その日も少女は佇んでいた。
誰も口をきかない。
少女も話すことなどない。
唯一の例外が、あの青年だった。彼だけが頼りだった。
でも、いつからか彼が来なくなってしまった。
――寂しい。
少女は自分に言い聞かせる。
――寂しいね。
こだまのように少女の耳に、言葉が響く。
*** *** ***
ナオトは本日何回目かの溜め息をついた。
(あー、あの子まだいるなぁ)
橋のたもとに、半透明の少女。夕焼けの光で少し見え辛くなっているが、ナオトには分かる。
(……今日も迂回する、か)
ナオトは心の中でつぶやいて、川沿いに歩き出した。
家から少し遠くなるけど、別の橋をわたるのだ。
良心が痛まないわけはない。あの子のことは気になっている。
おそらく、「探し物」が見つからなかったら、あの橋に縛りつけられたままなんだろう。
ただ、クミのこともまた気がかりだ。
あれから二週間ほど経っているが、クミからは連絡がない。
(やっぱ、ちゃんと話すべき、だよな)
溜め息をついて、スマートフォンに手を伸ばした。