町田樹のためにシューベルトの即興曲を弾いた話
ピアノの先生には『銀河鉄道999』『七色いんこ』『エースをねらえ!』を習ったと以前書きました。
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でもピアノも一応習っていたわけで、
小学生から中学校2年生くらいまで通った結果、茶ぶどうは
両手でピアノが弾けます。
ピアノが両手で(一応)弾けてよかった話
何を言っているのかと思いますが、
マジで「両手で弾ける」だけです。
あと、楽譜が一応読めます。
具体的なことを言うと、ツェルニー40番を真ん中くらいまでやりました。
やった、といっていいか怪しい。弾けてなくても進んだので(汗)
聞かせられるレベルに達した最高峰の曲は、ショパンのノクターンですかね。あの一番有名なやつね。高校の音楽(選択)で弾いて、一応及第点だったというね。
曲がりなりにも「両手で弾ける」となると、
教会で賛美歌の伴奏を頼まれたりすることもありました。
「できない! 無理!」って泣きながら練習したのを覚えています。
真面目だったんだな。「適当」ができなかったあの頃……
さて、ヘボでも、一応楽譜が読めて両手で弾けるレベルまで行っててよかったな、と思ったことがあります。
スケーター・町田樹の曲に触れられたから。
※敬称略
君は町田樹の2分50秒を覚えているか
町田樹(まちだ・たつき)。ニュースで彼の名前が流れていたのは今からもう10年近く前。
2014年のソチオリンピックに出て、一気に名前が売れたけど、
オリンピックの直後の世界選手権。
ショートプログラム「エデンの東」こそは、伝説の2分50秒だった。
あのとき羽生結弦が優勝して、それに何も異議はないけど、
私の心は全部全部、町田樹が持っていった。
今でも「エデンの東 町田樹」でYoutube検索すれば見られます。
2014年世界選手権、World Championshipです。ぜひ見てください。(圧)
もうすごい今見たけど泣いてる。
最後のスピンから歓声が上がっていて、フィニッシュポーズ決める前にお客さんが立ち上がり始めるんだけどもう涙で前が見えない。
でな、この町田樹はフィニッシュから後も美しいの。見てくれ(強圧)
一つの身体からこれほどの興奮が伝播するのか波及するのかと、ただただ圧倒される。
控えめに言って、あれは神がかっていた。
リアルタイムで(テレビだけど)観戦できたのは僥倖としか言いようがない。
君は町田樹の「継ぐ者」を見たか
その町田樹が電撃引退(世界選手権の派遣が決まった場での、突然の引退発表!)をして、
ショーで最初に発表したプログラムが「継ぐ者」。
(これもYoutubeで見られます)
もうね。人間じゃないよこの美しさは。
森の奥深くに誰も知らない泉があって、そこに時折姿を見せる妖精なのよ。
普通フィギュアスケートのプログラムって、アイスショー用でも4分ほどに収めるものなんですが。
「継ぐ者」は上演時間6分弱、という異例の尺。
これは、曲をカット・つぎはぎしないで丸々使用したためなんですね。
フィギュアスケート競技ではショートプログラム、フリープログラムそれぞれ規定の時間があって、それに収まるように曲をつぎはぎしたりカットしたりするんですよ。
だから、「え?」みたいな謎編曲が超有名曲で行われてめっちゃ違和感、みたいなの日常茶飯事なんです。
でも町田樹は、ショーだからできたんだけど、
6分弱のピアノ曲を一切カットせず、そのまま、滑ったんです。
シューベルト作曲「4つの即興曲 作品90/D899」の第3番。
私は「継ぐ者」の公演を見に行き、感動して千秋楽のチケットも買ってしまい(別角度から見るぞ!!)、
そのときの日記
「もうマジで妖精」
「6分とかウソやろあっちゅーまやったで」
「はける姿勢が美しすぎてこういう彫刻ありそう」
「拍手すらできん。時よ止まれ、お前は美しい…!」
「何かの極致を見た」
「行かないで!」
「May God bless Tatsuki!」
♭群れなす即興曲の森へ
……その4日後、私はシューベルトのImpromptu3番を開いていた。
母がエレクトーンの先生をしていたことがあって、家にけっこう楽譜あるんです。
楽譜を追って(♭多すぎ辛い)、よたよた弾いてみた。
私には無理なやつだ、とすぐわかった。
でも、この音符の連なりが完璧に表現されるとあの音楽になるのだ、と想像することはできた。
……とにかく、やれるところまでやってみよう。
その後、1か月以上がんばって練習し、
なんとか楽譜に書いてある音をを95%押さえることができるようになった。
(手が小さいので物理的に届かないところがあります)
(技術的に届かないところも多々あります)
ごまかしながらでも弾いてみて初めてわかるのは、
「あのメロディラインを弾き起こせるのは凄まじい演奏技術」ってことでした。
ピアノやったことある人はわかると思うのですが、
ある程度のレベルの曲になると、書いてある音符を全部押さえただけでは、曲にならないんですよ。
メロディは数多の音符の中に埋もれている。
シューベルトのこの即興曲も、プロの演奏家が弾くからメロディラインがあのように際立ってくるわけで、技術もへったくれもない私などが弾いてみたって、同じ曲には到底聴こえないんです。
弾いてるスピード以前の問題です。
やっぱり私が手を出していいレベルじゃない。
演奏することによって初めて開かれる扉
それでも弾いてみてよかったと思うのは、
こんな音が鳴っていたんだ、と気づかせられたから。
聴いただけでは、ただ流れていただけの伴奏部分が、
こんな精妙なゆらめきを見せていたのか、と。
曲の繊細さ。
私には1000分の1だって再現できないのですが、
「あ、こうなっていたんだ」とわかる。顕微鏡で拡大してみたような感じ。
合唱でも感じるんですが、
中に入って演奏してみて初めて見える「層」がある。
上から水面を見下ろすのと、
水中に潜って上を見上げるのと違うように。
だから、「下手でも弾いてて楽しいの?」という当然の疑問に対して言えることは、
演奏者は、どれほど下手でも、その人だけの音楽を脳内で聴いている
ということ。
たとえその音楽を「実演」できなくても……
ただ聞いただけなら、「シューベルトか、きれいだね」くらいで済んでしまっただろう曲。
それを町田樹は「深化」させた。私の中に。
それは新たな芸術だった。
オタク、歴史を刻む
その後、町田樹は本格的に研究者の道を歩みはじめ、氷上でのキャリアを潔く終わりにしてしまいます。
2018年10月6日のさいたまスーパーアリーナ。(もう5年!)
私もスケーターとしての町田樹を見送るために参戦しました。
あのときのお客さんは、みんな、彼がパフォーマーとして氷とお別れをする見届け人であり、証人だった。
同日発売された『町田樹の世界』。
彼のスケート人生の集大成のようなムック。
その読者参加ページ、「町田樹振付作品に贈る言葉」。
(本人じゃなくて作品に、というのがまた彼らしい)
贈られたメッセージは一部が掲載され、掲載されなくても全件ご本人に届くという。
この企画が発表されてから、ファンは
「夏休みの宿題来たわー」
「200字にどうやって収めろと……?」
とおのおの愛を凝縮しまくって、まっちーが喜びそうな言葉を選び、文章を磨き、心をこめられるだけこめて投稿した。私ももちろん投稿し……
そのうちの1つが、載ったんですよ!!!
しかも、フォントでかい!? 目立つ感じで載ってる!!
私のメッセージが、ピックアップされてる!!!
……くらくらっ
オタクとして足跡を残してしまった……
(なお、3500件超のメッセージはすべて、3巻セットの文庫本になってご本人にだけプレゼントされたそう)
ここ数年は全然ピアノに触れていなくて、でもこないだなぜか思い出して、即興曲90-3を弾いてみた。
全然弾けなくて笑えるくらいだったんですが、
私の脳内には静かに、森が広がり、
泉がわきいで、
妖精と化した町田樹が、
また踊りはじめてくれたのでした。
(最近すごいプロジェクトを発動されたようでめでたい
今でもこんなに美しく氷上で舞えるなんて感動↓↓)
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