どんな顔をして観ればいいのかわからなかったビクトル・エリセ監督「瞳をとじて」
何十年も前、映画を真剣に、夢中になって見始めた頃にビクトル・エリセの「ミツバチのささやき」そして「エル・スール」に出会った。
本当に魅了された。
今でも、好きな映画を3本選べ、と言われたら、まあ日によって変わるけれども「ミツバチのささやき」は3本の中にたぶん入るし、「エル・スール」も10本選べ、だったら入るかもしれない。
「エル・スール」から10年ほど経って撮られた「マルメロの陽光」は前2作ほどすごいとは思わなかったが、今でも時折ふと思い出すような映画だ。
それから31年ぶり、
(その途中に、オムニバス映画の中の短編が1本あったが、それはあまりピンとこなかった)
「マルメロの陽光」はドキュメンタリー映画だったので、劇映画としては「エル・スール」以来41年ぶりの新作である。
本当に楽しみにしていた。
だから、
画面に映るものすべてを、
スピーカーから出てくる音すべてを、
残らずまるごと受け止めたい、
何一つ逃さずに受け止めたい、というくらいの気持ちで見始めた。
それがいけなかった。
考えてみればそんなことは不可能なのだし、
しかも自分はもともと集中力が続かないたちだし、
しかもこの映画の上映時間は169分である。
結局最初の30分ほどで集中力は力尽き、その後はただ漫然とスクリーンを眺めることになった。
正直かなり退屈した。
もっとも退屈したから駄目な映画という訳でもない。
退屈だなあ、と思いながら観終わって、でも後からいろんなシーンが次々に思い出されて、そうしているうちになんだかすごく良かったような気になってくる作品もある・・・タルコフスキーとかアンゲロプロスとか、作品によってはゴダールとかも自分にとってはそんな感じだ。
ただ「ミツバチのささやき」や「エル・スール」はまったく退屈しなかったけれど・・・。
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この映画は失踪した俳優についての物語である。
俳優の失踪のため撮影が中断してしまった映画の監督が主人公。
失踪してからもうかなりの年月が経っており、主人公はその中断した映画を最後に監督を辞め今は作家になっている。
未解決事件を再度検証する、みたいな趣旨のTV番組でその俳優の失踪が取り上げられたことから話は動き出す。
という感じの話。
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ところどころで、観た後にふと思い出すような好きなところはあった。
でもなんて言うんだろう、そこまで鮮烈な印象は受けなかった。
こっちが漫然と眺めていたからかもしれないが。
あと「ミツバチのささやき」の中の重要なセリフが、この映画の中でも出て来た。
しかも「ミツバチのささやき」と同じ俳優の口からそのセリフが出る。
正直、どんな顔をして見ていれば良いのかわからなくてちょっとポカンとしてしまった。
あれをどんなふうに受け取ればいいというのだろうか。
「ミツバチのささやき」から「瞳をとじて」までの長い年月の監督の魂の旅路に思いをはせて感動すればいいのだろうか?
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ある種、「映画についての映画」でもある。
そして、それが良い出来であるか悪い出来であるかに関わらず、「映画についての映画」っていうのはなんだか胡散臭いところがある。
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noteをはじめとしたSNSでこの映画の感想を観ても、ほとんどが絶賛でちょっと鼻白んでしまう。
まあ最初に書いたようにぼくの見る姿勢が最初から間違っていたのは確かなので、自分がちゃんと見ることが出来たとは思えないし、だから他人の感想に文句を言うつもりもないのだが、ただ単純に聞いてみたいのだ。
「本当に全然退屈しなかったの?」
「本当にこの物語に169分の上映時間が適切だと思うの?」
「この映画の監督がビクトル・エリセじゃなくて誰か無名な映画監督だったとしても、やっぱり同じような評価をするの?」