旅と言葉とコンチョロジー(貝類学)/読書メモ: 小津夜景『ロゴスと巻貝』
『ロゴスと巻貝』に出てくる小津夜景さんの読書エピソードが旅と読書を思わせて劇的だった。
これを読んでふと、高校生のころ、下宿先に同学年の変わった隣人が住んでいたことを思い出した。
その部屋には、ひとつも家具がなかった。8畳間の古びた畳の真ん中に、本が積んであるだけ。そいつは部屋のはしっこで寝袋で寝ていた。
あるとき部屋に遊びにいくと、押入れに旅行鞄がおいてあり服や生活用品一式はこの鞄にいれて暮らしてるようだった。
つい「どうしてそんなに荷物少なくしてるん?」と問うたところ、曰く「いつでも好きな本だけ持って、旅にそのままでられるようにしていたいんだよね」と。
いま思えばツッコみどころもなくはないけれど、当時の自分は筋肉とサッカーボールと女子の尻に脳内を支配されていたので、なんだかとても新鮮で目をキラキラさせて「へぇぇー(かっこいい・・)」ってなった(このおかげで自分も旅に出るハメになった)。
持ち運べる荷物のサイズは違うが、人生という旅でも結局のところ理屈は同じだ。
記憶力にそこまで自信のない自分は、言葉の貯蔵庫として本棚を編み、時折り気になる本を取り出しては眺めている。
小津夜景さんは、高村光太郎の『智恵子抄』を素材に、こんなことを書いている。
自分が本そのものと同じくらい、他人の本棚に惹かれるのも、同じような理由なのかもしれない。
ところでこないだ英和辞書をひいていたら、ちょうどこの本を読んでいたからか「conch 巻貝」という項目がふと目に止まった。
ネイティブアメリカンのジュエリーで「コンチョ」というシルバーでできた装飾ボタンがあるのだけれど、調べてみたら「貝殻みたいな」ボタンのことで、同じ語源からきていた。ちなみに「con·chol·o·gy」で「貝類学」だそう。
コンチョロジー。という可愛い響きの言葉をあたまの片隅に、貝類学として『ロゴスと巻貝』の続きを読もう。
補足:
こちらの方がまさに同じ箇所を引用していらした。共感ポイント近くてうれしい。
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