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人手不足の時代に、企業の管理職に必要なこと


 日本では、すでに人手不足が大きな問題となっています。それが今後はさらに加速していきます。このような時代の変化を受けて、企業の経営者や管理職はどのようなことを考えれば良いのでしょうか。

人口減少と人手不足

 日本の総人口は、2008年にピークを迎え、その後は急速に減少しています。ただしすべての世代が均等に減っている、また減っていくわけではありません。注目すべきポイントとしては、高齢者は今度も増加しますが、15歳から64歳までの生産年齢人口は人数だけでなく人口に占める割合も減っていきます。このことから人手不足が更に深刻化するわけです。
 また人口減少は、世代間だけでなく、空間的に見ても不均一に発生します。日本全国を500mのメッシュで切り分けて、2015年の国勢調査を基準とした2050年の将来人口推計が国土交通省から公表されているので見てみましょう。なお実際にはすべての都道府県について公表されていますが、ここでは関東地方のみ掲載しました。

出所:国土交通省「500mメッシュ別将来推計人口データ(H30国政局推計)」

 これをみると、一部の利便性の高い地域のみが赤色になっている、つまり人口が増加し、そのほかの地域は大幅に人口が減少することがわかります。また誰も住まなくなるエリアもあります。つまり、空間的な選択と集中が進むわけです。今まで以上に、一部の地域にギュッと集まって住むわけです。
 その際に、誰が赤いエリアに移動し、誰が従来の地域に住み続けるのでしょうか。おそらく若者はより利便性が高い地域に移動するのに対して、高齢者は住み慣れた地域に住み続けることが予想されます。結果として、高齢者が住み続ける地域では慢性的に人手不足に悩まされることになるでしょう。

人手不足により日本型雇用はどう変わる?

 それでは人口減少が進み、今以上に人手不足が深刻になると、私たちの働き方はどのように変化するでしょうか?
 人手不足の環境では、人材の確保を行う際に、これまでのように贅沢は言えません。これまでの日本企業は、「なんでもやります、どこへでも行きます、何時まででも働きます」という従来型の総合職の正社員(無限定正社員)を中心として組織されていました。もちろんそのサポート役や専門的な業務を担う一般職や短時間労働者、派遣労働者の役割も重要でしたが、原則としては自社の仕事に全力投入してくれる人が中心だったのです。
 しかし人手不足が深刻になると、これからは「育児をしている、介護をしている、持病がある」といったような理由で働き方に制約がある人にも中心的な役割を担ってもらう必要があります。また、このような条件下で働く人は、同時に転勤ができない、また時間外労働もできないといった制約に直面しています。
 そして別の会社ですでに働いていて、副業としてなら働くことができるという人や、自分のキャリア形成の観点から仕事内容を限定して雇用されるといった人にも働いてもらう必要があるでしょう。

 このように人手不足により、企業が採用する人材には多様性が増すことが予想されます。このとき、今までは比較的同質な人々が働いてきた企業においては、課題が出てきます。

多様な人々が働く環境では、管理職の役割が変化する

 日本企業では、これまで現場で結果を出した人が昇進するといった傾向がありました。営業で一番の実績を出した人が営業部門の係長になり課長になり、そして部長になるわけです。そして昇進する人はどんなタイプの人かというと、能力が高く、意欲もあり、努力した人です。また運も重要かもしれません。

 このようなタイプの人が管理職に就くと、自分の部下に対して自分と同じような働き方を要求する傾向があります。結果を出すためには私生活を犠牲にして時間外労働も厭わないような働き方です。また結果が出ない部下に対して「なぜできないんだ!」と圧力をかけてしまうことも考えられます。
 もちろん上司の側も、悪気があってやっていることではないでしょう。自分には自然にできることであり、また努力が結果に結びつくと考えている上司の視点からは、結果を出せない部下を見て歯痒い思いをしているのかもしれません。

 しかしこれからの管理職に求められている資質を考えると、今後は現場で結果を出した人が偉くなるといったスタイルは修正を求められています。最初からはうまく仕事をこなせない社員に対して、丁寧に説明をして育てる姿勢を持つ人でなければ管理職は務まりません。できない人がどこができないのか、またどうすればできるようになるのかを理解した上で指導するというのは、天才肌の人には難しいことが考えられます。
 そして管理職の役割はより複雑になります。従来は、同質な部下に対して仕事を割り振り、単純に結果を比較すれば評価することができました。これに対して、これからは多様な部下を抱えて、例えば、契約によって仕事内容が限定される人、残業できない人などの労働条件を把握して、適切に仕事を割り振ることが求められます。
 また評価も難しくなります。具体例で考えてみましょう。

 いまあなたに二人の部下がいたとします。ひとりは普通の労働者の1.5倍の結果を出していますが、子育ての都合で時間外労働はできません。しかし限られた時間に生産性が高い働き方ができていて、自分の方が高い評価を受けて当然だと考えています。
 もうひとりの部下は、実績は平均的なものですが、時間外労働に対応してくれます。顧客からの急な依頼などがあったときに、頼めば残業もしてくれますし、土日にも出社します。そしてこちらの労働者も、自分の方が会社に貢献していると考えています。
 ここであなたは上司として、どちらに高い評価をつければ良いでしょうか。納得がいかない査定をされたら、社員は辞めてしまうかもしれません。何しろ深刻な人手不足の時代ですから、他にも同程度の労働条件で働くことができる会社はたくさんあるのです。

 ここで挙げた例は極端なものに感じるかもしれません。しかしこのような異なる条件で働く人たちを同一の指標で評価するといった難しい課題は確実に増えます。このとき管理職には、高いコミュニケーション能力が求められます。不本意な評価を行う場合に「今回は仕方ない」「我慢してくれ」という言葉だけでは、全く納得感はなく伝わりません。

納得感のあるコミュニケーションのために

 上司が部下を評価する際には、評価そのものだけでなく付随するコミュニケーションが重要となります。特に本人の意に沿わない評価をする場合には、丁寧な説明と納得感が必要です。 実際に、労働生産性やモチベーションを高めるための雇用管理として、何が必要かという調査(労働者に対するアンケート調査)では、「人事評価に対する公正性納得性の向上」「能力成果等に見合った昇進や賃金アップ」が上位に上がっています。また、多様な人材が活躍するため重要だと思う働き方の工夫についての調査では、「多様な人材が相互にコミュニケーションできる場所の整備」という内容が上位に上がっています。

出典:JILPT(2018)『多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査』 JILPT調査シリーズNo.184
出典:JILPT(2018)『多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査』 JILPT調査シリーズNo.184

 納得感のあるコミュニケーションのために、 重要な点が3つあります。 1つ目は、部下に対して明確な評価基準を事前にきちんと伝えておく、そしてブレないことです。例えば、約束した目標設定を容易にクリアされてしまうと、ついついゴールを動かしたくなってしまいます。しかし上司の言葉が信用されなくなってしまえば、その悪影響は長期に続きます。
 2つ目は、100%納得してもらうことを求めないことです。完全に納得させることをゴールにしても実現できません。あくまで「この上司の評価指標ではこのような結果になるよな。まあ仕方ない」と部下に思ってもらえれば十分なのです。
 そして最後は、個人個人の記録を残しておき、面談の前に確認することです。まず最低でも、上司は部下の雇用形態や契約内容について理解しておくことが必要です。また前回の相談内容や伝えたアドバイスなどを把握しておかなければ、前回と同じことを訊いたり、違うことを話したりしてしまうかもしれません。それでは部下には信頼されないでしょう。「この人に何を話しても無駄だ」と思われないように注意が必要です。

 Tune株式会社では、雇用労働問題を中心として、各種の調査、分析、コンサルタントを行なっております。また、管理職を始めとした各種研修や人事評価制度の構築なども行なっております。人事、労務関係でお困りの際には、お気軽にご相談ください。