【本の感想】「子どもの算数、なんでそうなる?(岩波書店)」
「子どもの算数、なんでそうなる?(岩波書店)」を読んだ。
著者の谷口さんにはラーンネット・エッジで数学のカリキュラムアドバイザーをしてもらっている。
この本は子どもの学習プロセス上の誤りをただ訂正するだけでなく、その裏側にある奥深い理由を発見し、面白がろうという本である。
コナンやホームズやコロンボや古畑任三郎などの探偵や刑事に劣らず、教育に携わる者の最も重要な仕事の一つは観察である。この本には、人を深くじっくりと観察することの重要性が著されている。
人を観察していく糸口は違和感にあるだろう。普通はこうするはずなのにそうしない。普通はこうなるはずなのにそうならない。普通はこう言いそうなのにそう言わない。
古畑任三郎のエピソード「汚れた王将」に、坂東八十助演じる将棋棋士が、普通であれば「飛車成り」して勝つところをせずに負けるという場面がある。それは、手に取った駒の裏に血痕がついていて「成る」ことができなかったためであるが、そのような違和感から刑事や探偵は事件を解決に繋げていくのである。
子どもの学習プロセスにおける明確な違和感の一つは「誤り」である。この本では、いくつもの誤りの中に共通点や関連性を見出し仮説を立て検証しようという、著者の優しく辛抱強く見守る眼差しを読み取ることができる。
よく教育においては「見守る」「待つ」ことの重要性が語られるが、言うは易しである。しかしながら、これ無くして「観察」は成就しない。気づいた誤りをその場でいきなり指摘して許されるのは漫才師だけである。名刑事は、小さな違和感の一つひとつを手帳や心の中に留めておき、ここぞという時に差し出すのだ。
この本を手に取り、もし途中の文字式の連続に挫折しそうになったとしても、「結びー誤りは宝物」は是非読んでほしい。「誤り」への見方が変わり、他者のそれに軽々しく抵触するのを踏みとどまるようになるかもしれない。「誤り」は他の誰のものでもなく、その子自身のものなのだ。