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私の常識、非常識?(ショートショート)

一人暮らしを始めてもう5年。この暮らしにも慣れたものだ。
しかし後片付けが苦手なのは子供の頃から変わらずで、机や床に物があふれてしまう。そんな散らかった自分の部屋を片付けているとき、幼少の頃の記憶が突然よみがえった。

「オモチャは最初に出した人が片付けるんだよ!!😠」

怒った顔の同い年の女の子が、当時の私に向かって大声でそう言った。
この言葉を聞いたとき、私の頭の中は「?」で埋め尽くされていた。たしかに、そのオモチャを箱から取り出して床に広げたのは私だ。でもその後に彼女がやってきて、最後までそのオモチャを使って一人で遊んでいたのだ。ならば後片付けをする責任は、私から彼女に移ったのではないだろうか? 私がそう考えたのは、家庭でそのように教えられていたからだった。

「オモチャは最後に遊んだ人が片付ける」、それが我が家の常識だった。しかし、目の前の女の子から言われた言葉は、その真逆。「最初に出した人が片付ける」という彼女の主張。それを大声で自信満々に言うものだから、私は気圧されるとともに、ただただ困惑した。そして訳がわからないまま、散らかったオモチャを片付けるのだった。

オモチャを片付けている間、私はさっき言われた言葉について考えていた。「最初に出した人が片付ける・・・?なんで?どういうこと?💧」
「他の人がオモチャで遊んだのは、最初にオモチャを出した人のせいって
 ことかな?」
「でもそれだと、他の子は遊ぶだけ遊んで、後片付けは最初の子に
 任せっきりじゃないか。それは・・・ずるくない?」
そんなことを考え続けていたが、結局納得のいく理屈にはたどり着かなかった。

 そして今、私は大人になってしばらく経つ。ここでこの話を思い出したのも何かの縁だ。考える力はあの頃より上がっているはずだろうし、もう一度あの女の子の言葉について考えてみよう。

・・・やはり、彼女の主張には無理があると思う。最初にオモチャを使った人に負担が偏り過ぎている。最初に使った人が後片付けをするということは、当然最後に使った人が遊び終わった後に、わざわざ片付けに行くことになる。それはつまり、自分が遊び終わった後でも、ずっとそのオモチャの様子を見てないといけないということだ。

「・・・それじゃまるで、親みたいじゃないか」



「ん・・・?親・・・?」



「そう・・・親が小さい子の面倒を見ているような・・・」



「小さい子・・・?」

そうだ!思い出した!たしか彼女には妹がいた!よくケンカしていると本人が言っていた気がする。それが関わっているんじゃないか?彼女も私と同じように、両親からの教えによって自分の常識が作られたはずだから、そのことと妹の存在が関わっているはずだ!

彼女と妹との年齢差はわからないが、おそらくその差は小さくない。きっと彼女の妹は、オモチャを自分で片付けられないくらい幼かったのだろう。だから姉である彼女は自分の親から「妹がオモチャで遊んだのは、姉のあなたがオモチャを出したままにしていたから。オモチャを最初に出したあなたが片付けなさい」と言われて育ってきたのかもしれない。それが彼女の中で「自分は幼い妹の姉だから」という前提が抜け落ちて、「オモチャは最初に出した人が片付けるもの」という理解になっていったのかもしれない!そうして出来上がった彼女の常識を、当時の私に向けて主張したのだ。これで筋は通るはずだ!💡

「おお!つながったぞ!!私ちょっと冴えてるんじゃない?😁✨」

長年の謎に説明がついて、とりあえずスッキリした私。
こころなしか、自室の片付けをする体の動きが、軽やかになった気がした。

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うきまろ
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