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【#創作大賞感想】 アオイ記念日。 Answering 蒼龍葵(敬称略)


思いがけないことが起こるものである。

奇しくも、日本ボクシング史上最強の名を欲しいままにする現代最強のボクサー井上尚弥が、世界スーパーバンタム級4団体タイトルマッチで、初ダウンを喫したあのパンチのようである。井上は語る。

「死角から入ってきて見えなかった」

まさに、それだとわたしも思う。
ただし、わたしが死角から食らったパンチを放ったのは、蒼龍葵というふしぎなnoterだ。

死角から食らったパンチのような紹介記事には、わたしが受けとれるギリギリの、最大の賛辞の言葉が書かれていた。

彼女とは、最近、知り合った。
宙をただようふんわりした印象に癒された。

ふんわり癒し系の彼女は、わたしのどこを気に入ってくれたのだろう。

さっぱり、わからない。

しかし、ありがたいことである。
感謝の気持ちを示し、お礼をしなければ。
ということで、彼女のホームをご紹介させていただく。こちらだ。わっ、イケメン♡  目の保養になる。


ひと仕事を終えたわたしは、編集画面を閉じようとした。

_が、何かが引っかる。

小さな違和感がある。
それは、ほんの小さな違和感であった。
気のせいにしようとしても、わたしのなかの何かが、それを引きもどす。まるで、喉に刺さった小骨のように。
その正体は、既視感だ。

思案する。
時は戻せない。
かわりに記憶のフィルムを巻き戻す。
あれは、確か、、、


(しばし、自分語りになるが、ご容赦いただきたい)

わたしは、上京後、日銭を稼ぐために喫茶店で働いていた。
地方の山奥、片田舎から出てきたわたしにとって、大都会東京は大きすぎた。
人と情報量の多さに、完全に圧倒されて過ごしていた。

素朴な身なりに無造作なくせ毛、挙動不審な眼をしたわたしは、捨てられた子犬のようだった。
過酷な生い立ちを隠していても、滲み出るある種の憐れみが、母性本能を刺激していたのかもしれない。

葵どんには、残念だが、わたしは岡田准一にも、竹中直人にも似ていない。面目ない。
どちらかといえば、顔も姿も薄い、うすうす君だ。氷菓子なら、確実に売れ残るだろう。
煎餅ならば、喜ぶのは赤子と老女ばかりである。薄井薄之介でござりまする。

見て呉れが良くないにも関わらず、わたしは、時々、女性にごナンパされることがあった。あゝ、大都会東京。
女性たちはさまざまな顔を持っていた。あゝ、大都会東京。
美大生、役者、料理人、美容師、画家、お金を沢山持っている人、そして、

ふたりは、看護婦(現看護師)だった。


その夜は、何もかもがうまく行かない夜だった。
まるで、わたしの日常を回している歯車のひとつが、前触れもなく狂ったかのようだった。
いや、わたしが気づかなかっただけで、前触れはあったのかもしれない。

誰にだって、そういう夜があるだろう。

ふたりは店が混雑する時間帯に来店した。
ケーキセットを注文し、珈琲を何杯か飲んだのではなかったか。談笑して過ごしていた。

閉店時間が近づいたため、わたしはいつものように店内に残る客に会計の声かけをした。
席で会計を終えた客は、ひとり、またひとりと、店を後にした。

古い柱時計が鳴り、閉店の時間を告げる。
店内にいたのは、わたしと、そのふたりの看護婦だけだった。
わたしは、ふたりの席へ行き、声をかける。

「申し訳ありませんが、閉店となります。お帰りのご支度を願えますか」
『はい、わかりました』と、ふたりのどちらかが言う。仮に、背の低い方、としておく。

一礼し、閉店の準備に取り掛かろうとしたわたしに、背の高い方が声をかける。

『コーヒー、美味しかったです。店員さんも、コーヒー好きなんですか?』
「ありがとうございます。ええ、俺も好きですよ、コーヒー』
『エチオピアが美味しかったかな、よくわからないけど』背の低い女がつぶやく。
「お好みに合ったようで良かった。エチオピアはコーヒー発祥の地といわれてます」

同じ嗜好に思わず、顔が綻ぶ。
客とのたわいのないひと言ふた言が、時として、奉仕者のわたしが人であることを思い出せてくれる。
ささやかだが、今日の終わりにいい仕事ができた。十分だ。
それで終わるはずだった。

『この後、予定ありますか?』背の高い方が言った。歯車が狂った音がする。
「え?」

この頃、まだ、ラッスンゴレライは存在していないため、わたしはその言葉をかわせずに食らった。
死角からのパンチであった。
そのパンチを食らったことで、わたしの意識は朦朧となった。どこかで、黒い眼帯をした出っ歯のおやっさんが叫ぶ。

(閉店だ!閉店だジョー!)

頭を振り、必死に体勢を立て直そうとしたわたしを、さらにパンチが襲う。

『店員さん、この後、予定ありませんか?』
「ありません、、、」かろうじて答える。

あるはずがない。
田舎出身の苦学生は、バイトの後は帰って寝ると決まっている。大都会東京。

『よかったら、この後、わたしたちに付き合ってもらえませんか?』
「付き合うって、どこにですか?」
『どこでも良いんですけど、わたしたち、まだ、ご飯食べてないんです。だから、どこか食べられるところ』
「あー、この時間だったら、丼ものくらいですよ」
『うーん、もうちょっとゆっくりできるところがいいかな。居酒屋とか』
「ラーメンはどうですか? 大通りに深夜まで営業してる店があります。割と評判のいい」
『〆は、やっぱ、米かな。おにぎりとか、お茶漬けとか』
「ああ、米」
『ふたりで行っても、あれなんで、一緒に行きませんか?』
「あー、でも、俺、金欠なんですよ。なんで、、、」
『奢っちゃいます。わたしたち、こう見えてお給料はたくさん出るんです。看護婦してるんで。体力勝負ですね。だから、米。あと、お酒。笑。お兄さん、お腹空いてないですか?』
「腹は減ってますけど」
『食べる元気がないですか?』
「いや、それくらいありますけど」
『じゃあ、ごはんだけ食べて帰ってもらったらいいんで、行きましょう!』

「うまく行かいない夜だ」わたしは呟く。
『歯車が狂ってるのね』背の低い女が微笑む。

二発目の死角からのパンチである。

その試合に、わたしが負けたことは言うまでもない。大都会東京の夜は、こんな風に終わらないものなのだ。

その夜に、ふたりの看護婦から聞いたことがある。
いわゆる病院の都市伝説のようなものである。
これは、そのひとつだ。

入院患者のなかには、どう考えても不思議な力を持つものがいるという。
不思議な力は、患者の病が悪くなるのに反比例して、強まるのだと言う。
その不思議な力は、患者が亡くなった後にも、なぜか消滅しない。消滅せずに院内を浮遊する。そして、しばらくすると、他の者に引き継がれていく、ことがある。


そんな話だった。
何でもありだな、大都会東京。


ここでわたしは、蒼龍葵というnoterを思い出す。
小骨のような引っ掛かりと既視感を感じさせる彼女の本職は、看護師だ。
そして、彼女には、ふしぎな力を感じさせる何がある。

さて、これは、彼女の魅力を紹介する記事だ。
だから、ひとつ、彼女の記事を紹介させていただく。わたしのお気に入りであることは言うまでもない。

この記事を読んで、彼女に秘められた魅力とふしぎな力、そして、わたしの話を信じるか信じないか。

それは、あなた次第である。


最後は、恒例の一首で〆る。

「このイボいいね」と君が言ったから
七月二十九日はアオイ記念日

参考文献|俵万智(1987)『サラダ記念日』


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