本屋で遭遇した見知らぬあなたは、未来の私だったのかもしれない。
私には密かな目標がある。
それは、知らない人に話しかけられるようになることだ。
こう書くと、ただのヤベーやつになってしまうので、丁寧に説明させてほしい。
あなたにも、こんな経験はないだろうか?
街ですれ違った人の香水がとてもいい香りだったこと。
たまたま電車で前に立っている人のスカートがめちゃくちゃ素敵だったこと。
エレベーターで居合わせた人のカバンがとってもオシャレだったこと。
同じ会社の人や知り合いなら「え!めっちゃいい香りする!」とか「それ、めっちゃオシャレだね!」って気軽に訊ける。
だけど、それが知らない人だと途端にハードルが上がり訊けなくなってしまうである。
だけど、その人が何の香水を使ってるのか、どこのスカートなのか、どこで買ったカバンなのか……。
ほんとは気になってしょうがないくせに。
変な人に思われるんじゃないか?
そもそも知らない人に話しかけるって恥ずかしい。
無視されたらどうしよう。
でも気になる……。
うーん、やっぱり訊けない……。
そんなことを思い巡らせて、ほとんどの人が何食わぬ顔でやり過ごしてしまうのではないだろうか。気になる気持ちを押し殺して。
でも、それってめちゃくちゃもったいないなーと思っていて。
せっかく生きてるんだから、話しかけちゃうような厚かましい人間に、私はなりたい!
1年ぐらい前からそんなことを思うようになっていたが、機会に恵まれることがなかった。
だが、それは急に訪れたのである。
「すみません。その靴、めちゃくちゃ可愛いですね。どこのですか?」
なんと見知らぬ女性に話しかけられたのだ。しかも、本屋の店内で。
いつか同じシチュエーションで話しかけるんだ!と夢見ていた私が、他人にどこの靴を履いているのかを質問されたのである。
「えーっと……。カルフってブランドの靴で……」
と、その女性に説明しながらも思った。
あ、これ、めちゃくちゃ恥ずかしいぞ、と。
静かな本屋で、周りの人たちに私と女性の会話は丸聞こえだったし、女性は私の靴に興味津々で質問を重ねてくる。
恥ずかしい……。でも、これは未来の私が誰かにすることだから、私がまずきちんと答えねば……。
そう思いながら、何度か受け答えをし、靴の話をしきったタイミングで解放(?)された。
咄嗟に話しかけられると、案外ビックリして上手に話せないものなのである。
ものすごーーーく恥ずかしかったけど、たまたま本屋に居合わせた人の靴を見て話しかけるってことはよっぽど可愛いと思ってくれたのかもしれない。
いや、もしかしたら、あの人も私と同じなのかも。見知らぬ人に話しかけられるようになりたくて、話しかけやすい人を見繕って練習をしていたのかもしれない……!
どっちにしろ、なんだか嬉しい気持ちになったし、かなり勇気づけられた。
生きていくのにそこまで必要ないような些細なことでも、同じような意識で生きてる人がいるんだなって。
それが知れただけでも、かなり幸せ。今日はいい気分で寝れそうです。
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