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[読書] 新しい経営学

以前、紹介した経営戦略全史の三谷宏治さんの本。

この人は、さまざまな~を俯瞰的にまとめることが得意のようだ。
また、経営関連の歴史や事例にも詳しいので分かりやすい例で説明してくれる。
ページ数が多いのに分かりやすいし、安い(2000円)。このあたりの知識があやふやだと感じている人は持っておいた方がいいかもしれない。
経営学といわれると、経営者じゃないから、と思うかもしれないけど、企業に務めている人なら経営者の意向を読み解いて仕事したり、経営者に分かるかたちで企画や報告をする必要があるのでとても重要だ。もちろん個人で仕事される方は経営者そのものだ。

経営学といわれるものは様々な学問(6分野×2レベル)の集合体なので、どの学問がどの立ち位置でどのように役に立つのか俯瞰して分かっておくと理解が早いが、そのような本は無かったとのこと。

6分野
・経営戦略:ビジョン
・マーケティング:市場戦略
・アカウンティング:財務会計、管理会計
・ファイナンス:資本調達と資本政策、事業価値評価と意思決定
・人・組織:組織管理、人事管理、リーダーシップ、文化(企業、組織)、ナレッジマネジメント
・オペレーション:製品特性、オペレーションマネジメント

2レベル 
・会社レベル
・事業レベル

また、ビジネスモデルの4大要素は以下があり、それぞれを章立てで紹介している。

・ターゲット :誰に対して
・バリュー:どんな価値を
・ケイパビリティ:どうやって提供するのか
・収益モデル:採算はどうするのか

ターゲット(誰に対して)

分かりやすい例として、19世紀前半のアメリカ自動車市場におけるフォードとGMについて説明されている。

フォードは自動車が一般大衆に必要されるものとなる。と、読んで、低価格大衆自動車を作れる体制を作り(ケイパビリティ)Tフォードという国民車を作り上げた。しかし、アメリカ国民が裕福になっていく過程で、さまざまな層(金持ち、大衆、若者)によって欲しい車が違うと見抜き、企業買収を繰り返し、5ブランド(事業部)体制を作り上げた。

フォードのターゲットは「誰でも」であったのが、GMがターゲットを「さまざまな予算、目的をもった人たち」としたことで、フォードの凋落とGMの隆盛がはじまった。

他に面白い例としてインドのネット通販ストアキングの事例がありました。ネット通販はネット端末を使いクレジットカード決裁するのが一般的ですが、インドの地方ではネット端末もクレジットも持っていない人(使いたがらない人)が多かった。そこでストアキングはクレジットのない地方の人たちだけでなく、多数あった地方雑貨店をもターゲットした。地方雑貨店に自社の専用アプリを入れたタブレットやPCなどのネット端末を地方雑貨店に置いて、お客さんに店でネット端末で品物をみて注文と現金決裁してもらうようにした。注文した商品はしばらくすると雑貨屋に届くので、お客さんは雑貨店で受け取る。

このように、深く「誰に対して」を考えることが、ビジネスモデルの「ターゲット」視点となる

バリュー:どんな価値を

バリューはニーズの裏返し、必要なものが価値となる。のだけど、実際には少し奥深い。
例としてよく聞く話のドリルと穴についての説明がある。

顧客が必要と言っているものは「穴をあけるドリル」だけど、本当に欲しかったものは「穴」そのものだ。というやつで、サブスクリプションビジネスモデルの説明などで良く聞かれる話。この場合の「穴」はニーズより深い「ウォンツ」と呼ばれる。
本書が小気味が良いのは、それを更に深読みして、ウォンツは「ドリル」でも「穴」でもなく、DIYお父さんたちの「子供たちからの称賛」ではないかと読み解く。だからデザインが優れたかっこいいドリルが売れたのだと。

「使用価値」に内包する「中核価値(それがないと買わない)」「実体価値(それがあるものを買いたい)」「付随価値(あったらいいな)」の説明のなかで、
セロファンテープを切るときにギザギザにならない(マスキングテープもOK)テープカッター「直線美」の例があった。使用価値は同じ「テープを切る」でも、「綺麗に切れる」という実体価値(それがあるものを買いたい)があると価値が変わる。(僕も欲しくなりました)。

また、バリューの説明にはQCDS(品質、コスト、入手性、サービス)、PLC(プロダウトライフサイクル)とキャズム理論、などの説明がありました。

そして「ターゲット」+「バリュー」が基本戦略になり、コトラーの戦略3類型の話になります。
「コストリーダーシップ」「差別化戦略」「集中戦略」

ケイパビリティ:どうやって提供するのか

リソースとオペレーションの組み合わせ

・オペレーション (SCMとCRM、組織(機能と構造)
・リソース (人のモチベーションとスキル、施設、知的財産)

人のモチベーションとスキルの例で原田左官工業所の説明があった。
普通、見習い期間があってから塗ることを教えるのだけど、ここではいきなり塗るところから始める。その結果、見習い期間が半年から1か月になった。今の若い人のモチベーションを考慮した事例だ。

そしてケイパビリティといえばやはり70-80年代日本産業(キャノン複合機、ホンダ)の話。

マーケティング戦略で言えば無謀ともいえる日本企業のアメリカ市場へのチャレンジ。他では真似ができない圧倒的な生産力とスピード(ケイパビリティ)を武器に成功した。

ケイパビリティだけで戦略がなかったのか?いや参入障壁が高い分、入ってしまえば強いと思っていたのか?勝算があったのか?短いページながら様々な考察を紹介している。

収益モデル:採算はどうするのか

財務会計(PL,BS,キャッシュフロー)、管理会計、収益モデルなどが数十ページで簡素にわかりやすくまとめられている。まったく知らない人はまず最初にこの本のこの章を読めばいいかと思う。

収益モデルの例では、インドネシア市場でのエプソンのインクジェットプリンターの話が面白かった。プリンターといえば剃刀替え刃ビジネスモデルで消耗品で儲けるものだが、インドネシアでは改造インクタンクが横行して消耗品が売れずにビジネスモデルが破綻していた。そこでエプソン自らインクタンクモデルを開発し、故障が多かった改造モノを一掃したとのこと。このインドネシアでの成功は新興国での圧倒的なシェア拡大に繋がり、先進国にも普及し始めているとのこと。

おまけに巻末に経営戦略史が紹介されている。経営戦略全史をさらにダイジェストしたもの、これだけでも十分に面白い。

経営戦略全史と並び、非常に良書だと思う。


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