【詩】柿
目の前にある一本の柿の木
青い空の手のひらで押さえつけられたように
ぐねん、と枝を横へ伸ばしている
そこへぶら下がる熟し切った柿
見知らぬ老夫と老婆の横顔に見える
もうひと風吹けば、
ポトリと落ちて、ぺチャリと広がり、冬が来る
<柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺>
正岡子規は当時28
普通なら、まだまだ硬い柿だったろう
落ちれば、ゴトリと音を立てる歳だったろう
畑の養分になるには時間のかかる実だったろう
しかし、かれは病気をしていたから
本当に自分の鐘が鳴った時には、
すぐに実を柔らかくして大地へ優しく寝そべった
木の枝を空へ押し返す力へ喜んで参加した
あぁ、君も私も、まだまだ独りよがりの柿のようだ
しばらく静かにぶら下がっているしかない