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春の香り
「沈丁花の花の香りが春の訪れを告げています」
僕の小学校では、そのフレーズではじまる卒業生のスピーチが決まり文句でした。
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小学校には、いくつかの登校門があったのですが、そのうち西門の脇が沈丁花の生け垣になっていました。
そこでは毎年、この季節になるとたくさんの沈丁花の花が咲いていました。
はっきりとした深い緑の固い葉っぱに、白くて小さな花が寄り添って咲くんです。
ランドセルを背負いながら、西門に近づくと、石けんのような甘くて爽やかな香りに全身が包まれたのをよく覚えています。
それは僕にとっての春の香りでした。
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そういえばここ数年、遠くに引っ越したとはいえ、沈丁花の花の香りに気がつきません。
今は、たしかにマスクをしているせいもあるけれど、
あの頃は子どもの背丈だったから、花の香りに全身が包まれたのかもしれないなと、
ふと、そんなことを思いました。
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