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家族のありがたみをしみじみ感じた素敵な一日【音声と文章】

山田ゆり
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全くついていない日が年に一度はある。
その日がそうだった。



その日、のり子は昨日完成した書類を
本日の10時頃には官公庁へ提出しに行こうと思っていた。
しかし、その書類が社長から戻ってきたのは15時頃だった。

どうしよう。
これから3つのネットバンキングで本日の残高確認とその集計作業をしなければいけない。
官公庁へは明日にしようか。

しかし、その書類を今日の午前中に提出に上がりたいことを社長にお伝えしていたから
午前中には間に合わなかったが、この時間に書類が回ってきたのだ。
つまり、今日、提出しに行かなければ社長のご好意を無にすることになる。

のり子は決断した。
よし!これから出かけよう!

のり子はボールペンと指サックを胸のポケットに入れ、携帯電話と昨年までの書類のファイルを持ち会社を出た。

玄関を出た途端に、誰かが巨大な温風機を外から玄関めがけて送風しているのではないかと錯覚するくらいの熱風が身体にまとわりついた。


社用車までの砂利道は、この暑さで歩くのが億劫になるくらいだるかった。
でも、これで約1か月間かけてきたこの案件が終わる。
のり子は受領印を押された書類を受け取る瞬間を思い描いた。
受領印を押されたその書類は、「よく頑張りました」と書かれているように見え、とても自分が誇らしく感じる瞬間なのだ。

のり子はその感覚を味わいたくてこれまで淡々と根気強くやってきた。

もう少しでその苦労は報われる。
のり子は期待を胸に官公庁の重いドアを開けた。



職員たちは下を向いて仕事をされていて、来客が来ても誰も見向きもしなかった。
官公庁とはそういうものだと分かっている。
のり子が「○○の書類を提出に参りました」と告げると、仕方なさそうな感じで若い女性がカウンターに近寄ってこられた。

その女性によると、この書類の担当者は今日、休んでいるとのことで、書類一式を預けて帰ることになった。

のり子は、がっかりして書類を預けて官公庁を出た。

会社に戻りそのことを上長に報告したら苦笑された。


のり子の予定では、午前中にその書類を提出して受理される。
受領印が押されたその書類のコピーを別の次の書類へ添付して午後に速達で出す。
そこでこの一か月間の仕事が完了する予定だった。
だがしかし、それは明日に持ち越された。


そんなこともあるさ。

のり子は気を取り直して、次の仕事に集中した。


最近ののり子の右手は動きが鈍くなっている。
おまけに右手から肩にかけてだるくてしようがない。
専用の薬も切れてしまった。

今日は会社の帰りにかかりつけの整形外科クリニックへ行こうとのり子は思った。


終業時刻になり会社の玄関のカーテンを閉め、まだ残っている皆様に挨拶をしてのり子は会社を出た。


整形外科に向かう途中、のり子は今日一日のことを振り返っていた。
社長に書類を出す時はもう少し余裕を持って出そう。
また、官公庁へ出かける時は、電話をしてから出かけよう。
今日で終わらなかったが、明日は完結する。
今週中に終わらせることができるから、それで良しとしよう。


その整形外科はいつも混んでいる。駐車場は数台しか停められない。
満車の場合、近くの有料駐車場に停めなければいけない。
今日は停められるだろうか。


すると、そのクリニックから1台の車が出てきた。
ラッキーだ。今日は会社では運がなかったが、やっと運が向いてきた。
両側にコンクリートの門がある狭い通りを通った。
なんと、駐車場には一台も車がなかった。
ラッキーすぎる!
狭い駐車場だから車を回すのが大変だったが、今日は一台もいないからうまく車を停めることができた。


車から出て玄関に向かっていたら、クリニックの従業員の方たちが遠方で花壇の花の手入れをしていた。制服のままで皆さん、笑いながら作業をされていた。
嫌な予感がした。


のり子は入り口に着き、玄関のガラス戸に貼られた紙を見た。
本日は17時で診療が終了と書かれていた。
勿論玄関には電気が付いていない。


そうだったのか。だから駐車場には車がなかったのか。


あぁ、今日はついていない。


でも、のり子は気を取り直して、トレーニングルームへ向かうことにした。
のり子の車にはいつでも行けるように、Tシャツ、短パン、タオル、トレーニングシューズ、水などを常備している。
今日は希望が叶わない日だったけれど、ひと汗かいて帰ろう。


のり子は狭い門を出て、トレーニングルームへ車を走らせた。
通いなれた道を進んでいる時にのり子は思い出した。
今日はトレーニングルームの休館日だった。


今日はのり子にとって不成就の日のようだった。
そんな日もあるさ。


仕方ない。

その日は運が良くない日だったが
なぜか落ち込まなかった。
いつもだったら自分を必要以上にいじめるのり子だった。


運が良くないとは感じたが
不運ではなく、ただそういう現象だという、ちょっと俯瞰した感情を抱いていた。



のり子は充足感が欲しくて、大型スーパーに寄って買い物をして帰ろうと思った。
何が食べたいかなぁ。
娘たちは何を買って行ったら喜ぶだろうか。


考えてみたがこれといって思い当たらない。
でも、売り場に行ったら、美味しそうなものはあるだろう。


とりあえず行ってみよう。
のり子は郊外型の大型スーパーに向かった。

しかし、途中で気が付いた。
今日は長女が休みである。
料理が好きな長女は休日にいつもご馳走を作ってくれる。


そうだ。のり子が何か食べ物を買って帰ったら、長女の気持ちを無にすることになる。
それはしたくない。

のり子は右にウインカーを上げ、車線変更をしてスーパーに寄らずに帰途に就いた。


数日前にのり子は姉から家庭菜園のキュウリやナスなどをいただいた。

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新鮮な旬の野菜を食べられるのは本当に幸せなことだと思う。


長女はその野菜でたくさんの料理を作ってくれていた。

らせん状に切られたきゅうりの漬物はごま油が効いていて絶品だった。
茄子とお肉とまいたけの味噌炒めは懐かしい母(長女の祖母)の味がした。
油揚げと昆布のお味噌汁。
じゃがいもを薄く切ってさらに細い切り込み線をたくさん入れて揚げたポテト。

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これだけでものり子の家ではご馳走なのに、長女は、チョコバナナアイスも手作りしてくれていた。

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本当に、いつでもお嫁に行ける^^とのり子は長女に言う。



「おいしい。おいしい。うんうん。」


本日は朝から自分の思い通りにいかず、残念なことが続いたが

終わり良ければ総て良し。


どんな不運な出来事があっても、
家族と一緒に美味しいご飯を食べられたらそれで幸せだ。


最悪な一日と思いきや
家族のありがたみをしみじみ~感じた素敵な一日だった。




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家族のありがたみをしみじみ感じた素敵な一日



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