献体してよかったのだろうか ~ネガティブな過去を受け入れる~【音声と文章】
山田ゆり
00:00 | 00:00
※今回はこちらの続きです。
~その時がついに訪れた~ ネガティブな過去を受け入れる
↓
https://note.com/tukuda/n/n70afb7094fd8
心電図が取り外され、病室から機械が持ち出されている間、のり子は弟の腕の近くまで身体を曲げて、口にタオルをあてながら声を殺して泣いていた。
今まで抑えていた感情が一気に溢れ出しそれがなみだに姿を変えてのり子の体外へ放出されていった。
涙が止まらなかった。
そんなのり子に医師が話しかけた。
献体を希望するかどうかと聞かれた。
献体?
のり子は献体という言葉を知らなかった。
だからすぐに臓器移植を連想した。
しかし、献体は臓器移植とは違うことが分かった。
弟が亡くなった直前に献体を希望するかどうかを聞かなければいけない医師に、お医者さんは辛い仕事だと思う。
ここは大学病院である。つまり、医師を目指している人たちがたくさんいらっしゃる。
人体にメスをいれることはなかなかないこと。
だから、献体された身体を使って自分たちの知識や技術を増やしていくのだろう。
のり子は迷った。
たった今、ついさっきまで息を荒げてベッドに横たわっていた弟の身体にメスを入れるなんて。
まだ体はうっすら温かいのである。
もしかして生きているのかもしれない。
そんな体にメスを入れるなんて考えられない。
どうしよう。
のり子は訃報を知り駆けつけてくださった親戚の方に相談した。
その方は信頼できる方だった。
のり子の話を聞いて
「献体するもしないも、それはのり子さんがお決めになることです。嫌だとお断りしてもそれは悪いことではありません。
また、今後の医療の発展の一助になると考えて検体をしても、どちらも、のり子さんが決めることです。」とおっしゃった。
献体するもしないのも、どちらも正義であり、決めるのは他人ではなく自分なのである。
のり子はどうしようか迷った。
しかし、のんびりと考えている時間はなかった。すぐに決断をしないといけなかったのだ。
悩みに悩んだ末に、のり子は献体をすることを決断した。
弟の死が、今後の医療発展に少しでもお役にたてるのなら、弟は喜んでくれるのではないだろうかと思ったから。
弟はすぐにストレッチャーに乗せられて目の前から消えた。
のり子はストレッチャーの動きに合わせて、薬の副作用で膨れ上がっていた弟の顔をしっかりと目に焼き付けた。
もしかして、戻ってきた時は、目も当てられない姿になっているかもしれない。だから今の姿を真剣にみつめた。
親戚の方にご挨拶をしてのり子は弟の身体が戻ってくるのを待った。
どの位の時間がたったのだろうか。
やっと弟の身体が戻ってきた。
そして、弟の顔を見たのり子はショックを隠し切れなかった。
さっきまで薬の副作用で顔はまん丸に膨れ上がっていたのに、検体から戻ってきた弟はいつもの鼻筋がしゅっとして頬もふくらんでおらず、入院前の弟の顔になっていたのだった。
さっきまで膨れていた顔がいつも通りの顔に戻っていたことに、のり子は愕然とした。
もしかして弟はあの時、まだ生きていたのではないか。
医学的には死んでいても、まだ人間として生きていたのではないだろうか。
それなのに弟の身体にメスを入れることを許した私。
なんて馬鹿なことをしたのだろう。
のり子は献体したことをずっと悔やんだ。
世の中は綺麗ごとでは済まされないことがたくさんある。
医者の卵たちの勉強のためになるのだったらと思い、献体したのだが、その判断は間違っていたのではないだろうか。
のり子はそれからずっとそのことを悔やみ、悩んだ。
自分の評価は他人が決めるものではない。
自分でそれを認め、自分で評価するもの。
弟の献体のことに対して、のり子はずっと答えを出していない。
還暦も過ぎ、残された時間の短さを感じるようになったのり子は、そろそろそのことに結論を出そうと思う。
献体後の顔の変化には驚かされたが、しかし、あの時は真剣に考え、献体すると決断した。
あの時はそれでベストだと思ったのだ。
それが後で間違いだったと気が付いたら間違っていましたと言えばいい。
だから、検体のことはもう許そう。
今がベストと決める勇気
後で変える勇気
(福島正伸)
※note毎日連続投稿1900日をコミット中!
1834日目。
※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。
どちらでも数分で楽しめます。#ad
献体してよかったのだろうか
~ネガティブな過去を受け入れる~
~その時がついに訪れた~ ネガティブな過去を受け入れる
↓
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心電図が取り外され、病室から機械が持ち出されている間、のり子は弟の腕の近くまで身体を曲げて、口にタオルをあてながら声を殺して泣いていた。
今まで抑えていた感情が一気に溢れ出しそれがなみだに姿を変えてのり子の体外へ放出されていった。
涙が止まらなかった。
そんなのり子に医師が話しかけた。
献体を希望するかどうかと聞かれた。
献体?
のり子は献体という言葉を知らなかった。
だからすぐに臓器移植を連想した。
しかし、献体は臓器移植とは違うことが分かった。
弟が亡くなった直前に献体を希望するかどうかを聞かなければいけない医師に、お医者さんは辛い仕事だと思う。
ここは大学病院である。つまり、医師を目指している人たちがたくさんいらっしゃる。
人体にメスをいれることはなかなかないこと。
だから、献体された身体を使って自分たちの知識や技術を増やしていくのだろう。
のり子は迷った。
たった今、ついさっきまで息を荒げてベッドに横たわっていた弟の身体にメスを入れるなんて。
まだ体はうっすら温かいのである。
もしかして生きているのかもしれない。
そんな体にメスを入れるなんて考えられない。
どうしよう。
のり子は訃報を知り駆けつけてくださった親戚の方に相談した。
その方は信頼できる方だった。
のり子の話を聞いて
「献体するもしないも、それはのり子さんがお決めになることです。嫌だとお断りしてもそれは悪いことではありません。
また、今後の医療の発展の一助になると考えて検体をしても、どちらも、のり子さんが決めることです。」とおっしゃった。
献体するもしないのも、どちらも正義であり、決めるのは他人ではなく自分なのである。
のり子はどうしようか迷った。
しかし、のんびりと考えている時間はなかった。すぐに決断をしないといけなかったのだ。
悩みに悩んだ末に、のり子は献体をすることを決断した。
弟の死が、今後の医療発展に少しでもお役にたてるのなら、弟は喜んでくれるのではないだろうかと思ったから。
弟はすぐにストレッチャーに乗せられて目の前から消えた。
のり子はストレッチャーの動きに合わせて、薬の副作用で膨れ上がっていた弟の顔をしっかりと目に焼き付けた。
もしかして、戻ってきた時は、目も当てられない姿になっているかもしれない。だから今の姿を真剣にみつめた。
親戚の方にご挨拶をしてのり子は弟の身体が戻ってくるのを待った。
どの位の時間がたったのだろうか。
やっと弟の身体が戻ってきた。
そして、弟の顔を見たのり子はショックを隠し切れなかった。
さっきまで薬の副作用で顔はまん丸に膨れ上がっていたのに、検体から戻ってきた弟はいつもの鼻筋がしゅっとして頬もふくらんでおらず、入院前の弟の顔になっていたのだった。
さっきまで膨れていた顔がいつも通りの顔に戻っていたことに、のり子は愕然とした。
もしかして弟はあの時、まだ生きていたのではないか。
医学的には死んでいても、まだ人間として生きていたのではないだろうか。
それなのに弟の身体にメスを入れることを許した私。
なんて馬鹿なことをしたのだろう。
のり子は献体したことをずっと悔やんだ。
世の中は綺麗ごとでは済まされないことがたくさんある。
医者の卵たちの勉強のためになるのだったらと思い、献体したのだが、その判断は間違っていたのではないだろうか。
のり子はそれからずっとそのことを悔やみ、悩んだ。
自分の評価は他人が決めるものではない。
自分でそれを認め、自分で評価するもの。
弟の献体のことに対して、のり子はずっと答えを出していない。
還暦も過ぎ、残された時間の短さを感じるようになったのり子は、そろそろそのことに結論を出そうと思う。
献体後の顔の変化には驚かされたが、しかし、あの時は真剣に考え、献体すると決断した。
あの時はそれでベストだと思ったのだ。
それが後で間違いだったと気が付いたら間違っていましたと言えばいい。
だから、検体のことはもう許そう。
今がベストと決める勇気
後で変える勇気
(福島正伸)
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