クリント・イーストウッド「許されざる者」(1992)131分
幼少時にアメリカに住んでいた時、カウボーイの絵本が大好きだった。カウボーイの生活ぶりを描いたものだったと思うが、昼は牛を追い、夜は焚き火をして野宿する。カウボーイハットは日除けでもあり、川で水を汲むのにも使う。その絵本のイラストがカッコ良すぎて、カウボーイハットも買ってもらった。と言っても、人前でかぶる機会はあまりなかったと思う。
この映画は、クリント・イーストウッドの作った「最後の西部劇」と言われている。冒頭のドン引きのショットから、アメリカの広大な荒野の質感がじわじわと伝わってくる(ロケ地は、カナダだったそうだが)。殺人鬼と言われたマーニー(イーストウッド)が、クラウディアと結婚することで更生した経緯が、冒頭の字幕だけで説明される。陰の主人公であるクラウディアは、結局文字だけで、姿を現すことはない。
親友のネッド(モーガン・フリーマン)を賞金稼ぎに誘い、現場に旅するシーンが西部劇へのオマージュというか、美しい。カウボーイ映画に欠かせない、荒野と夕焼けと焚き火のショットがてんこ盛りだ。
ちょうど授業で「セントラル・クエスチョン(CQ)」というワードが出てきた。「その物語はなにを解決しているのか?」って、この映画だったらなんだろう?
「亡き妻のおかげで更生した殺人鬼が、友人の理不尽な死に復讐を誓う話」と言ってしまっては、あまりにも薄っぺらい。ネッドの獄死を聞いて、妻に諌められて以来守ってきた禁酒を破るマーニー。冷徹だが、優秀で憎めない保安官(ジーン・ハックマン)にトドメをさすところを見ても、「法より友情が大切だ」というカウボーイの掟が描かれているのだろうか?
そもそも善悪とは?という部外者の想像力が試される。
それにしても、いつも眩しそうな顔をしているイーストウッドの存在感が半端ない。イーストウッドの寡黙さを際立たせるために、常に饒舌な登場人物が注意深く配置されている。ジャームッシュとは違うが、ここでも引き算の美学が生かされている気がする。やっぱり「男は黙って・・・」が、いちばんかっこいいのだろうか。
追記)2024年11月6日、トランプが再選された。そのニュースを見た時、荒涼とした土埃がゆらゆらとわきたつ土地が脳裏に浮かんだ。アメリカは、昔も今も荒涼とした大地なのだろうか。トランプには、カウボーイハットがよく似合う気がする。