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大企業でキャリア自律支援施策を推進してきた人事の奮闘記 ~立ち上げ編~

こんにちは。HR Tech企業で組織開発・人材育成をやっているうえむらです。私は自社のキャリア自律支援を約3年間推進してきました。本記事では企業内でキャリア自律と向き合う難しさを人事の目線(n=1)で書いていきます。

前提として、私の所属企業は以下の属性を持っています。

  • IT企業 (HR Tech系)

  • 社員数2000名弱

  • 施策導入前は社内で「キャリア」という言葉を聞く機会は少なかった

タイトルには「大企業」と書いていますが、社員数2000名を大企業として括る点については少し悩みました。しかし企業規模が大きくなるほどキャリア自律が求められる側面があると考え、敢えてそのまま残すことにしました。


キャリア自律は突然に

キャリア自律支援施策を開始した当時、私はまだ人事に異動したばかりでした(人事になる以前はエンジニアとして10年近く自社で働いてきました)。上長との以下のような会話を経て、キャリア自律支援施策を企画・設計することになりました。

上長「うえむらさん、自社でキャリア自律をはじめることになったから、担当してもらえますか?」

う「分かりました。ところで、どういった背景でキャリア自律をはじめることになったのですか?」

上長「正直に言うと、分からないんだよね(苦笑) うえむらさんが嫌でなければ、一緒に考えてもらえないかな?」

う「いいですね、考えてみます。」

上長との1on1での会話より

当時の私は素朴にも「背景や目的が分からないのにやることが決まっているとはどういうことだろう?」と思いました。しかしすべてが決定されたものが降りてくるよりも自分で考える余白がある方が楽しいはずと捉え直し、前向きに取り組むことにしました。

企業内のキャリア自律支援施策はこのように突然降ってくることが多いのではないでしょうか。誰かが説明責任を果たしていないと捉える方がいるかもしれませんし、当時の私もそう感じたことがあったかもしれません。しかし今は別の考えを持っています。キャリア自律支援施策は「変わりゆく未来に向けて先んじて始めるものであり、かつ自然に浸透していくのが理想である」という性質を持っています。この性質を踏まえると、キャリア自律施策は突然やってきて然るべきものと言うこともできます。でもそれは後から分かったことでした。タイムリープして当時の私に教えてあげたい。

立ち上げ時の最重要事項は「なぜ今?」

キャリア自律支援施策を成功させるために最も重要なことのひとつは「なぜこの忙しい今やる必要があるのか?」というビジネス現場からの問いに納得感のある回答ができることです。

キャリア自律は等級・報酬・評価といった人事制度のハード面に直接影響するものではないため社員からは「やってもやらなくてもよいもの」と捉えられやすい側面があります。一方でキャリア自律は社員が主体的に取り組むものであり、会社から強制する方法では本末転倒となります。

このような制約がある中で納得感を醸成することは難しいものです。否定的な意見が社員から寄せられることもあります。その中で人事は「なぜ今取り組むべきか」について社員に一貫したメッセージを伝え続ける必要があります。答えは企業毎に異なりますし、人事パーソン自身が出していく必要があります。ここでは「なぜ今?」を言語化するために私が実践したアプローチを紹介します。

キャリア自律の先行研究をあたる

「キャリア」や「キャリア自律」という言葉は日常生活で目にする機会があり、社員にとって連想しやすい言葉だと思います。しかし人事としては先行研究をあたるなどして学術的な定義を理解しておくことで、自社のキャリア自律支援施策の方向性を定める際の迷いを減らすことができます。

私が施策を企画した際に最も参考にしたのは「キャリア自律を促進する要因の実証的研究(2016. 堀内泰利・岡田昌毅)」という論文です。参考までにChatGPTに論文の一部を要約してもらいました。

▼ キャリア自律を促進する要因

垂直的交換関係(上司との関係)、水平的交換関係(社内外の関係者との関係)、転機経験が仕事経験からの学びに影響を与えることが示されています。

仕事経験からの学びは、キャリア自律の心理的要因である職業的自己イメージの明確さ、主体的キャリア形成意欲、キャリアの自己責任自覚に影響を与えることが示されました。これらの心理的要因がキャリア自律に影響を及ぼす重要な中間要素であることが確認されています。

転機経験は、主体的キャリア形成意欲に直接影響を与える一方、垂直的交換関係は職業的自己イメージの明確さに直接影響を与えることが確認されました。これにより、キャリア自律の促進におけるこれらの要因の重要性が明らかになりました​​。

▼ キャリア自律に関する実践的な示唆

個人のキャリア自律の促進: 終身雇用や年功序列が揺らぐ中で、社員は会社に依存せず、自己の責任でキャリアを形成するキャリア自律が必要です。自己の転機経験や仕事経験を振り返る機会を持ち、自己の価値観や興味に気付き、職業的自己イメージを明確にすることが推奨されます。

上司や社内外の関係者からの支援の重要性: 上司や社内外の関係者からの支援と学びがキャリア自律に大きく寄与します。したがって、自ら上司や職場関係者との積極的な関係を構築し、支援を得ることが重要です。

人的ネットワークの構築: 社内に限らず、外部の人的ネットワークを構築し、そこからの刺激や学びを得ることも、キャリア自律にとって重要です。特に、ネットワーキング行動はキャリア・セルフマネジメント行動としての重要性が指摘されています。したがって、意識的に社内外のネットワークを開拓していくことが推奨されます​​。

キャリア自律を促進する要因の実証的研究(2016. 堀内泰利・岡田昌毅) の一部を要約

またキャリア論の歴史についてはリクルートマネージメントソリューションズの自律的・主体的なキャリア形成に関する研究の軌跡というコラムが参考になります。(私が施策を企画した時点ではこのコラムはまだ書かれていませんでした。)

自律的・主体的なキャリア形成に関する研究の軌跡
<図表1>多様なキャリアの理論 より引用

キャリア論によらず人事関連の論文の読み方・探し方については紀藤さんの以下の記事が参考になります。ぜひ合わせてご覧ください。

このように先行研究をあたることで、キャリア自律についての学術的な知識を得ることができます。こうした知識を持つことで担当者として企画に確かな根拠を得ることができます。

世の中における必要性を言語化する

キャリア自律は企業内に閉ざされたものではありません。そのため世の中全体で見た際の必要性を頭に入れておく必要があります。具体的には以下のような点が挙げられます。

  • 終身雇用制度の変化:かつての終身雇用や年功序列の制度が減少し、個々人が自身のキャリアを自ら設計し、機会を探求する必要が高まっています。

  • グローバル化と競争の激化:国際競争の中で生き残るためには、個人が継続的にスキルを更新し、新たな知識を取り入れる必要があります。

  • 働き方の多様化:働き方改革の影響で長時間労働が是正されたことによる影響やフリーランスや副業の増加など、多様な働き方が認められるようになったことで、自分自身でキャリアパスを設計する力が求められています。

かなりざっくりとした表現になっていますが、ここではイメージを掴めればOKです。上記のような点を踏まえつつ、自社の置かれた環境に影響する事柄を中心に掘り下げていくことで多くの社員が「仮にこの会社に居なかったとしても必要な考え方なのだな」と思えることを目指します。これが「なぜ今?」の背景にあたる部分となります。

社内での必要性を言語化する

「なぜ今?」を社員に説明する上での本丸が社内での必要性をいかに語るか、です。特にMission/Vision/Valueやカルチャー、過去からのコンテキストなど企業としてのナラティブにキャリアをどう組み込むかは納得感を醸成する上で外せない点となります。全社集会や社内ポータルなどでトップメッセージとしてキャリアと向き合っていく旨を発信することは必要不可欠です。

また同様に、企画・設計を行った人事担当者の主体としたメッセージも重要であると私は考えています。当時の私は言語化能力が十分に備わっておらず、社内での必要性を公式文書として明らかにすることはできませんでした。その代わりに社内報を活用し「企画者の思い」を社内発信することで、施策展開時に社員とのコミュニケーションを通じて必要性を訴えていきました。

会社のステージが以前とは異なってきたことによって、昔のように ”とにかく成長だ!若いうちは全身全霊を込めて働こう!”といった風潮ではなくなっていると思っている人も多いのではないかと私は思います。

待っていても成長の機会が勝手に訪れる可能性は少なくなっているのではないでしょうか。​​​(ただ機会を待っているだけの人は、自社にはほとんどいないと思いますが笑)

そうした中で、どうやって成長機会を生み出すかを考える必要があると思っています。

ですが、そもそもどう成長したいかは人それぞれ違っているのが普通ですし、みんな同じ成長・同じ経験積んでくださいと言われても「いやいや」ってなるじゃないですか。

じゃあ自分はどうありたいの?それはどうすれば実現できるの?

それを自分の言葉で考えて上司と一緒に実現プランを考えてできれば業務の中でその成長ができたらいいよね。という、ひとりひとりが意図した成長を遂げることができる会社にしたい。

そんな想いを込めてCareer Interviewを企画しました。

当時の社内報より抜粋

このように「先行研究を理解する」「世の中における必要性を言語化する」「社内での必要性を言語化する」ことで「なぜ今?」に対して自分たちの言葉で語るための材料を得ることができると私は考えています。

どこから始めるかを定める

キャリア自律支援施策は既に多くの企業で取り組まれています。担当者としては他社事例を参照したい気持ちが湧いてくるのは自然なことです。そしてその壮大さに圧倒され、多くのことをやらねばならぬと気を引き締め直します。

しかし私は立ち上げ時にはやることを絞るべきと考えています。特にキャリア自律の考え方が浸透していない企業では一度に多くの施策を展開しても社員が十分に情報を咀嚼することができず、不発に終わってしまう可能性が高いためです。

では何から始めるか。ここで先行研究が活きてきます。

「キャリア自律を促進する要因の実証的研究」では社員の仕事経験からの学びや気づきを促進すること上司や職場の関係者が積極的に関わることによって社員のキャリア自律を促進することができると結論付けられています。

キャリア自律を推進する上でまずは上記の2点を満たす機会を作れているかという点からスタートすると迷わずにすみそうです。私自身はそうした機会を「全社員」が「定期的に」持つことにピンを留めて企画を練っていきました。

仕事経験からの学びや気づきを促進する

企業内でキャリア自律支援を開始する段階ではキャリアに対する考え方や向き合い方が社員によってバラバラであることが多く「自己理解を深めろと言われてもどのように考えれば良いか分からない」という声が上がってきます。

社員が仕事経験から学びや気づきを得るためには、企業が思考のフレームを提供し、社員一人ひとりが自らの言葉で自分のキャリアを言語化するプロセスが有効です。フレームと言われると押し付けられるイメージを持つ人がいるかもしれませんが、まずは大多数の社員がキャリアと向き合うための迷いを減らし、向き合った時間を意味のあるものにすることが重要です。

私は自社でのキャリア自律支援にあたり、全社員が定期的にキャリアの棚卸しを行うために「Career Discovery Sheet」というフォーマットを作成しました。Career Discovery Sheetは下記の項目で構成されています。

  • キャリアアンカー

    • 価値観

    • 資質(強み・弱み)

    • 興味・関心

  • キャリアヒストリー

    • 職務経歴

    • 職務を通じて得た学び

    • 職務を通じて身につけた知識・スキル

  • キャリアプラン

    • 5年後 / 3年後 / 1年後になりたい姿・ありたい姿

    • なりたい姿・ありたい姿と現時点のギャップ

    • なりたい姿・ありたい姿に近づくためのアクションプラン

Career Discovery Sheetを設計する上で参考にしたのは厚生労働省から出されたジョブ・カードです。2022年10月以降は「マイジョブ・カード」としてオンライン上でジョブ・カードを作成・管理ができるようになり、マイナポータルからシングルサインオンできるようになっています。

上司部下でキャリアを対話する

先行研究からも上司によるキャリア支援を強化することの重要性が語られている通り、上司が与える影響は大きいと考えられます。業務やタスクのアサイン、業務遂行支援、内省支援といった日々の仕事経験において上司が部下のキャリアを理解していることが、部下のキャリアプランに対する効力感を生み出すことは想像に難くないでしょう。

自社ではCareer Discovery Sheetを作ることで自分の言葉でキャリアを言語化したものを基に、上司 - 部下間でキャリアについて対話する「Career Interview」という機会を設けました。

Career Interviewにおいては仕事上の成果物のレビューとは異なり、上司は部下のキャリアを傾聴し、理解を深めるための問いを投げたり、部下の思考の整理を側面支援する役割を持ちます。

Career Interviewのイメージ 

元々自社には1on1文化が根付いていたことから比較的スムーズに施策を導入することができましたが、キャリアについて対話することへのイメージが湧かない人も多く、上司側にも不安が広がる恐れがありました。そこで施策をスタートする前に上司向けのE-learningコンテンツを提供し、下記の点について認識を揃えるようにしました。

  • Career Interviewにおいて上司に求められる役割

  • Career Interviewの実施前~実施後までの流れ

  • Career Discovery Sheetについて会話する際のポイント

上記に加え、上司としてどのようなマインド・スタンスで施策に関わることが望ましいかについてもメッセージを出しました。このメッセージを考える際にはビジネス現場において上司がどのような気持ちで部下と接しているかに思いを巡らせたことをよく覚えています。

Career Interviewは、Career Discovery Sheet(CDS)に沿ってメンバーと会話をすることで、キャリアを深堀りするための3つの要素(キャリアアンカー/キャリアヒストリー/キャリアプラン)を無理なく理解できるよう設計しています。

上司である皆様は、日頃の業務や1on1などを通じて、メンバーについて理解し、どうすればメンバーが成長できるか、日々考えられていることと思います。キャリアという新たな観点から部下を深く知ることで、より一層、メンバー一人ひとりの成長をサポートして頂けると幸いです。

キャリアについて、誰にでも当てはまる正解はありません。大事なのは、メンバーが自分の言葉で表現をすること、それを定期的にアップデートし続けることで、分かっているようで分からない自身の考えに自覚的になり、自ら成長に向けた行動を取れるようになることです。上司の皆さんは、そのガイド役としてメンバーの言葉を引き出したり、気づきを与える問いを投げかけながら、メンバーをより深く理解するよう努めてください。

Career Interview E-learningコンテンツより抜粋

これらの機会に定期性を持たせる

仕事経験から学びや気づきを得る機会や、上司部下間でのキャリアの対話は一度やって終わりではありません。定期的に場を持ち、アップデートを重ねることが重要です。繰り返し実施していくことで以下のようなメリットを得ることができます。

  • 自己理解、他者理解を時間をかけて徐々に深めることができる

  • ライフキャリアに予期せぬ変化があった場合にも、自身にもたらす影響をタイムリーに言語化することができる

  • 世の中、自社、職場といった環境の変化を踏まえてキャリアを問うことで新たな可能性に気づくことができる

自社ではCareer Discovery Sheetの更新、Career Interviewの実施を年2回定期実施しています。約3年実施を続ける中で全社員の95%以上がCareer Discovery Sheetを更新し続けており、Career Interview実施後の面談記録の提出率も常に90%を超えています。施策を定着させるための課題や乗り越え方についてはまた別の記事に詳しく書きたいと思います。

導入ハードルを想定した運用を構築する

他の人事施策同様、キャリア自律支援施策は企画を固めれば終わりではありません。社員の理解を得ることは一筋縄ではいきませんし、全社規模で実施するには多くの工数が必要となります。導入のハードルをどのように乗り越えるかも重要な点のひとつです。ここでは私が社員との対話を通じて理解を醸成していった方法や、IT・システムを活用して運用工数を抑えた点について書いていきます。

小さくはじめて反応を得て、改善を重ねる

キャリア自律支援施策を導入する際に人事として最も怖いことのひとつは社員からの反応が読めない点にあります。大企業であれば様々な世代、様々な職種、様々な役割を持つ社員がいる中で、すべての反応を事前に読み切ることは不可能です。強気で全社導入することもできますが、私はそうではなく小さくはじめて反応を得るアプローチを取りました。

まずは人事部内でのトライアル実施を呼びかけ、任意参加で20名弱のメンバーが集まりました。これらのメンバーと共にCareer Discovery Sheetの作成を行い、何人かでCareer Interviewを公開実施することにしました。参加メンバーの中には自分ひとりでシートを書けた人、うまく言語化ができなかった人など様々な状況が見られ、展開時の反応として大いに参考になりました。また1on1での対話イメージを具体的に持つことができ、他の人事メンバーと共にどうすればより良い時間にすることができるかを議論することができた点も施策を作り込む上で大いに役立ちました。

余談ですが、人事が率先して自分たちの施策を実施してみることには様々なメリットがあります。企画時には予期していなかった問題に気づいたり、社員からの反応を予想しやすくなったり、運用面でのリスクを未然に防ぐことにも繋がります。ITエンジニアが自社サービスを社内で日常的に使用することをドッグフーディングと呼びますが、人事も人事施策をドッグフーディングすることで新たな発見を得ることができます。

人事部内でのトライアルを踏まえて改善を行った後は、全社展開に先駆けて手挙げ方式で社内セッションを開催しました。Sales、コンサルタント、エンジニアといった各職種で活躍する社員とパネルディスカッション形式で対談し、事前にCareer Discovery Sheetを書いた感想や、私とCareer Interviewを模擬実施した感想を話し合いました。施策と向き合う前後でどのような心境の変化があったか、実際にどのようにキャリアを言語化していったかなどについて率直な言葉が飛び交い、これから施策と向き合う社員からもSlackなどで多くの反応が見られました。

社内セッションの様子については録画視聴に加え社内報としても発信を行い、当日参加できなかった社員も様子を知ることができるようにしていました。また社内Slackを活用しセッションの実況チャンネルを作ることで、社員同士でゆるやかな交流が発生したり、参加できなかった人にも雰囲気を伝播させることにも繋がるといった効果も見られました。

このように施策を小さくはじめて反応を得ながらブラッシュアップを重ねることで、課題抽出・改善をある程度進めた状態で全社展開を迎えることができ、大きなトラブルなく導入を進めていくことができました。

IT・システムを活用する

キャリア自律支援施策はITやシステムとの関係が薄いように感じられるかもしれません。しかし、実際に運用する立場を経験するとそうではないことがよく分かります。特に施策を継続的に実施する上ではIT・システムの活用は欠かせない要素となります。

自社施策は全社員が半期毎にCareer Discovery Sheetを更新するというものでした。シンプルに運用する場合、人事はExcel等でフォーマットを用意しておき、社員は自端末上でシートを作成、提出するといった方法が思いつきますが、運用担当者としては以下のように様々な課題と直面することになります。

  • 提出管理(未提出者の把握/リマインド)が煩雑

  • 履歴管理(過去実施分の管理)を人事側で行う必要がある

  • フォーマット変更などの運用変更に伴うコストが大きい

たまたま自社がHR Tech企業だったこともあり、自社サービスを活用して上記のような課題は導入初期からクリアしています。加えて前回入力値を見ながらの入力や、上司 - 部下間でのみシートを参照できるといった要件についても、システムを活用することで満たすことができています。異動前後や兼務などのケースにおいても手作業は一切ありません。安全かつ低コストで運用を構築できるのは担当者としてはありがたい限りです。

IT・システムを活用し、運用工数を抑えることで得られる一番のメリットは「運用中の課題解決に工数を使えるようになること」だと考えています。本記事は立ち上げにフォーカスした記事となるため、この辺りの話についてはまた別の機会に書いてみたいと思います。

その他、立ち上げ期に気をつけること

本記事の冒頭でキャリア自律支援施策は「変わりゆく未来に向けて先んじて始めるものであり、かつ自然に浸透していくのが理想である」という性質を持っていると書きました。

キャリア自律の浸透にはそれなりに時間がかかります。担当者としては短期的なKPIの達成を目指したくなるものですが、多くの社員が継続的に実施できるよう中長期の視点で支援するのが良いと私は考えています。

またキャリア自律支援施策を導入する際には、ともすると従来の企業内での生き方を否定されたと受け取られたり、人生に踏み込まれる感覚を持つ人が現れることがあります。

そうした場面で重要なのは、私たち人事が社員と粘り強く対話する姿勢を持ち、相手を深く理解することやこちらの意図を理解してもらうことの両方を通じて「そこまで言うならまずはやってみるか」と思ってもらえることなのではないでしょうか。

人は変わりたくないのではない。変えられたくないのだ。

ピーター・M・センゲ博士

自分からやってみることにより発見が生まれ、その発見を誰かに話したくなる。誰かと話すことを通じて理解が一歩深まる。そうしたサイクルを繰り返していくことで、少しずつ意味が付与されていく。施策の立ち上げ時点では、その一歩目を踏んでもらうための支援が必要なのだろうと思います。

まとめ

本記事ではキャリア自律支援施策を立ち上げる際に担当者としてどのように向き合ってきたかについて紹介しました。企業内でキャリア自律と向き合うことには多くの難しさが伴いますが、私は下記の点を意識することで導入時の困難を乗り越えることができました。

  • なぜ今?を明確にする

  • どこから始めるかを定める

  • 導入ハードルを想定した運用を構築する

キャリア自律支援施策は導入して終わりではありません。導入後にも様々な課題と向き合いながら施策を発展させ、社員の意識だけでなく行動変容を後押しする機会を作っていくことが必要です。この辺りの話についてはまた別の記事で書きたいと思っています。

ここまでお読み頂きありがとうございます。本記事を通じて企業内でキャリア自律に関わる方とつながるきっかけが生まれると嬉しいです。興味を持って頂いた方はXなどでお気軽にご連絡ください。

それでは、また。

うえむら(@Uemura_HR)



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