「書きかけの下書き」が溜まっていくあなたへ~たくさん書いて上達するために
ライティングでは、よく「数稽古」の大切さが説かれます。「書く」という行為を体に覚えさせ、しみこませ、書けば書くほどスラスラ言葉が出てくるようになる……という。
私も、以前、こんな記事を書いています。
ただ、この「数稽古」の段階まで行けずに悩んでいる方も、実はたくさんいます。おそらく、「数稽古」ができる方は、もともと、そこそこ文章が書けたり、文章を書くことが苦にならない、下地のある人。
では、「数稽古」をしようと思っても、たくさん書けず、手が止まってしまう場合は、どうしたら良いか?
2013年に、第149回芥川賞を受賞した藤野可織さんの、こんな言葉が参考になります。
「以前は、いま書いているものを一番いいものにしようとし過ぎて筆が止まっていた。最近は、どんどん書くことが上達の道だと開き直った」
デビューから8年、2回目のノミネートで受賞となった藤野さんのインタビュー記事が北海道新聞に掲載された時に、目に留まった一節です。
「書く姿勢」への大切なヒントが盛り込まれているな、と感じました。
「ライティングに関するお悩み相談」では、「いざ書き始めても、最後まで書ききれない」とおっしゃる方が少なからずいます。
おそらく。こうした方は、とても真面目で完璧主義なのだと思います。
もちろん、人としては美点です。ただ、文章を書く際に限って言えば、
完璧主義はマイナスに作用することもあります。
では、どうすれば良いか?
■「不完全でいい」を受け入れる
まずは、論理や構成は気にせず、バーッと思っていることを吐き出すように
文章にしてみる。ここがスタートです。
うまいとか下手とか、伝わるとか伝わらないとか、字が間違っているとか、論理が変とか気にしないこと。
そして、出来上がったものから不要な部分を削り、順序を入れ替え、より伝わる表現に練り上げていく「編集」を行うのです。
決して一発で決めようとしないこと!
そんなこと、プロの作家だって無理です。ましてや、ライティング初心者であれば、いわずもがな。
「下書き」⇒「編集」⇒「清書」
このステップを踏まずに「自分の文章」という果実を得ることはできないと、まず知って下さい。
「そんなの時間がかかりすぎる」
「面倒だなあ」
と思いましたか?わかります。その気持ち。
確かに、最初は何時間、何日もかかるかもしれません。でも、どんなことでも、苦労なしに身につけられるスキルなんてありませんよね。
大丈夫。
ある程度の数をこなせば、下書きの段階で「編集」しながら書けるようになります。
完成形に8割近い形まで下書きで書けるようになれば、編集・清書にかける時間を減らすことができます。そうなれば、書く時間も短くて済み、スピードアップできるのです。
ただ、初心者の段階では、「下書き」と「編集」のステップは必ず分けること。これが「最後まで書く」「わかりやすい文章を書く」ためのコツです。
■放置から熟成のステップ!
もう1つ。大事なことを、藤野可織さんから学べます。
彼女の芥川賞受賞作『爪と目』は最初三人称で書いたけれどうまくいかず、放っておいたものを二人称で書き直したらうまく最後まで書けたそうです。
ここも重要!
「書きたい!」「書けそう♪」と思ったネタでも、しっくりまとまらない経験は、誰にでもあります。
そこを頑張って、なんとか結論まで持っていこうと、ずーっとかじりついていると、いつまでたっても書き終わらず悶々とします。
かけた時間に見合った成果を得られないと、気持ちはイライラするもの。これでは、ますます「書けない」「書くのは辛い、苦手」のネガティブループに嵌ってしまいます。
私の経験からも、こういう場合は、思い切って、一度「棚上げ」したほうが良いです。そして、新たに別のネタで文章を書き始めること。
「途中で放置して、そのままにならないか?」という心配は無用です。一度、真剣に向き合ったことは、意識しなくても潜在意識の中にきっちり刷り込まれているもの。
たとえ別のことをしていても、無意識に「解決策」を探し出すように脳は働いています(これはライティングに限らず、どんなことでも!)。
ある程度、時間を置いたら、もう一度、書いたものを見直してみて下さい。時間を置いてもう一度見る時は、「書いた時とは別の自分」になっていて、リフレッシュされた視点で眺めることができるはずです。
この第三者の視点で見ることこそ「編集」の極意。
以前の自分の原稿を、他人の原稿を見るように赤字を入れることができます。文章を別の角度から見直す感覚ですね。
見直して書き直した結果、以前、書こうと思った内容・結論とはまったく違った仕上がりになることもあるでしょう。
でも、それはそれでOK。
一生懸命向き合う⇒時間を置く⇒客観視する
このステップが、文章を練り上げていくことに繋がります。
こう書いていくと、良い意味での「いい加減さ」が文章上達の秘訣とも言えそうです。
なるほど、私がこういう職業に就けたのも納得!?
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