安売りが、地方経済を破滅へと導く
首都圏に比べて、地方はほんとうに「安い」です。
売り手も買い手も、安いことが当たり前になってしまっています。
例えば、弊社のロールケーキは税込1,520円で、1,000円前後が一般的な庄内地域ではかなり高価だと認識されています。
一方、催事などで首都圏に出店すると、安いと言われることが多々あります。
東京では最低でも15,000円以上するような寿司が、弊社がある酒田では6,000円程度で食べることができます。(東京が高いのもありますが)
この価格感の違いは、山形県に限らずどこの地方でもみられます。
一見すると安くものやサービスが手に入ることはいいことのように思えますが、私は安くものを売ることが地方経済を疲弊させている原因の一つだと考えています。
安売りが生み出す、地方経済の悪循環
地方は、一部の例外をのぞき、押し並べて安い商品・サービスにあふれています。
これが地方経済の悪循環を生み出すのです。
安いものだらけの地方では、消費者も安いものを買うのが当たり前になっています。
例えば、その価格が少なからず価値となるギフトのような商材においても、安いものを選んでしまう消費者も少なくありません。
そして、供給側である個人事業主や企業も、「お客様のため」という思考停止の免罪符を振りかざし、安い価格を維持しようとします。
私が今まで見てきた地方の零細企業の中には、平成に入ってから一度も値上げをしたことがないようなところもざらに存在します。
平成元年の山形県の最低賃金は447円ですが、2023年現在では854円まで上がっています。
人件費に限らず、商売に関わるほとんどのコストは大きく増大していますが、頑なに値上げをしない経営者が地方にはわんさかいます。
この値上げに対する異常なほどの拒否感が、安さに慣れた地方の消費者を生み出しているのです。
安売りをする地方零細企業に未来はない
ご存知のとおり、今は原材料も水道光熱費も、ビジネスに関わるすべてのコストが増大しています。
インボイス制度もはじまり、廃業を検討している地方の個人事業主や零細企業も少なくありません。
このような状況下では、商品・サービスの安売りからの卒業は待ったなしなのですが、そう簡単にはいきません。
安いものがあふれている地方でコストプッシュ型の値上げをすると、消費者は他の安い商品に乗り移るだけです。
値上げをすると売れなくなるので、コストを削減するしかなくなります。
以前記事を書きましたが、零細企業は業績が悪くなると人件費を削りがちなので、人件費が真っ先に削られます。
そうすると、全体の可処分所得が減少するので、消費者がさらに安いものしか買わなくなってしまうという悪循環に陥ってしまうのです。
この悪循環から抜け出すためには、自分たちの商品・サービスの付加価値を高め、高くても売れる状態に持っていかなければなりません。
実際、弊社は商品の付加価値を高めることに大きく投資し、ここ2年ほどで最大50%程度の値上げを実施しましたが、売上は悪化するどころか倍増しています。
ですから、安売り競争の波に揉まれることもなく、地元に競合と認識している菓子店も存在しません。
また、安売りではいつか大企業に蹂躙されてしまうことが目に見えています。
最近、隣市の鶴岡にシャトレーゼができましたが、庄内のどこにそんなに人がいたのかと思うほどの大盛況です。
「安くて美味しい」を極めたシャトレーゼに、果たして地元のケーキ屋は勝てるのでしょうか。
東京人よりも裕福な地方の消費者
そもそも、地方の消費者は東京の消費者よりもお金持ちです。
この表は国土交通省が発表したデータをもとに作成した、2人以上の中央世帯の経済的豊かさをまとめたものです。
可処分所得は給料から税金や保険料などを差し引いた金額で、基礎支出は最低限の暮らしにかかる家賃や水道光熱費などを足し合わせた金額です。
この差額が娯楽など自分の好きなことに使用できるお金となります。
お金持ちが多いと思われている東京都と弊社がある山形県の他に、山形県の最低賃金(854円)と同等の県を、各地域からピックアップしました。
鳥取県の最低賃金は山形県と同じ854円、熊本県と高知県は全国で最も低い853円で、東京都の1,072円とは200円以上の差があります。
しかしながら、東京都の世帯は全国で42番目、したから6番目に好きに使えるお金が少ないのです。
意外ですが、山形県は全国で4番目にお金に余裕がある県なのです。
他の県も押し並べて東京都よりも自由に使えるお金が多く、東京の消費者よりも地方の消費者の方が裕福なのは一目瞭然です。
個人単位でも、地方の消費者は都民よりお金がある
前項の経済的豊かさは、2人以上の世帯が対象となっています。
山形もそうですが、地方は首都圏と異なり二世帯家族が多いため、世帯あたりの人数が多いです。
ですから、個々人の経済的豊かさを正確に知るためには、世帯人数を考慮しなければなりません。
総務省が発表しているデータから単身世帯を除いた世帯あたりの人員を算出し、可処分所得と基礎支出の差額(世帯が使えるお金)を人員数で割りました。
その結果、ほとんどの地方は東京都より裕福であることがわかりました。
個人単位で見ても、地方の消費者の方がお金に余裕があることがうかがえます。
東京都の消費者は全国的に見てもお金に余裕がないはずなのに、平気で1,500円のランチを注文します。
同じ日本人なのですから、本質的には地方の消費者も高くて良いものを購入するポテンシャルがあるはずです。
安売りに甘んじる事業者の責任は重い
結局は、ものやサービスを安く提供している事業者が悪いと言わざるを得ません。
ものやサービスの安売りは、安く買えることが当たり前だという消費者の考えを助長するだけです。
「安くていいもの」を提供する役目はユニクロやシャトレーゼのような巨人に任せて、私たちのような小規模事業者は「高くてストーリーのあるもの」を売るべきです。
たとえ裏にはコスト増の影響があったとしても、他社にはない強みやストーリーを消費者に伝えることができれば、ものの価格を上げても顧客は離れないはずです。
長く続いている事業者は、すでに他社には真似できないストーリーを持っています。
あとは、そのストーリーを目に見える形にしていき、それに見合った価格をつける。
それが地方経済にとってプラスになるのではないでしょうか。
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