耽美な舞いに語彙が死ぬ。『#バーフバリ完全版絶叫AN』レポin新宿ピカデリー(10.26)
2018年4月7日。それは確かに「祭り」であった。1,000人を超える民が一堂に会し、力の限り王を称える。寝ることも忘れ叫び続け、誰もが互いの健闘を称えあった、最高の一夜。何度思い返しても胸が熱くなってしまう。
そして再び、謁見の間は民で埋め尽くされることになった。2018年10月26日、『バーフバリ 伝説誕生 完全版』がついに日本公開日を迎えたその日、全ての民が夢見た完全なる『バーフバリ』の顕現を最高の方法で祝うための、二度目となる絶叫オールナイトが執り行われた。謁見の間はもちろん、日本マヒシュマティ王国の「聖地」こと新宿ピカデリー。計2つのスクリーンが開放され、900人の民が謁見の機会を得られるという劇場側の尽力に応えんと、都内のみならず日本各地から民が集結し、「バーフバリ旋風」にまた一つ大きな歴史を築いた一夜になった。
劇場・配給・ファンの想いが一つになった、言葉では表せないほどに尊い一夜。その記録を、なんとか記録に残したい。本テキストは、筆者が参加したスクリーン1の会場で起こった出来事を記したものである。日本で今なお続くバーフバリ現象の、大きな節目の一つとなったであろうこの一夜のことを思いだせるように、拙文ではあるが書き残しておきたい。当時の雰囲気が少しでも伝われば幸いである。
願えば、叶う―。
10月下旬の寒空の下にもかかわらず、新宿ピカデリー1Fロビーは、サリーを着た煌びやかな女性たちで一杯だった。これもバーフバリ絶叫上映のお約束だが、いったいここはどこの国なのかといつも思わせるほど異国情緒に溢れていて、民の気合いの度合いが伝わってくる。また、作中のキャラクターのコスプレに身を包んだ者も多いが、馬やヤシの木を「コスプレ」と言い張れるのも『バーフバリ』ならでは。
それは「お土産」文化にも表れていて、実際の商品名をもじったお菓子や、自作のイラストや缶バッヂを配って回るファンが続出した。絶叫上映の回数を重ねる度にこの文化も洗練されていき、包装紙に日付入りの写真が付けられていたり、完全版上映を祝うメッセージが書かれていたりと、ひと手間かけた愛のあるファングッズが目白押しだ。民の一人一人が、それぞれの方法で作品への愛を表現している、暖かい空気がそこにはあった。
深夜にもかかわらず、熱気と緊張感に包まれたスクリーン1。おなじみV8Japanチームによる前説は、「絶叫アテンダントがマヒシュマティ・エアラインでの快適なフライトをナビゲート✈︎✈︎」という趣旨により、本当にスチュワーデスの衣装を着た方がいらっしゃるという、これまた気合いの入り方がいつもと違っている。
そしてついに上映スタート!…と思いきや、ここでとある映像の上映がアナウンスされた。カメラ・スマートフォンによる撮影は可、ただし開始時間が異なるスクリーン2の観客の驚きを損なわないためにノーツイート・ノーライン厳守、というお約束の下、場内の明かりが消えた。突然のことにザワつく王国民。そして眼前のスクリーンに映像が映し出された瞬間、全ての語彙が死んだ。推しが、いい顔で、映ってたからだ。
おそらくこの時は世界初告知となったのだろう。バラーラデーヴァ役のラーナ・ダッグバーティ氏の来日が、突然発表されたのだ。氏は、11月30日~12月2日開催の東京コミコン2018のスペシャルゲストとして参加。さらに12月3日には新宿ピカデリーにて行われる『王の凱旋 完全版』絶叫上映の舞台挨拶に登壇することが発表された。詳細は後日、配給会社ツインよりアナウンスがある、とのこと。
これを受けて民がどうなったかと言えば、それはもう発狂である。バーフバリ絶叫の風物詩、突然狂いだすことに定評のある我々だが、この時ばかりは誰も責められない。過去、ラージャマウリ監督&ショーブP、スッバラージュ氏の来日が報道された時も大きな騒ぎになったが、今回はビデオメッセージ付きで、ラナ氏の言葉で、肉声で、いい顔で、生活感満載のお部屋で、「日本に来ます」と言われた日にはもうね、正気なんて保っていられませんよ。
私自身、バラーラデーヴァを愛し、ラナ氏に会いたいと願った王国民の一人。その愛ゆえに怪文書をネットの海に放流したこともある変態なのだが、いざその報を知った瞬間から本編が始まるまで、およそ「言語」というものを発した記憶がない。目の前の現実が信じられないと、人は狂う。「ひっ」「なに」「えっ」だの、反射的に口から出た音声には、知性というものはまるで感じられなかった。それほどに動揺したし、その瞬間を思い出しキーボードを叩いている今も鼓動が早まっている。
その時の様子は、ハッシュタグ「#バラーラデーヴァ来日」で検索すれば、有志がアップした動画を閲覧することができる。過去ここまで人の悲鳴しか聞こえない動画も珍しいが、ある一部の人間はこの動画で泣ける、そういう人もいるということを、画面の前の皆さんにも知っていただきたい。
『伝説誕生 完全版』
これから映画を6時間観て叫ぼうというのに、予期せぬサプライズによって完全にペース配分を乱された王国民たち。しかし本編が始まると、画面いっぱいに広がる配給会社ツインのロゴに割れんばかりの感謝の言葉が響いた。今日この日まで『バーフバリ』という映画を盛り上げてくれたこと、そしてこれまでに成し遂げられてきた様々な奇跡。その想いがこもった言霊がスクリーンに投げられた瞬間、歓喜のオールナイトが始まった。
最初のビッグバンが起こったのは、シブドゥの「滝ダンス」だ。今回の完全版で復活した、(一部の界隈で話題となった)カワイイの極みみたいなシーンだ。母サンガを想うあまり、シヴァリンガを滝の前まで運び、これで願いが叶う!と笑うシブドゥ。その直後の短いダンスシーンこそ、大スクリーンで観たいと民が待ち望んだ映像の一つだった。あまりに天真爛漫、偉大なる王族の後継者の姿など微塵もない、村の青年シブドゥとしての飾らない姿。それを微笑ましく見つめるサンガとは対照的に、場内の我々の対応は一つ、「悲鳴」である。さっきあれだけ叫んだというのに、民の声帯は化け物か!?とシャアもきっと驚いたであろう。「キャァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」と鳴り響く、萌えのシャウト。先日誕生日を迎えたばかりのプラバース氏の屈託のない笑顔と、意外なまでの体の柔らかさに、場内の全員がノックアウト。序盤から景気の良い絶叫で出だしは上々だった。
さすが回数を重ねた猛者が集うスクリーン1、絶叫の内容も質も安定しており、野次のような不快なものは一切発せられない。キャラクターの名前を叫び、名台詞には歓声を上げる。BGMと呼応してタンバリンが鳴り、サイリウムの光が揃う景色は圧巻だ。国際版とは秒単位でカットや音楽の編集が異なると誰かがそれに気づき声を漏らすのも印象的で、終始驚きと感動に満ちた159分間。
その中でも、民の関心が最も高かったのは、間違いなく「マノハリ」である。マノハリとは、軍の機密を持ち逃げした裏切り者・サケートを探す道中に立ち寄った酒場で演じられるミュージカルシーン(および楽曲名)のこと。国際版ではカットされた伝説のミュージカル、SNS界隈では以前から度々話題に挙がる伝説のシーンを、ついに大スクリーンで拝むことができる。
その想いが強すぎるあまり、該当のシーンが始まる前から場内は騒然。バーフバリとバラーラデーヴァがサケートの謀反を知った瞬間から、期待混じりの歓声がこだまし、問題の酒場が映ると絶叫も1ボルテージ上の段階へ。アイラインを引き装いも新たに現れたバーフとバラーに黄色い声援が送られる。さらにミュージカルシーンの直前には、酒場の店主に扮したラージャマウリ監督が登場することもあり、「かんとく~!!!!!」の声援が自然と揃ったことも思い出深い。
そしていよいよマノハリへ。イントロの瞬間ですでに最高潮の「キャァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」が鳴り響き、そのテンションはミュージカルが終わるまで鳴りやむことはなかった。『王の凱旋 完全版』の前夜祭、カッタッパの例のシーンを彷彿とさせる盛り上がりにまた出会えるとは…!!ここで全身に鳥肌が走った。
ふと後ろを振り返ると(言い忘れていたが、筆者は最前列に陣取っていた)、場内の民のほとんどが手に持ったサイリウムとタンバリンのことを忘れ、絶え間なく叫んでいた。もはや己自身が楽器と言わんばかりに、アマレンドラが美女の肌に触れ、綺麗な胸元に抱かれる度に、街中で聴こえたら思わず警察を呼んでしまうような悲鳴が耳に届く。よもや場面に即したツッコミなど不可能。一体今日は何度語彙を失えばいいのかと思う程に、4分間のミュージカルシーンを叫びだけで走り抜けた。
マノハリは、耽美で官能的な踊りが繰り広げられる、最短距離かつ品の無い言葉で表現するなら「エロい」、ひたすらエロいのだ。だからこそ観たかった。あのシャイなプラバースくんが、美女とまぐわう刺激的なダンスナンバー。エキゾチックな3人の美女を相手に動じないアマレンドラを必死に演じたであろうプラバースくんの激闘に、民は「感動した!!」と拍手を送り、配給会社ツインへの感謝を深めた。10月26日はマノハリ記念日。国民の祝日にすべき大事件だった。
すでに開始から二時間が経過したというのに民の勢いは衰えることなく、カーラケーヤ戦に突入。最前列では有志の民が持ち込んだ「赤い布」が舞うという自主体感上映が始まり、歓声は鳴りやまない。そして、完全版でもエンドロールは無音であることがわかると、「バーフバリ!」「マノハリ!」コールがそれを補った。長い沈黙は民の声で埋め尽くされ、ついにゴール。おそらく今回のオールナイトで初めて完全版を目にした民も多いのだろう、上映後は万雷の拍手とツインへの感謝の言葉で溢れていた。
前説含めてすでに3時間が経過したというのに、場内に灯りが灯された途端、民から発せられるのは主に二つの単語。「マノハリ」と「ラナさん」であった。遡ってラーナー氏来日の衝撃を反芻し、ファン同士が熱い抱擁を交わす一幕もあるなど、次なる結願に誰もが喜んだ。留まるところを知らないバーフバリ旋風の前に、民も休んでなどいられなかった。
『王の凱旋 完全版』
15分間の休憩を挟み、第二幕が始まった。流石に皆疲労困憊では、というこちらの心配を掻き消すように、冒頭から民の大合唱が響き渡る。もはや国歌斉唱の域にまで達した、我らが王を称えるテーマソング「バーフバリ万歳」だ。やはりこのシーンの一体感は格別で、各々が歌い、タンバリンを鳴らし、全身全霊で王の威光を礼賛する。この瞬間こそ、バーフバリ絶叫の醍醐味だ。
続く王宮のシーンでは、根強いファンの多いビッジャラデーヴァ、そしてバラーラデーヴァに黄色い声援が止まらない。「顔がいい!」「美しい!」など、表情に見惚れるファンが多く見られ、人気は不滅のものとなった。
そしてお待ちかねの、クンタラ編に突入。日本でも特に人気の高いキャラクターであるクマラ・ヴァルマにはひときわ大きな歓声が沸き、緑のペンライトが一斉に点灯する。続いて、若きデーヴァセーナにはピンクや白の光が。コメディ色の強いクンタラ編では笑いが起きることも多く、愚鈍な民に身をやつしたアマレンドラには「カワイイ」の声が幾重にも重なる。
クンタラ編は民同士の一体感が顕著に表れるシークエンスになっている。アマレンドラに剣の扱いを教えるクマラのシーンでは、サイリウムを剣に見立てて一緒に振るう。カッタッパの「オヨヨ~」は自然と揃う。イノシシ狩りのシーンでは、クマラの矢羽と同じ青色にペンライトが灯される。数多の絶叫上映を重ねた王国民による、淀みないオペレーションに、何度も後ろを振り返っては感動を抑えられなくなる。
ご存じの通り、『王の凱旋』は見どころのバーゲンセールだ。「かわいいクリシュナ神」はもちろん、「舐めてた相手が実はバーフバリ」なピンダリ戦、「白鳥の船に乗って」などなど、休む暇を与えずに面白いシーンが投入され、観客は声援・歌唱・打楽器でそれに応戦する。深夜だというのに一切の衰えを見せず、一糸乱れぬリアクションの連続にこちらのテンションも上昇していく。中盤の大見せ場である戴冠式のシーンでは、場内のサイリウムがバラーラデーヴァのイメージカラーである赤で揃い、バラーラデーヴァ王限定応援上映でしか見られない光景の再臨に筆者の涙腺が緩んだ一幕も。
すでに深夜4時を越えたあたりだろうか、それでも王国民の熱狂は一時も冷めることなく、『バーフバリ』への愛と根気だけで作品が放つスケールに食らいついていく。前回のオールナイト同様に、観客の“熱量”が疲労を上回り、映画との真っ向勝負が始まる。バーフバリは黄色、バラーラデーヴァは赤、といつの間にか決まったイメージカラーに合せ、最終決戦では目まぐるしくサイリウムの色が変わり、人間離れしたアクションを繰り出す両雄に「foo~!!」と5秒おきに賞賛の雄叫びが挙がる。バラー戦車の回転刃に合せて赤のペンライトを全力で振り回し、マヘンドラの勇士にタンバリンが唸る。己の体で、声で、全力で『バーフバリ』と一体化する観客たち。その凄まじさは、文字で伝えきるには限界がある。バーフバリ・ハイになった民を止めることは、もはや不可能だ。
激闘もついに終止符が打たれ、マヒシュマティの新王マヘンドラ・バーフバリに惜しみない賞賛を捧げながら、ついに終映。完全態となった映画『バーフバリ』を、初めて二部続けて鑑賞できた喜び、6時間近く王を称え続けた達成感に包まれた劇場は、大きな拍手と歓声、この日を迎えるに至った全てに対しての感謝の言葉で埋め尽くされた。誰も事切れることなく、一大叙事詩を完走した、世紀の一夜が、幕を閉じた。
惜しくもその日は快晴には恵まれず、新宿ピカデリーを後にした王国民を迎えたのはあいにくの悪天候だった。しかし、身体に残る熱さで、寒さを感じなかったのではないだろうか。それだけの偉業を、わずか一夜に成し遂げたのだから。
本文は、筆者が体験したスクリーン1での出来事を綴ったものであり、イベントの全てを網羅できているとは言えるものでもなく、筆者の主観による記述も多く含まれることをご了承いただきたい。また、必ずしも一体感を重視して、周りのリアクションに合せなくてはならないのか、という場ではないことも強調しておきたい。愛は人それぞれ、各々の方法で作品を称えることが、絶叫上映主催側の本懐ではないかと思うからだ。スクリーン2では初めて『バーフバリ』を鑑賞する参加者が多かったと聞き、本文が「バーフバリ絶叫」の敷居を上げてしまわないよう、このような拙い物言いではあるが、どうか気軽に参加して欲しい。きっと忘れられない体験になるはずだから。
本国インドではすでに旧作となった『バーフバリ』だが、日本の熱狂はまだ終わらない。完全版の公開という長年の願いが叶ったその日に、「ラーナー氏来日」という新たな結願が発表され、その喜びを600人で分かち合ったこの一夜は、参加者一人一人の胸に深く刻まれたはずだ。作品への愛がこうして報われるなんて、長くオタクをやってきたがこんなことは前代未聞。ファンと公式の相思相愛が、ずっと続けばいいのにと思わずにはいられない。
最後に、これだけの夢を見させてもなお果ての見えないバーフバリ旋風を巻き起こした配給会社ツイン様、V8Japan絶叫上映企画チームと新宿ピカデリースタッフの皆様、そして当日参加された全ての王国民に、重ねてお礼申し上げます。また、当日お越しになれなかった方からも多数の支援があったと聞き、マヒシュマティ界隈の結束の強さに胸を熱くさせられました。『バーフバリ』という最高の作品と、それに関わった全ての人々に感謝し、次なる結願に備える日々がまた始まることを、一ファンとして嬉しく思うばかりです。
祝 バーフバリ完全版 日本凱旋!!
王を称えよ!!
ジャイ マヒシュマティ!!!!
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