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「面白い」は、一人の頭の中でつくらなくていい。 分業制で書いたnoteが本に載った話

いつか本に自分の関わった文章を載せたい。
そんな夢が、唐突に叶った。

いや、正確には著者として名前が載った訳でもないのだけど。
本当に唐突にその機会が来てしまった。
出版とは程遠い文具屋の私が、編集として関わった文章が、本当に意外な形で本に載ったのである。

それは、noteの人気クリエイターである、岸田奈美さんが開催した「キナリ杯」がきっかけ。
キナリ杯は、新型コロナウイルスの影響で、政府が緊急経済対策として国民に定額給付した10万円。
それを元手に賞金を用意し、面白い文章を募集した岸田さんの私設コンテストである。

岸田さんの想いに共感したたくさんの人によって賞金は最終的に、総額100万円、応募総数は4000件を越える一大イベントとなった。
その入選作品の一つとして、私の編集したnoteが掲載され、電子書籍として発売されたのである。

今日は、noteで文章を書き始めて、色んな事態が絡み合わさって私の夢が叶い、更に大切なことに気づいた私の話を聞いてほしい。
きっと、noteで何を書けばいいか悩んでいる人の大きな力になると思う。

noteと出会って、もう一度走り出して、そして止まった

本に文章を載せたい。
そもそも夢の起源をたどれば、小学生の頃の担任の先生にたどりつく。

悪いことをした生徒がいれば厳しく叱る。
階段の手摺りで滑って遊ぶ生徒がいれば、昔お尻から落ちて内蔵破裂した生徒の話を30分話して釘を刺す。
今思い出しても、なかなかパンチのきいている、昔気質な女性の先生だった。

そんな先生は本に詳しくて、図書館をよく利用している私に色んな本を勧めてくれた。
「ゲド戦記」やミヒャエル・エンデの「モモ」「ジム・ボタンの冒険」「果てしない物語」といった図書館に置いてある名作をたくさん教えてくれた。
眼鏡の奥で「どうだ、面白かっただろう」と満足そうにニヤリとするその眼差しは、いまでも忘れられない。

その後も本の虫として、中高と学生生活を過ごした私。
漠然と小説家になりたいと思っていた。
自分の書いた文章が、本になって誰かに読まれて楽しんでもらえたならば、どんなに嬉しいだろう・・・と夢に見ていた。

まあ、そんなに世の中甘くもなく、自分に厳しくもない私は、ちょっと読みやすい説明文が書けるぐらいの社会人になり、今は独立して小さなお店の店長になった。

ただ、お店はいかんせん交通の便が悪いところにある。
頼みの綱の地下鉄の延伸工事も3年遅れると発表され、途方にくれていたところであるnoteの記事に出会った。

それが冒頭の岸田奈美さんのnoteの記事。
ブラジャーを試着しに行った話は、男性の私でもあっという間に笑いながら読み終わってしまう文章で、とても楽しめた。

そして同時に思った。
こんな風に取り扱い商品のことを案内できたら、みんな読んだり、もしかしたら買ったりしてくれるんじゃないだろうか・・・と

それから、毎週欠かさずnoteで商品を紹介していると、セレクトショップのnote投稿者自体が珍しいということもあって、少しずつ読まれるようになった。
今では、noteなしにお店をやっていくことは考えられないくらい。
文章力で戦えないところは、ECプラットフォームやtwitterとうまく組み合わせることで補っている内に、その取組自体をnoteの運営サイドの人にも評価してもらえるようにもなった。

でも、一方でコンプレックスもうまれた。
岸田奈美さんのような、自分の体験談を抜群に面白く描くなんてことは、ひっくりがえってもできそうもないぞと。
書けば書くほどに、自分の実力のなさを実感した。

(余談だけど、先日映画館で再上映されているもののけ姫を観に行った時もそうだった。
大きなイノシシの乙事主(オッコトヌシ)様の「戻ってきた。黄泉の国から戦士たちが帰ってきた」というセリフを聞いて、岸田奈美さんのえげつなさを感じた。
聞けば思い出すけれど、こんなセリフがブラジャーの試着の場面と結びつくというのがもう、すごすぎる。)

さて、そんな走り出した足が止まり始めた最中に、岸田奈美さんのキナリ杯は発表されたのであった。

もう、定額給付金でコンテストを始めるという発想自体がえげつない。
白旗をあげたくなる。
というかそもそも勝負も試合も発生していない。

けど、どうにかしてこのコンテストに挑みたい。
そんな衝動が胸の中で蠢き始めた。
ただ、とても普通にやったら戦えない。

悩みに悩んだ私は、キナリ杯のページをノートパソコンに表示させたまま、パソコンを持って隣のお店に行くことにした。
息抜きじゃない。
おもしろい文章が書けないのであれば、おもしろいことをしている人と組めばいいと気づいたからだった。

文章力以前に「おもしろい」が中心にある大切さ

お隣のお店「スーパーファンカスティックマーケット」の店主 青野さんはすごく面白い人だ。

店舗近くまで御堂筋線から伸びてくる予定だった地下鉄が、3年遅れることが決まった瞬間からその人間力と人脈で、仲のいいお店とタッグを組み、陸の孤島と言っても差し支えないお店にイベント開催という武器を使ってお客さんを呼び込んできた。

中でも極めつけにすごかったのが、前職から9年間一緒に働いてきた女性スタッフ坂野さんの送別イベント

坂野さんを最高のサプライズで送り出すために、坂野さんの写真をプリントしたシャツを作って知り合いに販売し、10万円以上するブーツをプレゼントするという企画を考え実行に移したのだ。

坂野さんには当日まで内緒にするために、在庫の保管も出荷作業も自宅で閉店後に行う徹底ぶりで、最後まで見事にやり遂げた。
その、自分の利益のためではない行動は、お店のお客さんとの代え難い連帯感にも繋がっていたし、なによりすごく面白かった

なら、自分で記事をコンテストに応募するよりも、このイベントのことを青野さんが書いた方がよほど面白い記事ができるのは間違いない。

コンテストの締切まではギリギリだったけれど、青野さんと相談して快諾をもらい、さらにはイベント当日写真を撮ってくれていた「職業 庭師で、写真やグラフィックデザインも手掛ける西田さん」からも写真を提供してもらって、私は編集者として参加し、チームで記事を書いてコンテストに挑むことにした。

まずは自由に青野さんに記事を書いてもらい、その構成や細かい言葉遣いについてアドバイスをさせてもらって、そのサイクルを期限ギリギリまで何度も何度も繰り返して内容を詰めていった。
締め切りも近くて文章で描くことが大変なイベント当日のことは西田さんが細かく撮ってくれていた写真をもらい、コマ送りのように配置して、記事はなんとか完成した。

投稿した時点でものすごい数の記事がコンテストに投稿されていたので、岸田奈美さんも表彰する記事決めてるから入選は難しいかなあ・・・なんていいながら、結果発表をドキドキしながら待った。

そして、結果として約4200件の応募の中から、50程度の入選枠として選ばれた。
発表された作品の中に、青野さんの記事を見つけた時には思わず声をあげてしまった。
慌てて青野さん電話をしたら、JR大阪駅のホームにいた青野さんも「鳥肌がたったわ」と興奮して言っていたことは、今も鮮明に記憶に焼き付いている。

そして何より。
岸田さんからのnoteへのコメントが嬉しかった。

おもしろい、泣ける、文章がうまいっていう審査基準より、まず強く思ったのが「こんなnoteが書ける店主さんがいるお店のスタッフさんは、本当に幸せだろうな」ということです。

スタッフさんとお店への優しい愛が、あふれている。noteを企業やお店ではじめるケースが増えてきていると思いますが、青野さんの記事をぜひお手本にしてほしいなあ。好きになってしまいますよ、ここのスタッフさんのことを。

前半はたくさん文章を書いているのに、いざお別れの当日となった後半は、ほとんど写真だけで進む構成も、ダイレクトに寂しさや愛しさが伝わってきてすごいです。特に、足袋ブーツをもらった時のスタッフさんの顔を、何枚もの写真にわけているところ。っていうかこういう写真を当日、撮ってることもすごいんだよ。これはすごい。

【キナリ杯受賞発表】敗者復活優勝・一発逆転優勝 より引用

たぶんこの記事は、当事者である青野さんだけでも書けないし、編集している自分だけでももちろん書けなくて、写真を撮ってくれた西田さんだけでも無理だ。
けど、青野さんを中心にチームになって取り組んで、それぞれが得意なことをやりきれたなら、こんな風に読者に想いを届けられるのかとようやくこの時に気づけた。

そして、自分の中でなにか憑き物が落ちたような変化があった。
それは、面白い文章は自分の中から生み出さないといけないと思っていたけれど、実はこんな風に分業制で記事を作ったっていいんだと気づけたからだろう。

雑誌では当たり前なことが、noteなら個人事業主でも実現できる。
その事実が、私の目の前の霧を払ってくれたように感じられた。

企業やお店のnoteのお手本にしてほしいという言葉も頂いているけど、必ずしも発信者は「自分だけで」情報発信をしなくていい。
それは個人の場合は特に、自分の言葉を届けるためにチームを組んでもいいということなんだと思う。
写真が得意な友達や、文章が得意な知り合いを頼って、チームでnoteを使って情報を発信する・・・というのはありなのではないだろうかと思う。

「面白い」は、一人の頭の中でつくらなくていい

つい最近読んだ竹村俊介さんの「書くのがしんどい」という本でも、「コンテンツメーカー」ではなく「メディア」になろうという話が書いてあった。
とどのつまり、必ずしも自分ですべての内容を生み出さなくてもいいと言えるのではないだろうか。

それぞれが持てる技能をもちよって、おもしろいことを紹介しあえたり、協力しながら発信することが出来たら、一人で原稿用紙にむかってしかめっ面で唸っているより楽しいしおもしろいことができる。
そんなことに、私はこの経験を通じて気づくことができた。

そして、今回の記事の反響は記事を投稿した青野さんにも、写真を撮影してくれた西田さんにも、そして編集をした私にとっても得のある経験になった。
青野さんは記事へのアクセスが増えてお店を新しく知ってもらうきっかけになったし、イベントの時に販売したシャツを売って欲しいという問い合わせも入ったそう。また、この送別会当日だけでは伝えられなかった想いを、noteの記事という形にして送別されたスタッフである坂野さんに読んでもらえたというのがすごく良かったとおっしゃられていた。
また、西田さんは自分の写真の使われた人気記事という実績を元に、写真の仕事のポートフォリオとして記事を活用できる。

そして私は、こうやってnoteを書くネタをゲットできている。
そして更に、気づけば自分が編集として関わった文章が本に載って、販売されているというのだから面白い。

キナリ杯には、私達の書いたnote以上に面白い記事がバンバン載っている。
(ついでに私の姿もちらりと写真で映っている)
noteでも読むことはできるけど、まとめてダウンロードしておいて移動時間に読んだり、お家時間にお供してもらうのもオススメ。

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