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【和訳】「あえてバカになろう」…"Weird Al" Yankovic - Dare to Be Stupid

 自分は、語学力の向上を目的として毎週noteに洋楽の歌詞の和訳を載せている者です。今週は、ウィアード・アル・ヤンコビックが1986年に発表した"Dare to Be Stupid"を訳してみました。一聴すれば、というよりPVを見れば一目瞭然、当時から現在まで高い人気を誇り続けているニューウェイブバンド、DEVOのパロディ・ソングです。


Devo - (I Can't Get No) Satisfaction

 訳しておいて何なのですが、自分はアル・ヤンコビックについてほぼ一切の知識を持ってません。この曲だけは知っていました。あとは、ずっと他人の曲の替え歌とか歌って活動してる事くらいしか知らんです。
 じゃあ何故またこの曲を訳そうかと思ったのかというと、あの、純粋にアル・ヤンコビック目的でこの文を読んでいる方々には全く関係無い話なんですが、今現在、12月が師走とはよく言ったものであり、現実の生活が超弩級に忙しくて正直このままだと帰郷の準備が確実に終わらないというラインまで既に来ていまして。もう男はつらいよの寅さんばりにアタッシュケースだけ引っ提げて里帰りするしかない程の状況に追い込まれていて。笑ゥせぇるすまんのスタイルで。
 それで難しい曲を訳す暇が無くて、売れた作品のパロディという志の低い曲であれば大してややこしい歌詞でもなかろう、翻訳も短時間で終わるであろうと踏んでこの曲を選んだのですね。全然そんな事はありませんでした。
 ただ、自分は高校時代の英語の成績が最低であり、そこから中年になって独学で勉強を始めた(あと最終学歴が高卒)という「基礎が全くなっていない」人間なので、毎回の翻訳の際、"could"とか"would"とかの意味の把握に莫大な時間がかかるのですが、この曲は助動詞が"can"しか出てこなくてその点は凄く楽でした。「バカ・ポップかくあるべし」と心から思いましたね。「出来ておる」と。
 
 と、いろいろ書いた所で訳詞を貼りたいと思います。タイトルの"Dare to Be Stupid"は、「あえてバカになろう」という意味です。このPVの内容は基本的に、その時に流れている歌詞が示す状況に対応しているので、動画を見ながらの方がリリックの意味が分かり易いと思います。分かった所で何か得する事があるのかどうかは別として。

"Weird Al" Yankovic - Dare to Be Stupid (HD Version)

チェーンソーを置いて 僕の話を聞いてくれ
我々が闘いへと参加する時が来た
君達のお子さん方が カウボーイへと育つ時が
トコジラミが咬むがままに任せる時が

全部の卵を一つのバスケットにまとめた方がいい
孵化する前に君のニワトリを数えた方がいい
美味しくなる前に何本かワインを売った方がいい
掻きたい程の痒い箇所に気付いた方がいい

揉める限りのチャーミン(※1)をもみもみしろ
ウイップルさん(※2)がいない間に
電子レンジに頭を突っ込んで日焼けするんだ

口に食べ物を詰め込んだまま喋れ
君にエサをくれるその手に噛みつこう
食いちぎるのなら もっといいぞ
何ができるのか?
あえてバカになろうよ!!

木製コインを何枚か持って
"ミスター・グッドバー(※3)"を探そう
今こそ君の魔力を解き放て
やり方を教えてあげるよ
君は あえてバカになれるんだ!!

君は もう片方の頬だって差し出せる
ただ単に窮地に陥る事もできる
山盛りのスシを食べ終わってから
チップを置き忘れる事だってできるぞ
あえてバカになろう!!
来いよ!あえてバカになろうよ!!
とっても簡単 みんなが君を待っている
レッツ・ゴー

モグラが掘った土を使って 山を作るべき時が来た
僕が手伝ってあげてもいいよ
溢れたミルクに泣いている暇はもう無いんだ
今は 君のビールの為に叫ぶ時なんだ

住居を構えて、家族を作って、PTAに参加して
分別のありそうな見せかけとシボレーを購入して
パーティー・タイムと洒落込もう!
君が落ちぶれて 彼等に見放されるまで!
でも、大丈夫!
君はあえてバカになれるんだ!!

魚にツバを吐きかける様に!
木に向かって吠え立てるが如く!
無料で欲しい物なら買ったらいいと助言する様に!

あえてバカになろうよ!!そう!
あえて バカになってみよう!!
とっても簡単 あえてバカになろうよ!!
みんなが君を待っているぞ
あえて バカになろう!

寝る暇が無い様な生活をして
贈り物にケチをつけよう
マッシュポテトが君の友達になってくれるさ

君はコーヒー・アチーバー(※4)にもなれるぞ
家の中に座って
"リーブ・イット・トゥ・ビーバー(※5)"も観れる
未来は 君次第なんだ
それで、君は何をする気なのかな?
"バカになろうよ!あえてバカになってみよう!!"
僕、今なんて言った?
"あえてバカになろう!"
教えてくれよ、僕は今なんて言ったんだ?
"あえてバカになろう!!"
いいぞ!
"あえてバカになろう!"
夜を徹してバカになるんだ!!

"あえて バカになろうよ!"
さあおいで みんなに加わろう!!
"あえて バカになろうよ!"
もっと大きな声で!!
"あえて バカになろうよ!"
聞こえないぞ!!!
"あえて バカになろうよ!!!"
いいぞ!今度は聞こえた!
"あえて バカになろうよ!!!!"

あえてバカになろう!さあ行こう!!
あえてバカになろう!!あえてバカになろう!!
あえてバカになろう!!あえてバカになろう!!
あえてバカになろう!!あえてバカになろう!!


※1 チャーミン 米国で流通しているトイレットペーパーの商品名
※2 ウィップルさん "チャーミン"のテレビCMに登場するキャラクター。眼鏡をかけたおじさんで、大型ストアに陳列されているチャーミンが柔らかすぎてついつい揉んでしまう客に向かって"Don't squeeze the Charmin!!"と注意を飛ばす
※3 ミスター・グッドバー ハーシー社から出ている、ピーナッツキャンディが入ったチョコレートバーのお菓子。もしかしたら当時、木製コインと交換できたのかもしれない
※4 コーヒー・アチーバー 

80年代の若者達の間にあった「コーヒーは老人が飲む物だ」という考え方を払拭し、コーヒーの売り上げを回復させる為に行われたキャンペーン。「コーヒーは精神を変えてパフォーマンスを向上させる飲み物」なのだという触れ込みの元、デヴィッド・ボウイやカート・ヴォネガット・ジュニアがこのキャンペーンに起用されたらしい。それが下らないムーブメントなのだとアル・ヤンコビックはこき下ろしているのだろう
※5  リーブ・イット・トゥ・ビーバー アメリカのテレビコメディ番組
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 かつて大槻ケンヂ氏はエッセイにおいて、「プロレスラーに向かって『八百長ー!!』と野次を飛ばすのは、ゴジラに向かって『ぬいぐるみー!』と叫ぶ程に野暮な行為でしかない」という旨の主張をしていました。
 自分がこの曲のタイトルが「あえてバカになろう」という意味なのだ、と知った際にまず思ったのが、「DEVOというバンドに向かい、『あいつらは、わざとバカな事をしているんだ!』と叫ぶ事は、果たして野暮な行為なのだろうか、それとも反対に核心を付いている批評なのだろうか」という事でした。
 仮にアル・ヤンコビックがローリング・ストーンズのパロディ曲を発表し、そのタイトルが「あえてロックしよう」だった場合、それはもうストーンズのメンバーやファン達から、比喩では無く、死ぬ程怒られるでしょう。ブルースをルーツの一つに持つロックという表現は、人間の魂の底からの真実の叫び、訴えなのだという事実、悪く言うならば「暗黙の了解」があります。「"あえて"とは何事だ」という反応は実に真っ当なものでしょう。
 モノマネという、「対象の特徴を誇張して表す行為」を通し、アル・ヤンコビックが"Dare to Be Stupid"で暗に主張した「DEVOは、あえてバカをやっているんだ」という視点は、そのまま一つの疑問となって帰結します。「それならば、DEVOは本当は何がしたいのか。あえなかった場合、DEVOは何をやるのか」と。そこに答えはありません。DEVOの本心や本質とかは、DEVOのメンバーのパーソナリティを熟知しているコアなファンにしか分からないでしょう。
 「個人個人としての本心が分からない、というか他人の本心を意に介さない」というやり方は、そのままDEVOがストーンズの"サティスファクション"をカバーした際に採用した方法でもあります。「俺は全然満足できないんだ!」という心からの訴え、それをエモーショナルな欲求から引き離し、ボーカルを単なる「そういう状況を述べているナレーション」と見なし、ギターやドラムと同等の音として並列してエモーションとは無縁な秩序を構築する。その行為とは、「サティスファクションは、俺達にはこの様に魂が入っていない音に聴こえる。ストーンズは、本心では実は"満足できない"とか思っていないのではないか?つまりストーンズは、"あえてロックしている"のではないか?」という、ロックという概念の根底すらを揺るがす、DEVOからの危険な問い掛けになります。
 
The Rolling Stones - (I Can't Get No) Satsfaction (Live) - OFFICIAL

 "Dare to Be Stupid"でアル・ヤンコビックがDEVOに向けた視線とは、かつてDEVOがローリング・ストーンズへと向けていた辛辣で冷たい視線を戯画的に誇張した物であります。その「ロックを観察する者」としての態度を誇張した結果、"Dare to Be Stupid"は観察者としての安全圏に引き籠もり、それ故にDEVOが"ロック"という概念に向けてチラつかせていた鋭い刃を失ってしまいましたが、それと同時に、本家よりも更に自らの本心や本質から遠く離れてしまうという、変わった形での過激さを得る事に成功しました。要するに、"Dare to Be Stupid"において、アル・ヤンコビックが何故「あえてモノマネをしている」のか、そのモチベーションが見ているこっちにはほぼ何も分からないのです。彼は、本当は何がしたいのか?
 不明。
 その様な状況下において見え隠れする、「俺の本心など他人には分からないだろうが、とにかくバカをやり続けて儲けてやる!」という"Dare to survive"、「あえて生き延びる」、「生き延びる為に何でもする」というアルの姿勢こそ、SNSの普及によって逆説的に他人の真意が分からなくなった現在に、改めて参照されるべき態度なのではないでしょうか。自分はそう思います。

"Weird Al" Yankovic - Fat (HD Version)

 という事で、最後にアル・ヤンコビックのPVをもう一曲貼ってこの文を終わります。自分はこの映像を初めて見たのですが、「俺はこういう下らない事で金稼いで高いワイン飲んでんだよ」という本人の気概がビンビンに感じられて、鑑賞しながらいつの間にか画面に向かって敬礼を掲げておりました。Dare to Be Stupid!!!!!Yeah!!!!!

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つやつやと実っている稲穂
なあ、頼む……たったの5ドルでいいんだって… 確かに昨夜はツキが無かったよな、ベニーがヘマ打っちまって…いや、イカサマじゃねえ、生まれ故郷のアリゾナに誓えるぜ、ただ必勝法があるのさ…次は負けねえよ…なあ、ハニー、5ドルでいいんだ…マンハッタンの夜景の様に俺を愛してくれよ…

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