席だ。
まずは隣の席、近くの席。同じ班。
そうやって徐々にクラスが出来上がっていく。

多羽オオバの席は私の前方対角線上にあった。
私は教室の後ろ扉から近い席。



汗だくの多羽オオバが席に着く。
始業前にグラウンドでサッカーをするために
野球部の多羽オオバは奇特にも毎朝早くに登校していた。
朝起きるのがやっとの私とは真逆のタイプだ。

汗だくの背中に張り付いたカッターシャツ。
下敷きでパタパタと煽ぐ少し猫背の背中を見る。
私の朝のルーティン。


─ 後に開花するフェティシズムの芽はこの頃芽生えたのだろう。─



多羽オオバの仲良しは別のクラスだったせいか、休憩時間はあまり教室には居なかった。
いつも前の扉から出て行くのは私の近くを通るのが気まずいからかもしれない。

私が多羽オオバでもきっと同じことをしただろう。
そう思うことで少し近付けるような気がした。

✳✳✳



リンの隣は、もともと仲の良かった戸澤コザワという男子だ。戸澤コザワは少し不良で可愛らしい、母性本能をくすぐるタイプだった。

戸澤コザワには彼女がいたが、おリンと何かあるのではないかと思うほどに異常に仲が良く、当然のことながら戸澤コザワの彼女はおリンを嫌っていた。

「◯◯が小牧紹介してくれ言うてるから会ったってや」
毎回別の男子の名前で戸澤コザワからお願いされていたが、吉野一筋のおリンの耳には右から左だった。


✳✳✳


「ミスミン、席替えしたいやんな?多羽オオバの隣がいいやんな」
リンが何かを企んでいる時の顔だ。

「隣じゃなくてもいいかなぁ」

リンには言えなかったが、背中を眺めている心地良さや
後ろの方の席が好きだったこと、多羽オオバにシンパシーを感じていたこともあり、今の席は案外気に入っていた。


✳✳✳


「せんせー、席替えしようぜ」

終業前のホームルームで戸澤コザワが皆の代弁者となった。
私より少し前方のおリンがこちらを向いてニヤニヤしていた。


リン戸澤コザワに言わせたな。

「そやなぁ。みんなだいぶ慣れてきたし席替えしよか。まぁ、今日はもうシマいやから明日しよか。先生がクジ作っとくから」
生徒からの提案に野口先生も気を良くしたようだった。


わぁーと上がった歓声が少し遠くに聞こえて
皆と同じように手放しでは喜べない自分は
本当に捻くれているのかもしれない。


15に続く…