魚住すくも【小説未満?】

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 その日も少女は佇んでいた。  誰も口をきかない。  少女も話すことなどない。  唯一の例外が、あの青年だった。彼だけが頼りだった。  でも、いつからか彼が来なくなってしまった。  ――寂しい。  少女は自分に言い聞かせる。  ――寂しいね。  こだまのように少女の耳に、言葉が響く。   *** *** ***    ナオトは本日何回目かの溜め息をついた。 (あー、あの子まだいるなぁ)  橋のたもとに、半透明の少女。夕焼けの光で

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      「……ぇ、ねぇってば!」  クミの声に、ナオトは我に返った。同時に周りの音が耳に入ってくる。 「あ、悪りぃ、悪りぃ。ぼうっとしてた」そう言って、ナオトは氷が溶けて薄くなったアイスコーヒーを飲んだ。  しばらくすると、またすぐに物思いにふけってしまう。  ここのところ、仕事帰りに橋にいる少女にあっている。  二十分か三十分くらい話してから帰るのだけど、まったくもって彼女が記憶を取り戻す気配がない。少女は橋とナオトしか見えていないようで、いつも橋の近くで佇んでいる。

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         昼に降った豪雨が嘘のようだ。 (なんか、すんげぇムカつく夕焼けだな)  空を見上げてナオトはため息をついた。  昼に外出する時に運悪く、豪雨に当たってしまったのだ。近くに雨宿りする場所もなく、10分ぐらい雨の中を歩くハメになった。  積乱雲の雲間から、濃い金色の光が漏れている。  雲間から覗く東の空は藍色になっていた。もうすぐ、街の方まで藍色に染まっていくのだろう。  視線の先に橋が見えてきた。  二、三日まえに、奇妙な視線を感じた場所だ。  ――すみません。

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           橋を渡ろうとした時、ふとナオトは傍らにいた恋人から視線を外した。 「……ナオト?」怪訝そうな顔で、恋人のクミが尋ねる。 「いや、何か視線を感じたような気がして……」 「ええ〜?」  ぐるりと周囲を見渡すが、こちらを見ている人間など誰もいない。 「気のせいじゃないの?」クミはそう言うが、ナオトの表情は曇ったままだ。  ナオトにはよく、変な気配を感じることがあった。いわゆる霊感というヤツかもしれない。  自分にそんな能力があるなんて認めたくはない。  でも、旅行に泊まった

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