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炎天下、朦朧。

麦わら帽子のつばを上げたら、視界に蒼が広がった。
一面の蒼の麓は、掴めそうな雲がもこもこ満ちている。

身体を射るような陽射し。
頭の奥が蒸発する錯覚。
くらくらするほど眩い光に、世界の実体を見せつけられる。生。暴力的なまでの、生の匂い。木々から溢れ出す、見えぬ無数の虫の叫び。凝縮された命の叫び。性の希求。

生命の季節。肉体は呼応して、汁を垂らす。麦わら帽子を支える顎元の紐は、私を吸って黄色い。口に食んで、しゃぶる。舌に塩がしみる。私が生きている味がする。

溺れそうだ。
世界の全てが生を主張している。青々とした木の葉も、枯れた紫陽花も、虫も、太陽も、雲も、人間も、私も。

足元から地面に伸びる私はまだちいさくて、夜はまだ遠い。
幼子みたいだ。私の影はあの雲を見て、何を想うだろう。

幼少の記憶は掠れている。戻れない季節はあの雲より遠い。誰かと駆けた森林は、今よりずっと近かった。 

揺らいでいるのは私の視界か、それとも蜃気楼か。
雲が白い。蒼に映えて、ずっと白い。

家に着いたら、アイスクリームを食べよう。

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