【超ネタバレ】『プロジェクト・ヘイル・メアリー』下巻を読んでの感想【神SF】
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』
この作品に出会えて……良かった。
※上巻の感想↓
ということで、
上巻が1週間かけて半分ちょっとしか読めていなかったのが嘘のように、
あっという間に下巻を読み終えた。
はぁ……こりゃもう……。
『火星の人』越えたな……。
ではまた壮絶にネタバレをしていくので、
読んでいない人は留まるか見ずに閉じるかを判断してほしい。
もちろん今回も隅々まで詳しく語る訳ではないので、この記事よりも本を自分で読んだときの体験の方が圧倒的に勝るものになるのは言うまでもない。
なにせ上巻レビューでは主人公の名前すら言ってないのだから。
(別に隠す意味はまったくないけど)
では、下巻の内容を話していこう……!
異星人ロッキーと出会った主人公。
二人はヘイル・メアリー号の中で共同生活を送ることにした。
ロッキーと人類は何もかもが違う。
体に流れているのは水銀だし、遥かに高圧高温の状況で生きてきた。
ロッキーの居住空間はロッキー用に調整している。すごい技術で。
なので、基本的には同じ居住空間にいられるわけではない。
(謎のボールみたいなものに入ればいけるのだが、無重力時に限る)
当然文化も違う。ロッキーの種族の文化では、寝ている時には誰かに見ていてもらうのが当たり前だったり、食事は他人に見せないものだったりする。
その理由は、彼らにおける睡眠が人類のそれと違うことや、食事と排泄が一緒になっていることが理由だったりするのだが……(この描写も興味深い)
そしてなんと、ロッキーも主人公と同じくアストロファージを燃料にした宇宙船に乗っていることが判明。しかもロッキーは燃料をめちゃめちゃ大量に持ってきているらしい。
そのため、主人公が乗っているヘイル・メアリー号の片道分の燃料(200万キログラム)くらいなら、余裕で分けてくれるそうだ。
つまり主人公は地球に帰れるのである!
持つべきものは異星人の友だな……。
地球に帰れることがわかったのはいいとして、
アストロファージ問題の解決法を探さねばならない。
ということでいよいよ、アストロファージを採取することにする。ロッキーによると、タウ・セチから離れたアストロファージは、近くの惑星エイドリアンに繁殖のために集まっているという。
(エイドリアンは主人公が命名。”ロッキー”から連想)
主人公は船外作業を実施して、惑星エイドリアンに寄り付いていたアストロファージを捕獲。それを顕微鏡で調査する。
すると、10ミクロンほどの黒い粒子であるアストロファージの他に、
「なんだかよくわからないもの」がいっぱい見えたのだった。
主人公とロッキーは、これが「アストロファージを捕食している生物」だという結論に至る。アストロファージはエイドリアンで生まれ、ここから他の恒星へ移動していったのではないか?
他の恒星ではアストロファージの捕食者となるものが居なかったので、されるがままに恒星はエネルギーを吸収されている。
しかしタウ・セチの周辺においては、惑星エイドリアンに生息する捕食者の影響でそれが抑えられているのかもしれないのだ。
つまりこの捕食者を単離し、これを地球やエリドに届けることができれば、アストロファージ問題は解決するのである!
主人公とロッキーは、さっそく捕食者を増殖させることを目指す。
……しかし、あれこれ条件を変えてもうまくいかない。
その後2人のなんだか難しい話し合いの結果、
「捕食者はエイドリアンの大気中にいるのでは?」という結論に至る。
そして、大気中のサンプルを得るために、ヘイル・メアリー号をエイドリアンにかなり近い位置まで降ろし、そこから先端にサンプル採取容器をつなげた鎖を下ろすという計画を考案。
(ロッキーが自分の宇宙船から持ってきたキセノナイトで鎖やサンプル容器を作れば、いかに大気の摩擦熱が発生しようとなんの問題もないのだ)
捕食者がいると思われる高度の大気にサンプル回収容器を持っていくために、10キロメートルの鎖を作る作業が開始される。(2週間かかった)
そして……作戦は見事成功。
めちゃくちゃ長い鎖をどうにか引き上げ、捕食者がいるであろうサンプル容器を船内に回収した……そのとき。
船が揺れ、おかしな方向にスラストし始める。
エンジンを完全に切っても状況は変わらない。
むしろ段々と体にかかるGは増している。
実は船の燃料タンクは大気との摩擦に耐えられなかったのだ。
燃料タンクは熱によって大きく損傷していた。
そしてヘイル・メアリー号の燃料はアストロファージである。
それもただのアストロファージではない。
「エネルギーたっぷりの、繁殖したくて仕方がないアストロファージ」だ。
そしてここは繁殖地となっているエイドリアン。
ヘイル・メアリー号の傷ついた燃料タンクから、
エイドリアン目指してアストロファージが勢いよく飛び出していたのだ。
それによって船が予想もつかない動きをしているのである。
主人公は燃料タンクの破棄を決断。
いくつかのタンクを破棄したことで、これ以上のおかしな回転は生じなくなるだろう。しかしもう既に遠心力は高まりまくりで6Gを越えている。
そのとき、とうとう主人公の椅子が高まったGに耐えられなくなり破損。
主人公は椅子ごと吹っ飛び、Gの影響によって超重い椅子と、椅子のベルトの締め付けによって肺呼吸が阻害されて……!?
(つづく…)
……ということでまたネタバレ書いてるだけなわけだが、どうだろうか?
まだこれが下巻の序盤である。 最高かよ……!
あれだけ眠気にやられていた上巻は何だったのかというくらいテンポよく謎が解かれ、アクシデントが起こり、ハラハラドキドキが止まらない!
まさかの捕食者の存在は考えもしなかったが、ここらへんの実験風景に関してはなんとなく想像ができるので正直楽しい。
しかし作者も感情を動かすのが上手すぎる。
まさかの地球に帰れることになってしまうし、原因も発見できるし、
作戦も見事に成功……と思いきや大変なことに!!
いやホントにロッキーが出てきてからというもの、面白すぎる。
ページをめくる手が止まらない。
しかし主人公は危機的状況である。
一体、どうなっちゃうの……!?
呼吸が出来ない主人公。
肺は二酸化炭素濃度の高まりにパニックを起こしている。
すると、突然肺が開放された。必死に呼吸して激しく咳き込む主人公。
どうやら椅子のベルトが切られたことで息ができるようになったらしい。
しかし一体誰がベルトを切ったのか……?
……傍らには、凄まじい熱を放出して死にかけているロッキーが居た。
ロッキーは主人公を助けるために、この空間に入って来たのである。
しかしロッキーが生きていた環境は人類とは全く違う。
ロッキーにとっての普通の世界は、気圧は29気圧で、空気中に酸素はなく、気温は200度以上なのだ。
つまりこの空間は、ロッキーに致命的なダメージを与えている。
いち早くロッキーを助けたい主人公だが、まずは船の重力をどうにかしなければならない。6Gではどうしようもないのだ。
なんとか0.5Gの状況にすることには成功したが、ロッキーは岩やら金属やらが大量に含まれているので、0.5G下でも90kgある。
そしてロッキーが発する熱が尋常じゃない熱さ。
主人公は二本のテザーにロッキーをくくりつけ、大やけどしながらどうにかこうにかロッキーを元の居住空間に戻すことに成功する。
その後ロボットアームに治療を要請し、主人公は気絶した。
6時間ほどして主人公は目覚める。
ロボットアームはしっかり治療をしてくれたようだ。
全身火傷だらけでボロボロの状態だが、ロッキーを救うため動き出す。
そしてなんやかんやでロッキーのためにあれこれしたのだが……。
結果的にロッキーは自己治癒力がすごかったらしい。
しかし、もちろん主人公がロッキー用の環境に移さなければ死んでいたのは間違いない。ロッキーは感謝を述べるのだった。
(つづく…)
は~~~~……軽く泣きかけたシーンだ。
命をかけて主人公を助けるロッキーが最高すぎた。
自分は毒ガスが漂うマイナス200度の部屋に飛び込めるだろうか?
もちろん無理だろう。
そしてそろそろ過去の記憶の話もしなければならない。
実際は「宇宙船の話」と「過去話」がちょこちょこ入れ替わりながら書いてあるものなのだが、もうまとめて書いてしまおう。
過去に何があったのか、どんどん明らかになっていく。
・・・主人公はまたふいに過去の記憶を思い出した。
スリープ装置を使用できるのは誰でもOKというわけではなく、
希少な昏睡耐性遺伝子をもった一部の人間だけだということ。
自分はヘイル・メアリー号に乗り込む予定のクルーたちに、
アストロファージに関する教育を行う役目を担っていたこと。
ヘイル・メアリー号の打ち上げ9日前に大事故が起き、
正規クルーと予備クルーの2名を失ったこと。
主人公は昏睡耐性遺伝子を持っていたこと。
主人公は正規クルーになることを要請されたこと。
そして主人公はその要請に対し、
「地球を救うために自分の命を捨てるのは嫌だ」と拒否したこと。
(つづく…)
上巻で気になっていた、主人公がクルーになる経緯が明らかになってきた。主人公は偶然にもスリープ装置が使える耐性遺伝子を持った人間で、事故によってクルーが失われたことで抜擢されることになったのだ。
なにせ主人公は計画の初期からずっと関わっており、アストロファージの増殖方法も発見したのは主人公である。
そして計画の責任者であるストラットは、計画の各工程や会議に、常に主人公を連れて行っていたのだ。もしかしたら起きるかもしれないアクシデントに備えて。(そしてそれは起きてしまった)
そして、この小説は全て一人称で書かれている。
つまりこの本に書かれていることは全て、主人公が体験したことなのだ。
だからこれを読んでいる読者も、主人公がいかにこの計画のあちこちに関わっているかをよくわかっている。
どう見ても間違いなく主人公は適任者なのだ。
命を捨てることを拒否している以外は。
しかし嫌がっていたはずの主人公はヘイル・メアリー号に乗っている。
いったいどういうことなのか。
それはもう少し先の話になるので後回しである。
では、捕食者培養シーンへ……
主人公とロッキーは、エイドリアンから採取したサンプルで実験を開始。
ロッキーは凄い。キセノナイトで本当になんでも作ってしまう。
(今後出てくる実験器具はほぼロッキーお手製だ)
キセノナイトは透明にもできて、圧力や熱にも超強いという最強の素材だ。
そんなお手製器具を使い、エイドリアンからのサンプルにアストロファージを餌として与えると……捕食者がアストロファージを食べた!!
捕食者はやはり居たのだ。
主人公たちは、このアストロファージ捕食者を「タウメーバ」と命名。
(タウ・セチのアメーバみたいなもの?)
そしてさっそくタウメーバを単離・増殖。
あとはこれを自分たちの使用したい環境で使えることが確認できれば、
見事アストロファージ問題は解決。
地球とエリド(ロッキーの故郷の星)も救えるし、
主人公はロッキーの船の燃料のおかげで地球に帰れるのだ。
というわけで実験を続けていたのだが……。
あるとき、船内がブラックアウトした。
予備電源によって明かりや生命維持システムは動いているものの、
4日ほどでそれも尽きる事が判明。
原因を探りに行った主人公は、燃料タンクのアストロファージが全て
ドロドロの腐った匂いを発する物体になっているのを発見。
ヘイル・メアリー号の燃料は、全部ヘドロに成り果てていたのだ。
原因は、エイドリアンでのあれこれによる激しい損傷(内部も6Gでハチャメチャになった)によって燃料ラインに損傷があり、そこにタウメーバが入った事によるものだった。
タウメーバが燃料タンクのアストロファージを食べ尽くし、その排泄物がヘドロとして残っていたのだ。
主人公はタウメーバを密閉保存はしていなかったので、いくらか逃げ出して船内に飛び散っていたのである……。
ヘイル・メアリー号は広大な宇宙で立ち往生。
(正確には、近々軌道減衰してエイドリアンに落ちて燃え尽きる)
せっかくタウメーバで地球が救えそうだったというのに……。
ふと、主人公はあることを思い出す。
ヘイル・メアリー号は片道切符の燃料しか積んでいなかったが、
では得られた解決策をどうやって地球に送るつもりだったのか。
そう、ヘイル・メアリー号の先端部には、解決策を送り返すために用意された小さい船が4機搭載されているのである。
(ビートルズ。4機それぞれに名前がついている)
その船には当然だがアストロファージが燃料として搭載されている。
もちろん密閉されているのでタウメーバが入りようもない。
主人公はロッキーと協力し、ビートルズのうちいくつかを使用して、ヘイル・メアリー号の操縦を行った。そして無事にエイドリアンの軌道を離れ、ロッキーの宇宙船のある方向に進路をとったのである。
ロッキーの船にはアストロファージがたんまりあるのだ。
そこまで行ければ燃料問題はどうとでもなる。
ロッキーの船に着くまでの11日間、研究を続ける主人公たち。
研究の結果、タウメーバは窒素に極めて弱いことが判明する。
だが、主人公やロッキーがタウメーバを使いたい環境には窒素が存在する。
つまりタウメーバではアストロファージ問題を解決できない。
もうだめなのか……?
主人公はあるアイデアを思いつく。
「ちょっとづつ窒素に慣らしていけば、どんどん窒素に強いタウメーバが作れるんじゃないか……?」
抗生物質が効かなくなる理屈と同じように、極めて少ない窒素下で生き残った少数のタウメーバを増やし、今度はちょっとだけ窒素濃度を増やした環境を用意し、またそこで生き残ったものを増やし、また濃度を増やして……
これを繰り返すことで、主人公たちはついに窒素8.25%でも耐えるレベルの「タウメーバ82.5」を生み出すことに成功。
自分たちの星を救うタウメーバの誕生である。
別れのときが来た。
主人公はロッキーから地球に帰れる量のアストロファージと、その収容タンクを作ってもらった。(タンクはエイドリアンで切り離していたので)
そしてロッキーには、地球のありとあらゆる情報がてんこ盛りのラップトップPCをプレゼントした。
友に別れを告げ、宇宙船はそれぞれの星へ向かう。
どちらかが欠けていたら、絶対にこの結果にはなっていなかっただろう。
「無事に帰ってくれよ、バディ」
主人公はそうつぶやいたのだった――
(つづく)
続くんだ!?
そう、続くのである。
めっちゃ終わりみたいな感じ出してるけど。
しかし本当に凄い作品だ。
何回トラブルを起こしたら気が済むのか。
「やっぱり捕食者は居た!!」で喜んだと思ったら、その捕食者に船の燃料をムシャムシャされるわ、それが解決したと思ったら、タウメーバがこのままじゃ使い物にならないことが判明するわ、その解決策が抗生物質に負けない厄介な耐性菌に着想を得ているわで、もう大変!!
しかしこの作品は一貫して告げていることがある気がするのだ。
「勝手に諦めるな。頼れ」と。
この作品では「ああもうダメだ!おしまいだ!!」ということが何度起きても、二人で力を合わせると必ず解決できる。
(大体ロッキーが解決してくれる)
勝手に自分の基準で判断して諦めてはダメなのだ。
友人は同じことを簡単に解決できてしまうかもしれないのだから。
なんだか、そんなことを教えてくれている気がしたよね……。
あ、最後の過去の記憶のシーンをどうぞ。↓
「ぼくはいきません、これがファイナル・アンサーです!!」
主人公はストラットにそう叫んだ。
「怖いのはわかる、死にたくないのもわかる。でも、いってもらいます」
そう告げる計画責任者のストラット。
逃げるように部屋を出ようとする主人公の前に、兵士が立ちはだかる。
そしてストラットは今後主人公に起きることを説明した。
主人公は打ち上げ当日には鎮静剤を投与され、意識を失う。
打ち上げ後、その他2名の乗組員によって、主人公はそのままヘイル・メアリー号のスリープ装置へ。
主人公はそのままスリープに入り、その過程で健忘症を起こす薬を投与される。それは現在主人公が抱いているストラットへの恨みも、計画を台無しにしてやるという気持ちも、一定期間忘れさせる事が可能。
スリープから目覚めた主人公は乗組員2人と共に解決策を探るだろう。
そして解決策を搭載したビートルズを地球に向けて送られたあとに、主人公は今までの記憶を取り戻す。
しかし記憶を思い出したときには、もう役目は果たしている。
思い出したところでどうしようもない。
燃料はもうないのだから。
(つづく…)
ストラットさん……。
エグいことしよる……!!
責任感と決断力の塊であるストラットさんは、主人公に対してかなり強引なことをしていたのだった。
そして思った以上に主人公が乗り気じゃなかった。
というかそもそもロッキーの協力がなければ、到底タウメーバ単離からの窒素耐性付加までたどり着いていない気がするので、「プロジェクト・ヘイル・メアリー」は、本当に博打みたいな計画だったんだなと思う。
だが、なんだか悪役にしか見えなくなってきたストラットさんは
以下のようなことも言っているのだ。
南極の氷を溶かすことで温暖化させて稼いだ26年という人類半減のタイムリミットは、世界中で変わらずに農業を行い、平等に食料を分けたらの話。
人類に果たしてそれが可能だろうか?
軍事力を持つ大国が、近隣の小国の食料を黙って見ているだろうか?
自国民の半分が飢え死にする姿を眼の前で見ているのに。
古代に起きた戦争は「食料」のために起きた。
農地と、食料を作る人間を求めて。
そして戦争が起きると、食料生産より兵力の動員が優先される。
そもそも足りない食料は更に足りなくなる。
きっと食料だけでなく、医療やインフラにも影響が出るだろう。
今まで防げていた病気も防げない状態になる。
今の私達にあるのはヘイル・メアリーだけ。
少しでも成功率を高める要素があるなら、私はどんな犠牲でも払う。
地球に残った私達には、地獄が向こうからやってくるのよ。
やっぱストラットさんかっこいいわ……!
それはともかく、ネタバレの続きである。
ああもう、素直に地球に帰してあげればいいのに……!
ロッキーと分かれて18日。
主人公はカメラで遠く彼方のロッキーの宇宙船の光を見るのが日課になっている。これもいつまで見えるのだろうか。
片道切符のはずが、まさかの地球帰還が可能になった主人公。
タウメーバ農場の世話をしつつ、論文をいっぱい書いてやろうとか、異星人についてまとめなきゃとか、ストラットに浴びせかける言葉を考えて過ごしていた。
あるとき、ビートルズの燃料補給をしようと備品キャビネットからアストロファージ貯蔵容器を引っ張り出し、蓋を開けてみた主人公。
なにやら嗅いだことのある腐った匂いがする。
考えられる可能性は一つ。
タウメーバが脱走して、アストロファージを食べたのだ。
しかしおかしい。
そんなことが起こらないように、密閉容器の外には一切タウメーバは漏らさない構造にしているし、そもそも以前窒素100%で部屋の中を満たして、タウメーバを完全に”殺菌”した状態なのだ。(さすがに100%の窒素には耐えられない)
様々な実験を重ねて原因を探る主人公。
そして、発覚したのは衝撃的な原因だった。
タウメーバはロッキーお手製のキセノナイト製の容器で何代にも渡って培養していた。そう、キセノナイト製の容器で。
タウメーバ82.5は、8.25%の窒素耐性を得ただけではなかった。
それと同時に、キセノナイトに入り込めるという進化も遂げていたのだ!!
窒素から逃れるために得たその能力により、タウメーバはじりじりと容器を通り抜けて、ついには外に脱出できてしまうのだ。
とはいえ、この船はキセノナイトで出来ているわけではない。
ロッキーに作ってもらったタンクも、キセノナイト製ではなく、なんだかよくわからん金属を使って作ったタンクなので、タウメーバが入り込むことはないだろう。
備品庫のアストロファージは食べられてしまったが、燃料タンクは問題ない。このまま地球に帰ることが出来る。
……だがロッキーは?
そう、ロッキーの宇宙船は、何もかもがキセノナイトで出来ている。
ロッキーに渡したタウメーバ82.5は、ロッキーの宇宙船のキセノナイトで出来た”隔壁”や”燃料タンク”を容易に通り抜ける。
そして燃料のアストロファージを食い尽くすのだ。
日課で見ていたロッキーの宇宙船の光は、今はもう見えなくなっていた。
遠く離れたからではない。燃料が食い尽くされたのだ。
主人公には選択肢がある。
・このまま地球に帰って英雄になる(ロッキーも、エリドの人々も死ぬ)
・ロッキーを助けて、エリドへ行く(食料の問題で自分は死ぬ)
・・・
主人公はタウメーバ82.5を搭載したビートルズ4機を地球に向けて発射した。これであとは地球の科学者がなんとかしてくれるだろう。
ヘイル・メアリー号は、ロッキーの船へ向かう。
・・・
紆余曲折を経て、主人公はロッキーの船にたどり着いた。
EVAを行い、ロッキーの船に取り付くことに成功。
レンチでガンガン船体を叩きまくり、
いつもロッキーとの会話で使っていた周波数での無線通信を試みる。
すると雑音まじりだが反応があった。ロッキーは生きていたのだ!
その後、初めて会ったときと同じように、ロッキーに船同士をつなぐトンネルを設置してもらう。
トンネルに姿を表したロッキーは、5本中2本の足がひどい状態になっていた。でもそのうち治るらしい。さすがだ。
主人公は、このままヘイル・メアリー号でエリドへ向かうことを告げる。
ヘイル・メアリー号にはまだ十分なアストロファージがある。
それを聞いて喜ぶロッキー。
ロッキーは、やるべきことが終わった際には、
必ず主人公を地球に送り届けると言ってくれた。
しかしそれに対して、主人公は食料がもたないことを告げる。
エリドの環境は地球とは全く違うのだ。
ロッキーが食べていたものには、人類には毒である重金属が含まれていた。
彼らの技術力がいかに高くても、人間用の食料を生産するより前に、
今持っている食料が尽きてしまうだろう。
するとロッキーが、タウメーバを食べたらどうかと提案した。
そう、燃料にもなる常に90度以上の熱を発するアストロファージと違って、
なんだか腐ったような匂いを発する物体を作っていたタウメーバ。
タウメーバはもしかして食べられる……のか……?
・・・
あれから長い年月が経った。
ヘイル・メアリー号でロッキーとタウメーバ82.5を届けた主人公に対して、エリドの人々は盛大なもてなしと最大級の配慮を行ってくれた。
主人公は生きている。
そしてミーバーガーを食べている。
ミーバーガーとは、主人公の肉で作ったバーガーである。
彼らの技術力と、ラップトップに入った地球のあらゆる情報を元に、ビタミンの合成法やクローン技術を学び、主人公に食料を作ってくれているのだ。
(なお最初の3年くらいはタウメーバで耐えるしかなかった)
主人公が生活するのは集落の中にある大きなドームの中。
ここでは人類が生きられる環境が整えられている。
主人公はある場所へ向かって歩く。
エリドに植物は存在しない。
電球も無いので、一から作ってもらった。
ドームの外に広がるのは漆黒の闇。
ロッキーたちに目が発生しなかった理由だ。
目的地のミーティングルーム(小部屋)にはロッキーが待っていた。
待ち合わせに遅れてきたことに文句を言っている。
もう老人になった主人公と違って、ロッキーは元気だ。
ロッキーとは翻訳機を使わずに会話ができる。
主人公はロッキーの音を聞き分けて意味がわかるし、
ロッキーはなんと英語を理解しているのだ。
ロッキーから告げられたのは、「太陽が最大輝度に戻った」という情報。
これはつまり、太陽からアストロファージが居なくなったことを示している。
地球の科学者がビートルズの情報を元に対策を実施し、
みごと成し遂げてくれたということだ。
自分がやったことは、無駄ではなかった。
ビートルズが届くまでの26年間に、地球に何が起きたのかはわからない。
みんなで協力したのか、戦争や飢饉でどれだけ悲惨な被害が出ていたのか。
しかし地球には確実に、ビートルズの情報を見て対策を打てるだけのインフラは残っていたのだ。
ロッキーによると、おそらくビートルズ到着から1年もかからずに成し遂げたらしい。
それを聞くと、人類はきっと協力できたのだと信じたくなる。
……自分はずいぶん歳を取ってしまった。
もう地球には戻れないだろう。
だがありがたいことにロッキーも残ってほしいと言ってくれている。
さあ、今はそれよりも向かうところがあるのだ。
主人公は別のミーティングルームへ向かう。
そこに集まっていたのは元気に飛び跳ねるエリドの子どもたち。
主人公は手元のキーボードで音を奏でる。
意味は、『はい、はい』『みんな静かに席について』。
彼らの言葉を主人公は演奏で伝えるのだ。
『光の速度が分かる人はいるかな?』
12人の子供たちの鉤爪が上がった――
-完-
……はい、ということでね。
”神”ですね。
ええもう、間違いないです。
は~……最高だった。
上巻の前半で諦めなくてホントに良かった。
ちなみにこの記事ではロッキーのセリフを一つも書いてないが、
実際にはめっちゃ喋っている。(翻訳だけど)
そしてそれがまた超かわいい。
いろいろな意味で映画化が楽しみだ。
この作品の素晴らしさを語ったらもう……なんだろう。
もうほんとに凄いよね。(小学生並みの感想)
勿論気になる部分も無いとはいえない。
『なぜ乗組員二人のスリープは失敗してしまったのか』とかね。
もちろん、圧倒的スピードで作り上げた装置だから不具合があったというのも十分ありえる。
作中では、ロッキーの船にある観測装置は壊れまくりなのだ。
理由は彼らの船も急造だったから。
そう考えると、ヘイル・メアリー号は相当優秀だったともいえる。
まあでも、とにかく面白い作品だった。
正直今作も相当に想像しにくいモチーフが多かったのは事実だし、
難しい科学的なあれこれが満載の作品ではあった。
それらがちゃんとわかったとは到底言えないが、
それでも面白かったんだからそりゃもう素晴らしい作品なのだろう。
映画化もほぼ間違いなく成功確定だ。
湯水の如くお金をつぎ込んで3時間位でやってほしい。
ということで、皆さんもまだ未読であれば是非読んでいただきたい。
こんなすごい作品も世の中にはあるんだなぁ……。