【落とし物】「おや、白い雨かな……?」【そして痛風へ】
仕事終わりの帰り道、いつものように自転車をこぐ。
ああ、今日も本当に疲れた……。
しかし自転車だけで完結する通勤というのは良いものだなと思う。
自転車と電車と徒歩が組み合わさった通勤をしていた以前からすると、電車の運行状況やら混雑やらを気にしなくてもよくなって、かなり負担が減ったのを感じる。
さて、昼勤務の定時上がりは夕方に帰ることになるのだが、この時間帯は鳥たちが非常に騒がしい。
空にはスイミーや龍のごとく、鳥が集団となって飛び回っている。
そんな鳥たちが最終的に落ち着くのはどこかというと、電線の上だ。
前方に見えてきた何百羽という小さな鳥たちが止まった電線は次第に分厚さを増し、その存在感を高めている。
……そういえば、この前読んだ電柱鳥類学の本は面白かった。
たしかあの本によると、電線というものはこうやって鳥が大量にとまっても大丈夫なように、あらかじめ鳥を想定した耐荷重が設定されているんだったか。
そして鳥の種類によって電線のどの部分にとまるか(真ん中か端っこか)にも違いがあるという話で、やっぱり研究者は目の付け所が凄いなぁと尊敬してしまった次第。
……まあ今見ている電線は鳥の数が多すぎるのか、そういうの全然関係なさそうな雰囲気だけど。
そして気づく。
(このまま進んだらヤバくないか?)
そう、このまま自転車を進めていくと間違いなく鳥たちが密集した電線の下を走り抜けることになるのである。
つまりは鳥たちに爆撃される可能性があるということだ。
だがもしかしたらの可能性のために、わざわざ向かい側の道へ渡るのも面倒くさいんだよな……。
そもそも自分は仕事終わりで疲れている。余計なことはしたくないのだ。
……うん、まあ大丈夫だろう。
実は過去に稚内でカモメに爆撃されたことはあるが、それ以降はそんなこと一度もないし。
というわけで、自分は大量の鳥たちが鳴き叫ぶ真下を自転車で駆け抜けたのだった。
大丈夫大丈夫、きっとうまくいく。
……ピチャッ。
白い雨が降った。
は〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・・!!
……いや、明らかに自分の判断のせいである。
鳥は悪くない。
彼らは空を飛ぶために体を軽量化しまくっており、そのせいで人間のような長い腸を有しない。ゆえに垂れ流し状態なのである。
まあ幸いなことに、降り注いだ白い雨は腕に1箇所ついただけだ。
思えばまじまじと鳥の糞を見ることもそうそうない。観察してみよう。
たしか鳥の糞は白い尿の部分と固形物(フン)とが混ざっているとか聞いた気がするが………しかし腕についたものは白い液体だけのようだ。
へぇ、こういう場合もあるんだなあ……
ほのかな学びを得たところで、自分の中の岸辺露伴が突如顔を出す。
いや、流石にここで味は調べないのだが、香りくらいは確認してもいいんじゃないかなと思ったのだ。
これはつい最近なにかのポッドキャストで、「生まれたばかりの赤ちゃんはうんちの香りを忌避するものとは思っておらず、周囲のそれに対する反応を見て学習した結果、嫌悪することを覚える…」みたいな話を聞いていたせいかもしれない。
ここはひとつ、フンという固定概念を捨てて確認してみよう。
んじゃちょっと失礼して……
(クンクン…)
……なるほど、わからん。
しいていえば無臭……?
どうやら固定概念を捨てるまでもなく、さほど問題のある匂いではなかったらしい。
さて、人間はアンモニアを尿素として排出するが、鳥は尿酸の形にして排出する。
つまりこの白い色は尿酸の結晶の色なのだ。
なぜ鳥がそんな仕様になったのかといえば、これも軽量化のためだという。人間のように尿素で排出するとなると大量の水が必要になってしまうため、飛行する際に弊害となるのだ。
そして尿素ではなく尿酸にすることは、卵の中で育つという鳥の性質にも役立っている。
尿酸は水に溶けないし毒性もないので、卵の中の貴重な水分を汚染することがないのだ。
……いやまてよ?
つまり同じく卵の中で育つ爬虫類も、尿素ではなく尿酸にしているということか?
調べてみると、やはりトカゲやヘビなども尿酸に変えているらしい。
とはいえ爬虫類も各種違いがあるようで、亀なんかは陸生種は尿素+尿酸で、水棲種は尿素+アンモニアだったりと、単純ではない。
(でもこれだと水棲種の卵の中大丈夫なのか…?)
そしてそして、人間にとって尿酸といえば『痛風』が思い浮かぶわけだが、こんなふうに体の中で尿酸を作りまくりな鳥や爬虫類たちも(メカニズムはちょっと違うが)痛風に悩まされているという。
ペットの鳥が止まり木を掴まなくなったら、もしかしたら痛風になっているのかも……!?
人間も肉体的な仕様であれこれ病気になるなんて話があるが、動物たちもそれぞれ生まれ持った性質で苦労していたんだな。
完璧な生物なんてものはいない。
みんなそれぞれの悩みを抱えつつ生きているんだね……!
そんなわけで、爆撃を受けたことで「尿酸」と「動物の痛風」の知識を得るきっかけになった。
良い学びの機会を得たなあと思いつつ、今後は夕方にあの道を通る際は油断せずに逆サイドを通ることにしようと思った次第。
ああいう勇気は匹夫の勇、本当の勇気とは別のものだ。