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血を流さない革命はあり得るのか?『プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第3章』

 私事で恐縮だが、『ファイアーエムブレム 風花雪月』というゲームにハマっている。このゲームの物語を乱暴に要約すると、「主人公が育てた生徒たちが5年後にそれぞれが兵士となって戦争に参加し、同級生と戦う」というものになるのだけれど、ではなぜ戦争が?となると、そこには因習と差別の歴史が横たわっているのだ。

 何も愛しの生徒たちは、同じ学び舎で過ごした同級生を殺すことに胸を痛めていないわけではない。しかし、凝り固まった世界を変革するには、血を流さねばならないと覚悟した者がいたり、いま居る世界の外に目を向けようと開国を促す者もいる。世界を変えよう、良くしよう、差別や迫害を無くそう。同じゴールを目指しつつ、しかし過程や思想が食い違えば、剣を交え殺し合うしかない。そういうゲームなのだ。

 そして多分、今回の映画もそういうことになるのだろうと、思う。

※以下、本作のネタバレを含みます。

 エドワード王子が暗殺され、王位継承権の最上位はメアリー王女、その下にアーカム公・リチャード王子が着いた。女王陛下は自分の命が長くないことを悟り、後をノルマンディー公に託し、彼はメアリーを次の女王とすべく厳しい教育を課していく。一方、リチャードはプリンセスに、自分とノルマンディー公どちら側につくか問う。エドワードを謀殺し、次の標的はメアリーなのか。プリンセスとチーム白鳩は、選択を迫られる。

 自らが王位を継承するために、上位の者の暗殺を実行したリチャード。前回の第2章では明かされなかった彼の真意は、意外にもプリンセスと近いものだった。それは、この世界を分断する「壁」を壊すこと。プリンセスがなぜ王女になりたいのか、その根幹にある階級や貧富の差を生み出す壁の崩壊を、リチャードも望んでいる。そしてリチャードは、プリンセスが「王宮を見ていない」ことを見抜き、手を組もうと語りかける。

 おそらくこの二人が組めば、その理想は容易に成し得るのだろう。でも、プリンセスはその手を取れない。リチャードのやり方は血が流れすぎるし、血族であっても容赦なく切り捨てるようなやり方を、彼女の優しさが許さないからだ。それは、人道的には正しい。では、女王としては正しいのだろうか?国や王族といった大きなものを守るために、時には非情な決断を下さねばならない局面だって、あるかもしれない。リチャードはおぞましい人物だが、大を成すために小を切り捨てるリアリストな部分と、プリンセス(現シャーロット)の素質を見出し、新大陸を生き延びた実績もある。王として、人の上に立つ存在として、彼の方が秀でた才能を持っているかもしれない。ふと、そんな考えが頭をよぎった。

 プリンセスは、王国と共和国に別れ、スパイが蔓延るような世界を変えたいのだろう。少女だった自分たちのような悲劇を、後世に生み出さないために。それに対し、リチャードはより広い視野を持っていた。新大陸を治め、植民地の実態を目の当たりにした彼は、今のロンドンに敷かれている差別や貧富の差は海の外でも確かに存在していることを知っている。だから、この変革の風はロンドンを超えて、やがては全世界に波及させなければならない。世界の姿を変えんとする男の覇道は、血にまみれている。プリンセスの優しさがロンドンを救うのか、リチャードの刃が世界の形を変えるのか。ようやくこの物語の対立軸が明らかになっていく。

 しかし、これはリチャードの言うことを鵜呑みにした場合に限られる。部下に嘘を吐いたことに胸を痛め、その痛みさえも嘘だと言い切ってしまう男の真意は、測りかねる。本気で世界を変えようとしているのか、ノルマンディー公を排斥し王の座を勝ち取ったら、後は暴君としてのさばるに過ぎないのだろうか。その推移を見届けようと覚悟した矢先、本作は急展開を迎えるのである。

 誰が次の王になるのか。水面下で動き出すその流れに、幼きメアリーは疲弊していく。次期王女という重責と、体罰も辞さない厳しい躾に、彼女の心は限界だった。王宮の壁を伝い逃げ出そうとしたメアリーに対し、手を差し伸べるのはプリンセスとドロシー、世話係のオリヴィアしかいない。

 同時に、メアリーはリチャードの魔の手に最も近く、プリンセスにとってはかつての自分(孤児の少女・アンジェが血の滲むような努力をして今のプリンセスになった)を思い出させるため、放ってはおけない。プリンセスは姉のように接し、傷ついたメアリーの心に少しずつ癒やしを与えていく。白鳩のメンバーも、メアリーの話し相手になってあげる。

 そうした接触は、彼女たちにとっては正体が露見するリスクを増すだけの、すべきではない行為だ。そうした“踏み外し”が、最悪の結果を招いてしまう。メアリーが襲撃されたことで冷静さを失ったプリンセスは、メアリーの亡命を画策。事前に“運命共同体”とアンジェが言ったことが楔となり、あまりに無茶な要求を涙ながらに乞う姿は、彼女の優しさと表裏一体の弱さを露見させた。

 そして亡命作戦は、失敗に終わる。プリンセス自身と仲間たち、メアリーの命を危険に晒しただけでなく、自分がスパイであるという最大の秘密が暴かれ、ノルマンディー公に利用されながら王国に奉仕するスパイ活動を続けなければならなくなってしまう。スパイとして嘘を吐き続けた者の末路は、ビショップが示したばかりだ。プリンセスもまた、誰もいない雨の道端で、ひっそり死体になってしまうのだろうか。

 スパイとして行き続けた者の非情な最期を見せつけた第1章と、王族として生まれた者の雁字搦めな人生を印象づけた第2章。その両方の業を背負うことになってしまったプリンセスは、これまでの嘘の代償を払い続けることになるのかもしれない。そんなことはアンジェが許さないだろうけれど、列車の中で口にした言葉が不穏すぎた。“命に代えても”という言葉と、OP映像で額を撃ち抜かれたような一瞬の映像が、嫌なリンクをする。彼女たちがカサブランカで平穏に暮らせる未来が、本当にやってくるのだろうか。折り返し地点まで来た『Crown Handler』、白鳩に脱落者が出ないことを、ただただ祈るばかりである。

 ところで、4/9の舞台挨拶中継付上映で鑑賞したのですが、橘正紀監督曰く第4章は絵コンテ作業に入り、今回ほど(一年半)待たせないそうです。お願いだから早く観せてくれ!!!!!!!!!!!!!!

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