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教材を深く読み解く思考法NO1

前回のnoteでお知らせしたように、本シリーズでは、道徳科の教材解釈を深める思考法について述べてまいります。本号では、その第一弾「相対主義で教材解釈を深める思考法」についてです。

1 相対主義で教材解釈を深める

相対主義の考え方とは・・・
「道徳的価値は、それを認識する側の観点によって多様な姿を現す」という考え方です。

簡単にいうと・・・
善い事も、見方によっては悪い事になる。
また、悪い事も、考え方によっては善い事になる。

という考え方です。

例えば・・・
盗みという行為は、盗まれた相手からすればであると言えます。
しかし、飢えている子どものために盗みを働いたという観点から見ると、
人によっては、だと考える人もいるのです。

このように、あらゆる物事には「反対の論」があり得る。

その考え方を教材解釈に応用できないか。
それが、本号の主張です。

「と言われても、どうやればいいの」と言われそうなので、次のように考えてみてはどうでしょうか。

①本当にAは正しい判断と言えるのか。
②AよりもBの方が正しい判断と言えるのではないか。
③もしそうだとしたら、Bを捨ててまで、Aを選択するのはどんな価値があるからなのか。

上記のように、教材を読み深めていくのです。
もう少し丁寧に説明します。
Aというのは、教材に描かれている道徳的価値(善いとされているもの)です。
*多くの教材は、子どもに教えたい価値が含まれています。それがAです。
Bというのは、Aを悪とする考え方です。
そして、一旦、Aの善を悪として見ることによって、教材解釈が深まっていくのです(図1)。

図1 相対主義で教材を読み深める

では、実際に定番教材を使って教材解釈を読み深めてみましょう。
「手品師」という教材があります。
次のような内容です。

あるところに腕は良いがその日のパンも買うのもやっとというありさまの貧しい手品師がいた。彼は大ステージを夢見て日々腕を磨いていた。ある日、町を歩いていると小さなしょんぼりとした男の子に出会った。声をかけるとその少年は父親が死んだ後、母親が働きにでてずっと帰ってこないので寂しがっているとのこと。そこで手品師は手品を見せて喜ばせたところ、大喜びしたその少年から「明日も来てくれるか」と問われ「必ず来る」と約束して別れた。その夜、手品師のところに仲のよい友人から電話がかかってきた。その内容は、明日の大劇場で手品が催されるが、予定した手品師が急病のため代行者を探しているというものであり、友人はこの手品師を推薦したという。彼は考える。手品師として世間に認められる千載一遇のチャンスではあるが、そのためには今夜出発しなければならない。だが、明日は少年と交わした約束がある。しばしの葛藤の末、手品師は友人にこう答える。「せっかくだが先約があるので明日は行けない。」そして手品師は次の日、大劇場ではなく一人の観客のまえで手品を演じるのであった。

この教材を、普通に読んでしまうと・・・

お金や名誉よりも、男の子の約束を守ったことがすごい。
やっぱり、小さな約束でも守ることが誠実なんだ。

となるでしょう。
しかし、本当にそうでしょうか・・・

そこで、先ほどの相対主義の思考法で教材解釈を読み深めていきます。

①手品師の「男の子の約束を守る」という行為は正しかったのか。
②約束よりも、大劇場へ行くのが正しい判断と言えるのではないか。
③もしそうだとしたら、手品師が約束を守ることを選択したのは、どんな価値があるからなのか。

このように比べて考えることで、これまで表面的にしか見えていなかった教材を、さらに深く考えようとする人間本来の思考が働き始めるのです(図2)。

図2 手品師を読み深める

そして、手品師が地位や名誉を失ってまで「約束を守りたい」と考えた理由を深めていきます。
すると、次のような手品師の思いが見えてきます。

たとえ小さな約束であっても裏切りたくない。
たった1人でも、自分の手品を喜んでくれた人を大切にする手品をしたい。
私が求めていた手品(夢)は、たった1人でも人を感動させる手品なんだ。

自分の心に向き合い、本当にやりたいことに気づいた手品師に誠実さがあるのです。
ただ、約束を守ることが「誠実」ではないのです。

上記のような、手品師の誠実さの本質が見えてきたら以下のようにねらいを具体化していきます(図3)。

図3 具体的なねらい

このように相対的に物事を考える事で、教材の深層が見えてくるのです。
これが相対主義で教材解釈を深める思考スキルです。

*今回は「手品師」の教材を例示し考えてきましたが、ぜひ、この教材で教材研究を深めて欲しいという要望がありましたら、コメント欄にお寄せください。

次回は、Pointの2つ目「人間理解から教材解釈を深める」について述べていきます。

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