第1493回 もう平成を総括できるのか
1、読書記録356
本日ご紹介するのはこちら。
与那覇潤2021『平成史ー昨日の世界のすべて』
歴史学者をやめた、そんな珍しい著者の描く平成史はどんなものなのでしょうか。
2、歴史学者として最後の書
サブカルチャーから政治群像劇まで幅広く話題を展開しながら、いま我々がいる場所、について考察しています。
私自身が生きてきた時代なので、随所に、「そうだった、懐かしい!」と言える記述が出てきます。
例えば小泉内閣メールマガジン。
SNSがまだ一般的でなかった時代に、一国の首相が直接語りかける(という体の)メディアは新鮮でした。
2001年6月14日に創刊号が配信されたとのこと。
私も高校生で、自宅のPCで登録したことを覚えています。
しかし内容は何一つ覚えていません。
映画『ALWAYS三丁目の夕日』やTVドラマ『タイガー&ドラゴン』に見られる2000年代の昭和回帰もバッチリハマった覚えがあります。
2006年のホリエモンの政界への挑戦。
その後の政界の混迷は本書に描かれる「戦後史の裏面で脈々と流れてきた情念」という表現でやや腑に落ちました。
そして『PokemonGO』や『シン・ゴジラ』が2016年でもはや8年も前のことだったとは。
そして前者を著者は
と評しているのには戦慄しました。
ともすれば、VRやARを活用して、文化遺産を改めて資源化しようとしがちな我々の職業からみると脅威に感じるべきだったのかもしれません。
全く地域の文脈から切り離されたコンテンツであっても風景を魅力的にさせることがある、という現実。
何億もかけて国宝を保護するよりも、グローバル企業のコンテンツのポイントに加えてもらうことの方が集客につながることになりかねません。
そんな日もいずれ来るのでしょうか。
一方で、メインストリートを歩むサブカルチャーでも、
天邪鬼な性格が災いして、深入りしてこなかったコンテンツもあります。
新世紀エヴァンゲリオンもそうですし、
映画『ダークナイト』のジョーカーが投げるセリフ「You choose」は本書で象徴的に語られていますが、全然ピンときません。
そして著者が「歴史学者」を辞めた理由。
トップオピニオンだった社会学者が老いて語る言葉に
と絶望する著者。
と平成文学を悲観しているように見える著者。
それでも著者は
本書が、終わりではなくはじまりの書物として読まれてほしいと願う。
と希望を持って筆を置きました。
3、平成史から希望は見えるのか
個人的にはもっと音楽に関する記述が欲しかった気もします。。
安室奈美恵や米津玄師、宇多田ヒカルやAKB48などについては言及されていますが、私の血肉となった椎名林檎さまが出てきません。
そして著者自身が歴史学者をやめた理由もあまり共感できないのです。
歴史学に期待が大きすぎるから、当てが外れたときのショックが大きいのでしょうかね。
平成史を特別視しすぎるあまり、近視眼的になっていることはありませんか。
作者の前著『歴史なき時代に』も読んでみなくては。
この辺りは非常に共感できます。
私が古文書を扱う王道の歴史学者でもなく、考古学者の、しかも末端にぶら下がっているようなポジションだからかもしれませんが、
現在と過去とを生きた人間どうしの「対話」が存在しないといけない
というスタンスは一番大事なことだと思いますね。
私は歴史にまだ希望を持って活動してきます。