桃 三木三奈5
バスから外の景色を眺めていた亜子は、八百屋の店先に目を留める。野菜やくだものたちの色彩に、形に見惚れる。そして、絵を描いていたい、と思う。何もかも忘れて、ただ絵を描いていたい、と思う。
バスは終点に着き、二人は降りる。亜子はもうおばあちゃんの家に行くのが嫌でたまらない。母のお為ごかしの涙など見たくない。そこで、亜子はおにぎりが欲しいと母から千円もらい、パン屋に入った母を残し、バスで引き返す。ここでも嘘をつく。読者は、亜子の奔放な行動に慣れてくる。その意味を知りたいと思う。亜子はバスの中で秘密のノートを広げる。そこには、こう書いてある。
芸術家になりたいなら 強くならなきゃいけない。
亜子は芸術家になりたいのだ。さっきの八百屋のシーンから考えると、絵描きになりたいのだ。