シュレディンガーの吏員

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シュレディンガーの吏員

HMDです│千葉大学教育学部21卒▶全体の奉仕者🐹│写真/アニメ/映画/ドライブ/近代文化建築/人文表層/雑念備忘録

最近の記事

SS#1 [小説] 私をみつめて

ふと目線を移した先の、ガラス越しの地下鉄駅の出入り口からは、すっかり冬の装いとなった人々が、絶え間なく行き来しているのがよく見える。 11月最後の土曜日。テーブルに差し込む午後2時の日差しは、もうあとちょっとで沈んでしまいそうなほど、ほのかにあたたかく、やわらかい。 美織はゆっくりと、手元へ目線を戻した。 両手を添えているカップはすっかり冷めている。 視界の先にもう一つあるカップには、湯気も立たなくなったコーヒーが、まだ半分ほど入ったままだ。 「1時間…もうダメだな」 ロー

    • #10 宙に浮かぶ選択、多様性を添えて

      1960年代というのは、見合婚が恋愛婚の割合を越えていた最後の時代であった。祖母が結婚したのもちょうどそのころで、聞くところによれば、一応は祖父との恋愛婚により今に至ったようである。 当時性も加味すれば、中でも祖母の結婚は、あるいは周りから羨望の対象となるような瞬間があったのかもしれない。 今年10月の暮れ、そんな祖母と2人だけで話す時間があった。精神的慰労という静かな目的のための、有休の水曜日のことだ。 祖父のいないところで、祖母はよく愚痴を言う。 それは別に、今に始

      • #9 疎外される感情

        中高在学の折、手書きの日記を書く習慣があった。これまでにも何度か言及してきた私の過去のいち習慣であるが、事あるごとに反芻するこだわりの訳は、ひとえに、その習慣を通過してしまったが故に、私の精神の暗がりが形作られたという確信によるものだ。 日記の現物にあっては、ところどころに日付だけの頁が差し込まれているなど、決して毎日書きつけるほどの筆まめではなかった(文筆に限った話ではなく、生活を構成する諸事に対する基本的姿勢が、かような漫然さと楽観さを伴っている)。 しかし怠惰な日記

        • #8 何やら世界が、愛を語り始めている

          「かつてこれほどまでに、世界が愛を語ったことがあっただろうか。」 歳を重ねるという経験はやはり新鮮で、なお淡々としている。 かつて私たちを取り巻いていた青春の命題たちは、通過されるべき「段階」の1つとして着実に整理されていった。 今となっては、通知票に並んでいた数字も大会の輝かしき順位も、旧知を交えた2次会の酒の席にあって2分程度、少人数の場を持たせられるかどうかに過ぎない。(わたしたちの羞恥心と冷静な自己省察は、こういった場面でいかんなく発揮され、それら過去の栄光の表明を

        SS#1 [小説] 私をみつめて

          #7 文明の戸締まり(宇宙戦艦ヤマトより)

          宇宙戦艦ヤマトシリーズは、アニメ第1作目の放送から実に半世紀以上を経ながらも、続編やリメイクが度々製作される息の長いコンテンツである。 直近では2013年に放送を開始した「宇宙戦艦ヤマト2199」から始まるリメイク版シリーズが続いているところだ。 同作はメカニックの細やかさや戦闘シーンのかっこよさ、敵が味方になる瞬間、ここぞというピンチで増援がやってくる王道ストーリーがいかにも男子的好奇心をくすぐるのだが、それと併せて、作品に通底している登場人物(登場文明、とした方が正しい

          #7 文明の戸締まり(宇宙戦艦ヤマトより)

          #6 反出生主義に対する現状の考えについて

          時おり、私が反出生主義者であるかのような前提で話をされることがある。(恐ろしいことに)もう3年前のことになるが、反出生主義をテーマに卒業論文を執筆したことが始まりだ。 仮にも当時、私が地理学のゼミ、あるいは歴史学のゼミ等に所属していた学生であれば、社会人になってからもここまで卒論のネタがこすられ続けることもなかっただろうとも思う。私は同期の卒論テーマをことごとく忘れているというのに。 哲学的、倫理学的な学術論文にはどうしても、単純な事実、実証・実験の類が指し示す結果の羅列、

          #6 反出生主義に対する現状の考えについて

          #5 ”可能性”に足元をすくわれないために

          人生100年時代の、まだ早朝にあたる20代半ばでさえ、心のふとした間隙に入り込み、ずしんと重くぶら下がる後悔は、すでにいくつもある。 実に緩慢な25余年の生にでさえ、遂に和解できずに別れたかつての友人や、あの場であえて言わなければよかった言葉等々、じっくりと思い返せばじわりじわりと浮かんでくる場面は枚挙にいとまない。 ただ、それらの後悔が、「本格的に身体を蝕みはじめる」までには、おそらくもう少し、あと十数余年ぐらいの猶予は残されているだろうとも思っている。 「過去は変えられ

          #5 ”可能性”に足元をすくわれないために

          #4 自分のために、自分勝手な創作を

          ジブリ映画「耳をすませば」では、主人公・雫が人生で初めて書き上げた小説を、地球屋店主の西老人に読んでもらうシーンが印象的である。 街灯り煌めくベランダで、ありがとう、とてもよかった。と評する西老人に、雫は泣きそうになりながら、自らの不出来な作品に対する否定の言葉を重ねていく。 「そう、荒々しくて率直で、未完成で。聖司のバイオリンのようだ。」 「よくがんばりましたね。あなたはステキです。」 「慌てることはない。時間をかけてしっかり磨いて下さい。」 西老人はそのように言って笑った

          #4 自分のために、自分勝手な創作を

          #3 飛び降りた自分を想像すれば、少しは生きたいと思えるかもしれない

          ※少々直接的な表現があります ストレスフルな世界において、”死にたい”と、わりとカジュアルに思えてしまうのには、人が今ここで生きている限りはまだ、その死を選択できる内にある、という立ち位置的な要因があるのではないかと思う。 このまま生きるか、いっそ死んでしまうか。 例えば夕食は肉か魚か、あるいはレジャーで山に行くか海に行くか…といったベタな逡巡にも似たような泡沫希死念慮は、きっと無意識の内にだって心の中をうごめいている。 では死にたくなったときにはどうすればよいか。

          #3 飛び降りた自分を想像すれば、少しは生きたいと思えるかもしれない

          プロボックス/サクシード 内外装カスタム記録ノート

          2023年1月に中古で購入したトヨタ・サクシード(DBE-NCP160V)で使用している快適・便利アイテム等、内外装カスタムを掲載している記事となります(随時更新の可能性あり)。同車種以外のオーナーの方でも、カスタマイズの参考となれば幸いです。 0.プロボックス/サクシードのざっくりオーナーレビュー(1)おすすめポイント シンプルイズベスト…最近の車にありがちな余計な装飾や過度な装備が除かれ、必要な装備がコンパクトに収まっている。カスタムもしやすい。 初心者🔰歓迎…誰で

          プロボックス/サクシード 内外装カスタム記録ノート

          #2 たとえ何かを損なっていても、演じなければいけない大人像

          ただ年齢を重ねれば大人になれる訳ではない。私たちが限りなく「大人」に近似した存在であるためには、ただ生きてさえいれば手に入る年齢以外にも、自ずから積極的に求め、備えておいたほうが望ましいアクセサリーが数多くある。 それらは、然るべき学校の卒業証書や自分を養うことのできる食い扶持、または新たな家族と、その下に招かれる未来の子どもといったものなど。 このような定式は、多様化が浸透した令和の時代にあっても、暗黙裡に、社会を色濃く塗りつぶしているように見える。 ◆ 私たちはある1

          #2 たとえ何かを損なっていても、演じなければいけない大人像

          #1 始めるは易く、続けるは難し

          あからさまにシリーズ化を予期したタイトル画像。 「深夜のモノローグ→深夜の省察ノート(R5.9.30更新)」とメインタイトルを銘打ち、記念すべき最初の記事からして既に「続けるは難し」と予防線を張る臆病さ。 社会人の自覚など部屋の片隅に捨て置き、深夜1時にこの記事を作成している点からしても、この取り組みが持続可能なものかどうかはかなり怪しい。 細々とした日々の雑感をテキストに残しておきたい。 そんな欲求から形式的かつ試験的に始めてみたこの「深夜のモノローグ」と題した記事シリ

          #1 始めるは易く、続けるは難し

          社会人374日目|所感

          学生時代の年度の切り替わりと言えば、自身の学年が1つ上がるちょっとした高揚感、親しんだ先輩や同期との別れを代償に、新たな後輩・同期との出会いを得るといった、平坦な日々の連続に鮮やかな転機をもたらすイベントであったと思い返す。 社会人として2年目に突入したこの春。それは3月末に降って湧いた人事発令、拍子抜けするほどシームレスな移行・引き継ぎ作業、そして異動者と新任者があっけなくすげ代わったところでスタートした。そこには一寸の感激も無いと言ってしまえばそれまでだが、市民の変わら

          社会人374日目|所感

          「夏物語」の結末から見える、反出生主義の弱さと決して徹底されることはない宿命について。

           小説よりも新書・実用書を好むのは昔からの趣向で、机と一体になった天井まである本棚の、おおよそ8割方の体積は後者によって占められている。そのせいか、あえて小説を読むということになれば、限りなく現実に近しいストーリー(それらは往々にして現実の苦しさ、寒々しさを如実に語るような)を好むという偏屈な性である。  川上未映子作の「夏物語」を知ったのは、反出生主義をテーマに卒業論文を執筆している最中であった。(論文については以前にnoteの記事でまとめているし、反出生主義自体、最近で

          「夏物語」の結末から見える、反出生主義の弱さと決して徹底されることはない宿命について。

          マイクラ世界の歴史と社会を考察する②|バニラの古代帝国はいかにして地球の7倍もの地域を支配したのか?

          【※本記事は茶番記事です。】 ===前回の記事はこちらから=== ===以下本編=== 1.街道の不在は何を意味するか? 前回の記事において、地球の七倍もの面積を有するマインクラフトのバニラワールド(以下「バニラ」)には、かつてその全ての地域を支配する古代帝国があったのではないか、という仮説を立てた。各地に点在する、建築規格の統一された寺院群、都市構造に類似性が見られる村々、そして共通通貨として機能しているエメラルドが、その手がかりであるということも挙げている。  話は

          マイクラ世界の歴史と社会を考察する②|バニラの古代帝国はいかにして地球の7倍もの地域を支配したのか?

          マイクラ世界の歴史と社会を考察する①|統一性と広域性から見える、古代帝国の存在

          【※本記事は茶番記事です。】 0.謎に満ちたバニラワールド 実際にプレイしたことはなくても、耳にしたことがある人は多いはず。今や教育現場での活用も始められている、サンドボックスビデオゲーム、マインクラフト(通称:マイクラ)。  様々な種類のブロックで構成された世界で、アイテムを作り、拠点を築き、そして最終的にはエンドの支配者たるエンダードラゴンを倒すことで一応のゴールに到達するというこのゲーム。様々なModを活用することで、新たなブロックやアイテムアイテムを増やし、多種多

          マイクラ世界の歴史と社会を考察する①|統一性と広域性から見える、古代帝国の存在