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魚住すくも【小説未満?】
2017年4月5日 20:46
その日も少女は佇んでいた。 誰も口をきかない。 少女も話すことなどない。 唯一の例外が、あの青年だった。彼だけが頼りだった。 でも、いつからか彼が来なくなってしまった。 ――寂しい。 少女は自分に言い聞かせる。 ――寂しいね。 こだまのように少女の耳に、言葉が響く。 *** *** *** ナオトは本日何回目かの溜め息をついた。
2017年4月5日 20:42
「……ぇ、ねぇってば!」 クミの声に、ナオトは我に返った。同時に周りの音が耳に入ってくる。「あ、悪りぃ、悪りぃ。ぼうっとしてた」そう言って、ナオトは氷が溶けて薄くなったアイスコーヒーを飲んだ。 しばらくすると、またすぐに物思いにふけってしまう。 ここのところ、仕事帰りに橋にいる少女にあっている。 二十分か三十分くらい話してから帰るのだけど、まったくもって彼女が記憶を取り戻す気配がな
2017年4月5日 20:33
昼に降った豪雨が嘘のようだ。(なんか、すんげぇムカつく夕焼けだな) 空を見上げてナオトはため息をついた。 昼に外出する時に運悪く、豪雨に当たってしまったのだ。近くに雨宿りする場所もなく、10分ぐらい雨の中を歩くハメになった。 積乱雲の雲間から、濃い金色の光が漏れている。 雲間から覗く東の空は藍色になっていた。もうすぐ、街の方まで藍色に染まっていくのだろう。 視線の先に橋が見えてきた。
2017年4月5日 20:18
橋を渡ろうとした時、ふとナオトは傍らにいた恋人から視線を外した。「……ナオト?」怪訝そうな顔で、恋人のクミが尋ねる。「いや、何か視線を感じたような気がして……」「ええ〜?」 ぐるりと周囲を見渡すが、こちらを見ている人間など誰もいない。「気のせいじゃないの?」クミはそう言うが、ナオトの表情は曇ったままだ。 ナオトにはよく、変な気配を感じることがあった。いわゆる霊感というヤツかもし
2017年4月5日 09:19
少女は闇の中にいた。なにも見えない、ここがどこなのかもわからない。どうしてここにいるのかすらわからなかった。ただ、帰るところはないのだ、と少女は気づいていた。 それでも、それなりに彼女は幸せだった。 ある時、少女の前に少年が現れた。少年に声をかけたが、気づかずに通り過ぎていく。 気づいてほしくてほしくて肩に手を伸ばしたが、少年は霧のように消えてしまった。少女はうずくまり、涙を流した。