【cinema】許された子どもたち
こんなにも逆説的なタイトルはあるだろうか。
全く許されてもいない子どもたちのことを描いているのに。
本作はどこにでもいそうな4人組(うち1人は自分がイジメの標的になりかけているのをギリギリのところでくい止めるため、仲間にならされている)が、割り箸で作ったボーガンで、いじめの標的となっている子を殺すところが起点となる。
殺すつもりはなかった。
でも殺してしまった。
だけど殺していないと翻した。
ウチの子はそんなことしない。昔いじめられていたから、人の傷みは誰よりもわかる子だ。
私は子どもを持つ親という立場にはなったことがないので、どこか達観して見てしまったかもしれない。というのも、この映画を見て、怒りが湧くとかそういうのはなくて。被害者の親の気持ちもめちゃくちゃわかるし、加害者の親の気持ちもわからなくもない。
でも私がもしこの加害者の親の立場だったら、自分の子どもを全面的に庇うことはできない。冷たいかもしれないけれど。いや、この親たちは真の意味で息子を信じていなかったと思う。信じていたら、逃げない。どんなことをしても闘うはず。この母親は闘い方を間違えたと思う。
少年が殺されるシーンはもとより、惨いのは、少年審判のシーンと、主犯格の少年が身分を隠して転校した先の学校のホームルームのシーンだと思う。
はっきり言って、この映画で明るみになったのは、当事者(加害者と被害者)を取り巻く周りの世界(学校や社会全般、法律、規範等)の残酷さだ。
誰もが見て見ぬふりをする。なかったことにしてしまう。誰の立場にもなってなんかいない。畳みかけるかのように弱い立場の側を苦しめるべく、一様に加担する。自分たちが一番残酷であることは棚に上げて。
特に「いじめをなくすにはどうしたらいいか」というホームルームの主題に対する子どもたちの白々しさといったらない。私も自分があの中にいたら、そうだったんだろうか。
自分が小中学時代、いじめはなかったかと言われると、メディアで取り上げられるようなものはなかったとしても100%なかったなんて言えない。加担していたかというと、積極的に自ら止めに入ったりしたことはないので、「加担していた」んだと思う。
この映画を見る多くの大人たちは、ある種の罪悪感に苛まれると思う。自分が能動的に加担していなかったとしても自分のその他大勢であったことは否めないから。私もそうだ。でもだからこそ考えるべきことがある。自分たちよりも若い世代の子どもたちが生きていく社会をどうすれば少しでも生きやすくできるのか。ここに出てくる弁護士や先生のように、子どもたちを守っている「フリ」をしているような人にならないために。
加害者の少年の親、特に母親は、自分の息子を全面的に「信じた」ばかりに、息子を窒息させ、生きにくく、生きにくくさせた。彼らが親子カラオケを嗜む姿は、とてつもなく白々しく、でもあれがいたってフツーの日常なんだと思う。
まさか自分の子が殺人を犯すなんて。
そのまさかは、多分だけど、昔より起きやすくなっている。繋がらなくてもいいのに、LINEなどのSNSでのやりとりに縛られ、巧妙に大人たちに見えないようにやりとりがなされる。事件後のネットでの個人情報の暴き具合、赤の他人による「制裁」。
いつからこんなに私たちは生きにくくなってしまったんだろうか。誰もこんな世界を望んでなんかいないのに。皆が皆、互いに首を締め付けて、がんじがらめになっている。
加害少年は自らの意志で、被害者家族の元へ謝罪に行った。そうすれば解放されると信じて。解放なんてされるわけがないのに。ドラマであるような赦しは現実には決して起こらないのだ。彼は逃げるタイミングを間違えたし、謝罪のタイミングも間違えた。間違えた分だけ、それは彼に重くのしかかる。のしかからないと駄目だ。それは部外者の私も強く願ってしまった。彼の行為を正当化なんて一切できない。
長々と書いてしまったけど、この映画では、モンスターなんて一切出てこないし、強いていうなら、社会全体がホラーだと思う。イジメは延々と繰り返されるし、大人たちは、世間はいつまで経っても知らぬ存ぜぬだ。
そんなことを見せつけられながら、最後まで見届けた。こんなにもとってつけたかのような幸せな家族団欒を描きつつ、不味そうなピザを食べるシーンを私は見たことがない。だけど、加害少年が転校先で出会った、イジメを受けている少女の存在はどこまでも「蛇足」のような気がした。彼は彼女がいなかったら、どうしたんだろうか。
最後に母親が息子を見る目つきがとても印象的だ。彼だけが前に進もうとする姿は、それこそ彼女にとって許せないと思う。彼は誰からも永遠に許されない。
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