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読書はたのし「ランボー怒りの改新」(前野ひろみち)

 Come Back 税収。
 失礼。Go to 読書だ。
 開口一番本音を言ってしまった。
 お許しを。哀れな観光地の民草にございます。
 読書で心を旅させていただき……。
「俺、この騒動が収まったら奈良に行くんだ……」とか夢見ていただき、安寧が訪れれば旅行に来ていただき、ドバドバお金を落としていただきたい、その思いが強すぎてつい……。
(間)
 言い訳するほど墓穴を掘る。あらすじに入ろう。

「ランボー怒りの改新」(前野ひろみち)

改題文庫Kindle版

 お待ちくだされ! ちゃんとと奈良県ご当地本にございます! Kindleの方の改題版に鹿がほら! どうかお待ちを! 表題作本文冒頭を引用いたします、どうかお待ちを!

 ある夏、ひとりの青年が斑鳩の里にフラリと現れた。
 たくましい身体と日焼けした肌、髪は長く伸ばしている。彼の名はランボー。遠い異国ベトナムの奥地からやっとの思いで故国の島国へ帰りつき、難波津から飛鳥を目指して歩いてきたのだ。
 ランボーは今、一つの焼け跡を前にして呆然と立ちつくしていた。そこにはかつて山背大兄王らの住む斑鳩宮が建っていたはずだが今は見る影もなく、焦げた材木が夏草に埋もれているばかりである。

 しまった。引用部分であらすじがいらなくなる本だった。
 しかもお金をドバドバ落としてほしい場所で、ランボーが銃撃戦をしている。
 ふりがなが無いと、奈良時代の地名人名はキツい問題も出現した。
 ピンチ。
 と、思われたご様子。
 ノープロブレム。
 この本は短編集だ。
 他の収録作品を紹介すればよい。
 他の収録作品から「うッ……、奈良に行きたい……。やたらと広い公園みたいな遺跡で、ただただぼーっと歩きたい。腹が減ったら奥に長細い増えたカフェに入り。BGMに鐘の音を聞き。四季と歴史のみを感じる時間を送りたい……」とか思っていただければ――。
 
 読む前から思ってらっしゃるようだな。
 されどCome Back 税収。あらすじのターンをやり直させてもらおう。
 収録作。
「佐伯さんと男子たち1993」
 中3男子たちがクラスの美少女に恋する物語だ。
 東向き商店街のマクドナルド2階で、アホ男子3人組が、好きな女の子に告白宣言をするところで始まる。
 え、東向き商店街?
 あそこか。
あのグランドピアノ置いてあるマクドか。
 あこええよな。向かいが重要文化財やし。
 っていうか、この間モバイルオーダーの操作間違ってしもたんやけど、その対応がマジ神対応やってん。
 ほんまあこええわ――。
 って身バレェ!

 俺の庭すぎて危ういところまで申し上げてしまった。
 お忘れを。
 すっぴんでこのような散文を書き散らかしたりしている事情がある。切にお忘れを。
 閑話休題。
 中学3年といえば、受験やら就職やらに忙しい方が多数派であろう。
 されど、この3アホは違う。
 なぜならこの3アホが通うのは中高一括高だからだ。

 中学三年から高校一年のあたりというのは、受験もないし、何もキビシイ試練というものがなく、とかく僕らは奈良公園とかをぶらぶらしがちであり、そうするとてきめんに鹿のアホがうつるからである。

 そうか、わたくしのアホの原因は、いい年をして頻繁に奈良公園をぶらぶらしているからであったか。
 納得しかけたが叙述トリック。
 読み進めていくとこの主人公、近鉄奈良駅から学校まで歩く途中に奈良公園がある。

 朝の浮見堂のあたりなんかはいい感じだ。木漏れ日の中を、立派な角を生やした牡鹿がスッと横切ったりするときは、ちょっと神々しさがあったりする

 うむうむ。奈良は朝がよいのだ。
 特にこの浮見堂の周辺は春日山原生林も近く、春日大社も東大寺も近いものだから神域の趣がある。
 朝露踏み分け鹿が来たるのだ。
 時折、自分がいる時代がわからなくなってしまう。
 風に長き時がしみこんでいる。
 奈良にいると日々こういった小さな疑似タイムスリップ――って違う!
 この3アホ、奈良女子大学附属中学の生徒やないか!
 何がアホなものか。国立中学である。県内で最も受験がキビシイ中学の1つだ。
 やっていることがいかにアホでも、真のアホが通う○○中学と間違うなかれ。
 思いっきりフルネームを書いてしまった。わたくしの出身中学に偽装した野犬収容所である。
 伏せ字にせねばならないものを書いてしまうあたり、わたくしのアホと奈良公園は関係ないようだ。
 
 再度閑話休題。
 この3アホ、クラスの美少女佐伯さんに惚れ、アタックしてはブロックされて散るのである。
 このブロックされるまでがおもしろい。
 特に何事も起きていない。
 なのに、重大事件やなガハハと笑う。
 どんな具合にブロックされていくかというと……。
 先ほど何の説明もなく鹿を出したことを思い出されたし。
 うん。わざわざ説明いらんと思て。
 あえて説明するなら、どこにでもいるわけではない。わりと狭いエリアにいる。
 奈良女子大学附属中学(推定)はエリア内だ。
 そして佐伯さんは、常に鹿せんべいを持ち歩く奇っ怪な美少女である。
 鹿サーの姫だ。
 佐伯さんにラブレターを渡そうと思ったら、鹿の群れの中で渡さねばならない。
 鹿は紙が好物である。
 当然ながら襲われる。ラブレターを食われる。
 こやつめ、俺の恋文を返せ。
 もぎ取り自身の天然パーマに隠す男子。
 お、髪の毛の中にうまいモン入れよったな。
 髪ごと喰らう鹿。
 おいこら食うな食うな。
 邪魔すな食うわ食うわ。
 とっくみあいのつかみ合い。
 アホ2人も読者も大爆笑である。
 薄情と考えるは早計。
 奈良では鹿に紙類を見せることは、コブラに訳ありの美女を見せるに等しい。
 見せるヤツが愚かなのだ。
 さらに言うなれば、母鹿の前でバンビちゃん(県民は子鹿をこう呼ぶ)に触るなど、コブラの前で美女を殴るに等しく。
 ましてや鹿せんべいを鼻面にぶら下げて写真を撮ろうとするなど、サイコガンの前で「さすがのコブラもここでおしまいだぜ!」とイキるに等しい。
 うむ。この3アホ、勉強できるだけでアホである。
 奈良に住んでいて鹿の扱いを心得ぬとは、なんたるアホ。
 
 斯様にアホな話の短編集。
 幻想と現実をアホに行き来する物語たち。
 はたしてこの前野先生とはいかなるお方か。
 森見登美彦先生の変名とかではあるまいか。
 森見先生の出身も奈良女子大学附属である。
 あやしい。
 と、あとがきを見ると「畳屋の跡取り」とある。
 ……うむ。畳屋。
 鵜呑みにしてはならない。
「小説家の自己紹介ほどあてにならないものはない」とすぐ下に書いてあるのだから。
 でもなあ……。
 もし、この畳屋の跡取りが本当であったら。
 心当たりがあるというか……。
 うちの畳……前野先生のお宅製ではあるまいか?

 奈良でドバドバお金を落としたくなる「ランボー怒りの改新」いかが?

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