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桃 三木美奈1

「飛ぶ教室」という雑誌がある。国語の教科書で有名な光村図書から、年に四冊でている。内容は童話、児童読物からヤングアダルトまでの創作、本の紹介、コラム、ヨシタケシンスケの漫画? まであって、なかなかバラエティに富んでいる。
私はここ十年くらい、いや、もっとか、小説を読み漁ることをしなくなった。近現代の作家は大体読んで知っているので、その作家の未読の小説が、どんな感動を与えてくれるのか、なんとなくわかる。だから、読んでも、何か答え合わせをしているみたいで、だんだん面白くなくなった。
新しい作家さんは、時々、これは、という人がでて面白い。最近だと、今村夏子さんの小説は面白かった。豊崎由美さんが、ラジオで「あひる」を紹介してて、面白そうだったので読んでみた。面白かったので、出版されている小説本は全部読んだ。全部面白かった。新刊が出るのが楽しみである。
私は、そういう作家さんを幾人かもっている。北村薫さんもそうだし、佐藤多佳子さんもそうだし、森絵都さんもそうだ。
出てる本は全部読みたいのだが、ひとつネックがある。私は本は電子ブックで買うことに決めている。気を許すと、本は限りなく増殖するものだ。子供でも生んでんじゃないか、というくらい増える。家は狭い。奥さんは仕事がら、やたら資料の紙ものが多い。収納は物でぎゅうぎゅうに詰められ、入らなかったものは床に置かれる。人間、床に物を置き出したら終わりである。家は終わりである。本来、私は何もない部屋が好きだ。布団と着替えが少し。それだけでいい。本は読むが、本自体はいらない。だから、電子書籍が最適なのだ。で、困ったことに、北村薫さんは、自作を電子書籍化しない。だから、最近はほとんど読んでない。佐藤多佳子さんや森絵都さんは、出ている。出ている分は読んだ。
で、三木三奈さんである。この方の作品は「文学界」
で読んだ。(雑誌は買う。ただ、読んだら捨てる)。家族の話だった。そのなかで、前の恋人に貸した金を取り返しに、男の嫌いな犬を連れて、訪ねていく女のエピソードがあった。男のダメダメぶりも、女のダメダメぶりも、今風によく書けていて感心した。今まで読んだことのない、新鮮なダメダメさで、読んでてワクワクした。会話も上手い。
感心したので、他も読んでみようと思って、Amazon見たら、電子書籍も本も売っていない。新人さんなのだ。なんでも芥川賞の候補にもなったようで、上手いはずである。
その三木三奈さんが「飛ぶ教室」に書いていた。10ペイジに満たない短編だけど、とても面白かった。3回、読んだ。私は短編であれ長編であれ、再読することははとんどない。再読すると、新しい発見がある、という人がいて、確かに新しい発見もあるのだが、再読すると、初読の感動を失っている。まぁ、当たり前なのだが、そのつまらなさに、私は再読はあまりしない。小説を読むことは娯楽であるから、それでいいと思っている。
ただ、何度も読み返したくなる本もある。たまに、ある。「ナインストーリーズ」とか「黄色い目の魚」の一章目とか、「夢十夜」のいくつかの話とか、「斜陽」とか「夜長姫と耳男」とか。「あひる」とか。
三木三奈さんの「桃」もそうだ。今のところ。どこに、そんなに惹かれるのか考えてみようかと思っている。

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