一首評の訓練── すりガラスにうっすら守られた暮らし裸で野菜炒めをつくる/雪舟えま『たんぽるぽる』

すりガラスにうっすら守られた暮らし裸で野菜炒めをつくる

雪舟えま『たんぽるぽる』


 私たちの生活において他者からは見えない部分はどれくらいあるだろうか。それなりにあるような気もするが意外と少ない気もする。家の中にいたとしても私たちはSNSでその日にあったことを公開することがあるし、時には日記にしたり、短歌にしたりするということさえあるだろう。そんな日々の暮らしは、まるで自分がすりガラスにだけ囲まれているようなものである。中が見えるような見えないような、中の人のシルエットで動きはわかるような、でもはっきりしないような。
 掲出歌では、そんな暮らしの中、「裸で野菜炒めをつく」っている。「裸」で「野菜炒め」をである。度胸があってかっこいい。すりガラスに「うっすら守られ」ていると言えるその姿勢やそこで裸でいられることの強かさが面白い。加えて、つくるのは野菜炒めだ。おしゃれな料理や珍しい物ではない。「裸だと肌に油が撥ねたりはしないだろうか」とか心配になりそうだが、それを全く気にさせない雰囲気がある。その強さが好きだし、どこかハッとさせられるところもある一首だと感じる。

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