年末のお買い物で、少しばかりの楽天ポイントが手元に入った。その使い道を探して色々と眺めていたころに見つけたのが、こちらの書籍であった。
有識者が語る、アニメや特撮の軍事事情。以前から、自分はミリタリーの知識が浅いと感じていたことがあり、これ幸いと内容をチェックする。取り扱う作品は、ゴジラ、宇宙戦艦ヤマト、パトレイバー、エヴァンゲリオン……。ECサイトが本著を自分に薦めてきたのも納得のラインナップだ。たまらず予約購入して、本日読み終えたばかりである。
しかしまぁ、良くも悪くも、こちらの下調べが不足していたのだが、本著は期待した内容と少しズレていた。著者の一人である小泉悠氏が冒頭に書き記した通り、本著はアニメや特撮のミリタリー事情をかみ砕いて解説してくれるようなスタイルではなく、オタク同士の対談という形で進行していく。
自分もオタクの一人として、軍事の有識者が集う座談会を文字に書き起こした本著は、容易にその光景が想像できる。感覚としては、「友達とゴジラを観に行って、帰りにサイゼリヤに寄ったら、隣の席のグループも同じ回を観たであろう集団だった」が一番しっくりくる。会話に割って入ったりはしないが、漏れ聞こえてくる解釈に「わかる……」と心の中で相槌を打ったり、早口で繰り出される蘊蓄を盗み聞きしてなるほど、となってしまうような経験、皆さんにもないだろうか?本著はずっと“それ”が続く。
自分にその教養がないからこそ、ゴジラやエヴァをミリタリーの視点から読み解くことはできない。だからこそ、異なる趣味嗜好を持つ方がゴジラやエヴァをどう観ているのか、その着眼点が興味深い。例えば、最新作『ゴジラ-1.0』が議題に挙がれば、彼らが最も熱を込めて話すのが「震電」の足の細さやプロペラの枚数だ。映画では実際に製作された実物大模型が使用されていたが、プロペラの枚数やコクピット内の構造など、史実との違いや妥当性の面での指摘が本著では次々と語られる。しかしそれらは批判を意図したものではなく、山崎貴監督のフェティシズム、兵器へのロマンや格好良さを優先したのではという推理が浮かび上がってくる。
伊福部昭の名前が一切出てこない『-1.0』の感想など、初めて見たかもしれない。「萌え」の勘所が自分とまるで違う。だからこそ面白く、陳腐な言葉だが、勉強になることばかりだ。同じ映画を観ていても、こうまで見える景色が違ってくるのかという驚き。矢継ぎ早に流し込まれる専門用語や軍事用語に「??」となることはあっても、対談が弾んでいることだけは伝わってくる。好きな作品のことを話す時の熱がこもる様子は、決して他人事ではないからだ。
親切丁寧な「解説」をご所望なら適切ではないかもしれないが、オタクのオタク語りを存分に浴びたいのであれば、本著をお気に召すであろうことはお約束できる。以下の目次にピンとくるものがあれば、ぜひ一読いただきたい。