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一日一頁:赤坂真理「<本書を推す>じゃなかしゃば、あるいは、はらいそ(天国)」、石牟礼道子、鶴見和子『言葉果つるところ』藤原書店、2024年。



「本書」ではなく第一に「<推す>」に目が釘付けになることを初めて体験する。

どんな宗教者にもなしえなかったことを、丸い言葉で話して、女学生のように笑いさざめいている=赤坂真理。

 言葉果つるところまで行ったことがある。とても病んだ時に。人格と思ってきたものなどは儚いと知った。でもその下に「いのち」というものがある。言葉が出てこなくて、感情も出てこなくて、しかしいのちはただ生きている。いのちは、防備もなくむき出しで。その頃たったひとつ持っていたのが『苦海浄土 全三部』(藤原書店)を読んでその解説を書く仕事だった。その後、石牟礼道子その人と邂逅した。
 鶴見和子は病を得て、言葉果つるところまで行った。そして体の自由が自分から奪われた時に、かって学問のために封印した「歌」が、鶴見に訪れたという。鶴見がやりたいと思ったわけではない。歌の方から、彼女に来たのだ。それが彼女のいのちの言葉だった。この話は、疫学者で詩人の多田富雄を思い起こさせる。脳梗塞で倒れた後、多田は半身不随の体の中で目覚め、新しい人間となり、そこに、若き日に学問のために封印した詩が降ってきた。
 石牟礼道子は、水俣病を前に、既存の言葉や宗教の無力をさとった。

赤坂真理「<本書を推す>じゃなかしゃば、あるいは、はらいそ(天国)」、石牟礼道子、鶴見和子『言葉果つるところ』藤原書店、2024年、1頁。

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氏家 法雄 ujike.norio
氏家法雄/独立研究者(組織神学/宗教学)。最近、地域再生の仕事にデビューしました。