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詩【ピアノ】
うちには、古いピアノがある。
半世紀以上も前に作られたもので、
妻の恩師から譲り受けたものだ。
最近、7歳の息子がピアノを習い始めた。
息子が鍵盤を叩くと、ピアノが喜んでいるのがわかる。
例えば、カタツムリの曲。
つのだせ♪ やりだせ♪ のところ、
息子でなくピアノの方が、
今にも踊りだしそうにノリノリである。
一曲弾き終わるたびに、どう?と顔を向ける息子。
いい感じ、と言ってやると、
ピアノまで、にやけている。
ある日、息子は、うまく弾けなくて、
ピアノをばたん!と閉めた。
そのとき、ピアノは悲しそうに、ただのピアノになって表情を出さなかった。
みんなが寝てしまって、私とピアノの二人になると、
ぼそっと、
明日も弾いてくれるかそれだけが気がかりです、と言った。
息子は次の日もピアノの前に座った。
ピアノは、凛と構えていた。
祖父が孫を見つめるような眼差しだった。
見えない両手で息子の指を優しく運んだ。
「できたできた」と喜ぶ息子の横で
私は、彼に「これからも息子をよろしく」
と言っておいた。
彼は喜んで、思わず良い音を出した。