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三十五帖「若菜下」その3。角田訳源氏(不良の格が違うんだよ)


 紫の上は剃髪する。五戒を受けるが具合は一向によくならない。女三の宮は懐妊する。柏木との子である。宮の気分がすぐれぬと聞き、源氏は六条院に行きそれを知る。
 あれ? そうか。かもしれんな。あん時か。
 で、女三の宮を見舞う。それを知った柏木は源氏になぜか嫉妬し、文を書く。(馬鹿ですねえ。間男の癖して、何考えてんねん)。そして、女三の宮に渡ったその文を、源氏は見てしまう。隠しそびれた文を、たまたま源氏が見つけてしまうのである。

 全ては露見した。

 源氏は文を見て、
ーー不用心だな。こういう文は誰かに見られても分からぬように、ところどころ省略するもんだ。こんな全部書いちゃって。私が若い時は、もう少しうまく書いた。
(て、今気にするの、そこ?)
ーーこれから女三の宮と、どないな顔して会えばええのか。しかし柏木、許せんな。誰のワイフと思ってんねん。私を誰だと思ってんねん。
(おまゆう!)
ーーもしかして桐壺帝も、私と藤壺女御のことを知ってて知らんふりしてたのかな。あれも、あってはならんことだった。
(あ。やっと思いだした。あんたも同じことしてたんだよ)
 源氏は二条院で平癒した紫の上の側にいて、なかなか六条院に帰らない。
 我慢しきれなくなって、小侍従が柏木に知らせる。

「全部、バレました」

柏木ショック!大ショック!
もう源氏と会われへん。
朱雀院に知れたらどうしよう。ど! どうしよう。
帝にも顔向けできん。宮中もういけん。
おしまいだおしまいだ。
だいたいあんな顔が見えるとこに座ってた女三の宮が悪い。
 と、青くなって引きこもる。
(どんだけちっちゃい男やねん。んなこと言うなら初めから、すな!)

源氏は思う。
玉鬘は立派やな。意に沿わぬ結婚だったとは言え、今はしっかりと運命を引き受けて、ようやっとる。女三の宮には、そういう強さがないなあ。
 そう言えば朧月夜も朝顔も出家したとか。俗世を捨てて仏門に入れてええなあ。アテには女三の宮がおるからそうそう出家もできん。それがアテを裏切ったんか。

 朱雀院の五十の賀は、なんやかやで延び延びになり、十二月に行うこととなった。その準備、御賀の試楽をやるので、みんな六条院に集まる。紫の上。明石の女御。玉鬘。蛍兵部卿宮も。夕霧も。上達部たちも。それぞれの子供らも。
 ただひとり柏木だけ来ない。
 源氏は来るように文を送る。事情を知らぬ致仕の大臣(前太政大臣・柏木の父)も勧める。仕方なく柏木が行くと、源氏は殊更に優しく、優しく、
「拍子をとるのは、あなた以外に誰に頼めよう」
とか言う。こわ。
試楽は盛大に行われ、源氏は、
「歳をとると、涙もろくなっていけません。柏木に笑われます」
とか、しれっと言う。こわ、こわ。こわ。
 して、杯を何度も勧める。柏木の心臓はバクバクで破裂しそうである。結局、宴の途中で気分が悪くなって退出し、本当に病気になってまう。
 父の致仕の大臣は心配して、うちへ来い、と言う。妻の女二の宮は、行かしたくない。この姫は、ほんと柏木に尽くしてる。
 で、行かなきゃいいのに、柏木は結局父の邸に移ることにする。誠心誠意尽くしてきた女二の宮がまこと可哀想である。結局、柏木はまだ親掛かりなのだ。甘ちゃんである。たいそうなことをしでかしておきながら、それを引き受ける覚悟もなく、結局親元に逃げるのである。若い時の源氏とは不逞者のレベルが違う。小物感満載である。

朱雀院の五十の賀は二十五日に行われた。

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