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「higengo」(ショートショート)【音声と文章】

山田ゆり
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パートのケイコさんが出社してきた。
彼女が近づいてきた。
僕は挨拶をしようと彼女の様子を伺った。

彼女のねじり上げてまとめた髪の数本が垂れてきていて
それは計算されたものなんだと僕はいつも感じている。

ケイコさんは小さな声で皆さんに挨拶しながら歩き、僕の斜め前のPC前に座った。
今日は伏し目がちでやってきた。
ケイコさんは僕に挨拶をした時に目に力がなかった。
お子さんの体調でも悪いのか。上の子かな、それともまだ2歳の子かな。
もしかしてご主人と何かあったのか。

彼女のおくれ毛が今日の彼女を表現していた。



今朝のケイコさんのように、何もいわなくても、いつもより小走りに歩いている様や
伏し目がちな目線、おくれ毛の状態、PCが起動するまでの彼女の行動が
彼女の内面が見え隠れする。


僕はリョウスケ。
こんなものがあったらいいなとか、こんなことができればいいなという商品・サービスを開発する会社に勤めている。

今開発中の一つが「higengo」。
人と話している時は相手の「言葉・言語」から相手の気持ちを察することができる。
人に接する時に使う「言語」。
人はその言葉から感じられる相手の感情を受け取っている。
相手の感情を知る手段としてその他に「非言語」がある。


昔は相手と実際にあって話をするのが当たり前だった。
しかし、世界的な疫病が発生してから人と会わないことが推奨されるようになってきた。

そして、これまでとは違う習慣がいくつも出てきた。


その中の一つが、PCの画面を通して会話をすること。
多くの時間とお金をかけずに、ここにいた状態で世界中の方とお話ができる。
その技術は一部の人たちが以前から使用してはいたが、誰もが使えるようになったのはここ数年のこと。


相手と直接会ってはいないが、こちらの思いを十二分に感じて欲しい。
相手が感じていることを瞬時に受け取り、こちらがどのような態度をしたら良いのかの参考が欲しい、と、リョウスケの勤務先に商品開発の依頼がきた。
つまり、相手の声のトーンや目配り、間の取り方などから相手の心の中を知るアプリを手掛けている。


アプリに頼るほど、人は非言語の力が弱まってきているのかもしれない。
PC一つで世界中の人と繋がれる便利な世の中ではあるが
本来の人としての感情は失いたくないものだと僕は思う。







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山田ゆり
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