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田舎の情報リテラシー(ショートショート)【音声と文章】

山田ゆり
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念願の会社へ就職できた。

僕は都会で働いていたが、父が入院しふるさとへ戻ってきた。
一日数本しか電車が来ないこの田舎はなかなか就職先がなかった。

年収は今までの半分以下になる。
それでも仕方ないと割り切って就職した。

給料の少なさに絶望しか感じなかったが、それ以上に会社のトップの人格には
残念というしかない。

地元の会社のトップはほとんど踏襲制だ。
生まれた時から社長を約束されているから、僕から見たら甘ちゃんしかいない。




**ひと月前

ある日、その会社の前を通ったら求人の看板があった。
かなり手の込んだものでQRコードが掲載されていた。

この田舎で求人広告にQRコードを載せる企業は珍しい。
それだけこの企業は進んでいるのかもしれない。
その会社は半世紀以上続く老舗だ。

いいかもしれない。
僕は営業員募集に応募した。
数日後に面接があり、その日のうちに採用の連絡が来た。


そして入社初日。
本社で辞令をいただき皆さんから拍手をいただいた。
そして記念撮影になった。

次に僕だけ撮影をすると言われた。

にこやかな社長が近づいてきて
「〇〇君、じゃぁ、満面の笑みでお願いします。
最近始めた会社のSNSにこの写真を載せるから!」

自慢げに社長がおっしゃった。

「あの、顔をぼかすとか何かされるんですよね?」
僕は一応、お聞きした。

「いや~、そんなことはしないよ~。
じゃぁ、ニッコリお願いします」


えっ!そ、そんな。


社長は、従業員が会社のSNSに顔を出して当たり前と思っている。

情報リテラシーは?

僕は引きつった顔で写真におさまった。



数日後、僕はその会社を退職した。
入社式の当日に感じた違和感はその後もいろいろな面で僕に「ここでいいのか」と問いかけてきた。

その会社が悪いのではなく、僕の感性が許容範囲を超えていた。




退職して数日後にその会社の前を通った。
店の前にはあの看板がまだあった。
しかし、看板は少し変更されていた。

「アドレスが乗っ取られました。
だからこちらのコードをご覧ください。」


乗っ取られたって・・・。
しかもそれを看板に書くなんて。


フッ。


僕の判断は間違っていなかったと思う。


木枯らしに吹かれこげ茶色の葉が渦を巻いて飛んできた。
今回のことは落ち葉が舞い散るくらいの、どこにでもあることだ。


僕はコートの襟を立てて足早にそこから離れた。








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山田ゆり
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