詩【芝居】
今年は秋刀魚が高いから
代わりに鯖を焼いている。
庭先の七輪から昇る煙が
夕空に溶けてプロローグ。
西の空
果てしなく微妙な夕藍のグラデーション。
それを切り裂くボーイング787。
定員240名の日常と非日常が点滅している。
あの飛行機雲の鋭い直線は、とある歴史と勇気が引っ張っているらしい。
すぐ後を追う夕陽。
何億回も出演し続けるベテラン役者だが、
今の時分は出演時間が短い。
見せ場は去り際の残光。
振り向きざまの慣れたスマイル。
颯爽とステージ裏へ消えてゆく。
ーー幕間の鯖が美味いーー
さっきまで舞台裏で電柱の家族とおしゃべりしていた月。
やっと、自分の出番だと気がついて、慌てて金色の化粧。
さすがの貫禄で秋のど真ん中に躍り出た。
僕は彼女のファンだから、死ぬまでに一度は握手したい。
最後は、優雅なペガスス座。
風に立て髪を靡かせている。
何百光年先の嗎が、僕にははっきりと聞こえた。
これから、ボーイング787を背に乗せて、アンドロメダ大銀河まで飛び駆けていくらしい。
明日の生活の憂鬱はあれど、
身近に横たわった悩みもあれど、
言葉では足りない美しさが、今、こうして、目の前にある。
そして、ほら、この鯖は300円だし、
この芝居は毎日休まず公演してる。
だから、君はもっと自然体でいいし、
僕らは、もっと嬉々としてていい。
そう思った。