読書感想『社会人のための現代ロシア講義』
東大で社会人向けに行われた、現代ロシア論講義(2014年秋)がベースだそうです。なので情報がちょっと古いかなと思って読み始めたら、完全に今の状況につながる内容で、時代や時間って続いているんだなと感じました。
図書館で借りた本でそんなに時間かけて読めなかったので、簡単なメモとして残します。気になる方は買うなり借りるなりして読んでみて。
本の構成
講義形式で、1講から10講までそれぞれ専門の先生が書かれています。各講の最後には講義でのQAも掲載。
ロシアについて、歴史、ナショナリズム、クリミア問題、法律、経済、シベリア、都市/ビジネス、エネルギ―、北極海、今後のゆくえ、、と様々な観点でまとめられています。
各講を紹介できるほどしっかり読めてないので、全体感からさらっとまとめます。
感想、テーマ別
社会主義について
社会主義について、を個別に取り扱った項目はなかったですが、最初のロシアの歴史(現代史)の中で触れられています。「社会主義が現実のもとして存在した唯一の例」という取り上げ方が特徴的です。
なぜそれが為せたのか?という部分に歴史的な背景があり、それが20世紀になっても温存された中世世界という話。けっきょく、あれだけマルクスが頑張っても成し遂げられなかったのは、資本の個人所有という前提が西欧で出てきてしまった後だったから、という話で、それがロシアではまだなかった。だから社会主義が一定の現実として実行できたよね、という感覚ですね。この理解は、ロシアの歴史背景を論じている他の本や論文でも同様の主張が読めると思います。
英雄ロシア
世界を救ったというストーリーですね。今回のウクライナ侵攻でも基本的なストーリーに世界を救った国という自負が見て取れます。世界を支配しようとしたモンゴル帝国、ナポレオン、ナチスを止めた(倒した)ロシア、という物語。
環境要因を自分の力と誤認してしまう現象って、放っておいても当面は拡大を続けているIT業界の中の人達(お前が成長したんじゃないよ、業界が拡大してんだよ)みたいだなぁって思いました。
クリミア問題
これはほとんど知らなかったので衝撃的でした。民衆という存在が育成されないまま周辺の世界だけが先に進むと、こういうことになるんだなぁ、みたいな感じです。ちゃんと統治してくれるならなんでもいいよ、という発想になってしまいがちなのがソ連だが、実際周辺の独立した国達はそんなこと思ってなかった、みたいな。気になる方は色々勉強するとよいです。
経済
エネルギー以外の産業に再投資ができなかった国、という説明のされ方で、実際に数値的にも(我々が生活する中でもロシア産の製品がないよねという認識面でも)たしかにと納得できる話でした。ソ連崩壊のダメージがこういうところにも残り続けて、結果としてソ連時代への回顧や、西側への敵意が育っているのかもなと感じられます(想像)。
北方領土
ここの自分は全然詳しくないのでなんとも言えないですが、この本を読む限りだと日本が対応をマズったんだろうと思える部分が大きい。また、中国や韓国との領土問題を全く異質の話なのだと理解できます。両国がしっかり問題として認識していること自体に意義があるんだなぁという話ですね。
以上です。