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わたしの“一軍”香水、精鋭たち①
メイクして、髪をセットして、服を着て。
最後の仕上げに、香りをまとう。
出かける前のルーティーンは、高校を卒業した18歳の春からずっと続いています。あれから○○年、マダムになりフランスに住まいを移した香水オタクのわたしは、日本にいた頃とはまったく異なる香りをまとうようになりました……。
手持ちの香水は、合計で8個。
それぞれ、性格も香り立ちもブランドも違う、わたしにとっての精鋭たちです。
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まずは一番まとう回数の多い、「ジプシー ウォーター(GYPSY WATER)」を。
※スウェーデン発の香水メゾン、『BYREDO(バイレード)』のオードパルファム
そのトップノートは品川あたりのビル風のように、強く猛々しく突き抜けていきます。「プシュッ」と一吹きしたときの柑橘感があまりにも強いから、びっくりする人も多いでしょう。
若いオレンジを、素手で「パーン」って割ったような勢いです。でも、1分くらいですぐに落ち着きます。
するとあら不思議、メープルシロップのような、ほんのり甘い香りが生まれ落ちてきます。一抹の「理想郷」ノートに、心はときめくでしょう。
都会のビル風から、“異世界”に誘われているような心地もします。
これでは誰もが「匂いの跡」を追いたくなるかもしれません。
ビルとビルの隙間にうずまき状のワープゾーンがあって、身体が吸い込まれていく感じ。
いざなわれる、と言った方が良いでしょうか。
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さてミドルノート、わたしはあえて「サンクチュアリ」と呼びましょう。中盤から勢力を増してくるインセンス(お香)がそうさせているのかもしれません。
アイリスの香りも相まって、神々しい、インドの聖域みたいな香りがします。一方、サンクチュアリな香りはバニラとパインニードルの温かさに触れて、ますます「人肌」めいていきます。
舞台はインドかパキスタンか、あの辺りの大陸でしょう。
そこではみな冗談を言って、笑い合って、美味しいものを食べて、お互いの良いところを褒め称えてる。
……暴力や憎しみ、不平不満は向こうの世界に置いてきた。「人間愛」
この世界にあるのは、「人間愛」、これだけ。
そう、「ジプシー ウォーター(GYPSY WATER)」は人間愛の香りなんです。カルマが流れ落ちるような、神々しくも情緒的な香り。
そんな美しいラストノートが消えかかる瞬間、サンダルウッドがまた大仕事をします。白檀の何とも言えない、甘く切ない残り香が体温と混ざると、「ジプシー ウォーター(GYPSY WATER)」は香水を超えて「体臭」になるのです。
このラストノートが素晴らしい。本当に感じ入ってしまう幕引きです。
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ということで、「ジプシー ウォーター(GYPSY WATER)」には体温が必要です。
バニラとインセンスがメインなので、乾燥した気候に合うと言えますが、わたしとしては逆に「湿気」を推したいかな? 湿気と「ジプシー ウォーター(GYPSY WATER)」が混ざると、もっと人間らしくなる。人間味がもっと増すのです。
性別・年齢は問いません。キャラやファッションも関係なし。
現実と理想の「狭間」に鎮座するようなイメージが「ジプシー ウォーター(GYPSY WATER)」にはあるので、コンセプトに共感するならどなたでも。
肩書きを外して、人間にとって必要な最低限なものだけで生きてゆく。
しかしそれがかえって精神の豊かさを与えてくれ、“生きている”感覚で胸が満たされる。
・・・なんてことを連想させる、素敵な香りが「ジプシー ウォーター(GYPSY WATER)」です。