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一日一頁:ジョン・マレンボン、周藤多紀訳『哲学がわかる 中世哲学』岩波書店、2023年。



哲学は確かに「現代の議論に対して」アクチュアルな議論である。しかし、簡単にアクチュアルと発話することには抑制的でなければならない。

なぜなら、過去を知ることで「より幅広く人間が置かれてきた困難な状況と哲学がどのように関わってきたのかについて知ること」が可能になってはじめてアクチュアルになるからだ。

 もし本当に過去の哲学の価値が現代の議論に対して直接貢献することにあるとすれば、過去のどの時代の哲学についてもわざわざ学ぶ価値はなかろう。現在行われている議論にとって重要な新しい議論を、古い文献のなかに発見することは極めて稀であるし、そうした新しい議論にたどり着くには、おそらく現代の問題について考える方がはるかに楽だろう。過去の哲学的探求は、今日における哲学的問題の論じ方に貢献していないというわけではない。その貢献は、現代の哲学的問題の標準的な説明に採用され、吸収されて一体となっているのである。
 哲学の歴史が現代哲学に対して為しうる本当の貢献は間接的なものである。哲学は歴史の隅然のなかで発展してきた営みである。したがって、哲学の過去を知ることは、そして哲学と他の営みとの関係がどのように変化してきたのか、より幅広く人間が置かれてきた困難な状況と哲学がどのように関わってきたのかについて知ることは、哲学がどんな種類の営みなのかをより深く理解するための唯一の方法である。そして、哲学がどんな種類の営みなのかという問いは哲学に内在する問いである。

ジョン・マレンボン、周藤多紀訳『哲学がわかる 中世哲学』岩波書店、2023年、165-166頁。

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氏家 法雄 ujike.norio
氏家法雄/独立研究者(組織神学/宗教学)。最近、地域再生の仕事にデビューしました。