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潮田クロ
2024年7月2日 12:39
いつも必ずお代わりし、時には、誰かが残した給食まで頂こうとするカナコに異変があったのを、わしは先週から気づいていた。 給食半ばで人目を盗んで、カナコはパンを半分に千切り、その半分をプリントに包み、机の中に突っ込む。本人だけ知られてないつもりでおるが、カナコより後ろの席の者は、とうに気づいておった。ただ、そんなこと言うても、カナコが大騒ぎするだけで面倒くさいので、だれも何も言わんだけじゃった。
2024年7月4日 22:16
「郷田満子ちゃん家には、ピアノがあるぞ。それが、どんなに羨ましいことであるのか、お前には分かるまい」「分からんの」「それもの、アップライトピアノじゃのうてグランドピアノじゃ」「どう違うのか」「第二音楽室にある、ちっさい、四角いピアノがアップライトでのー、第一音楽室やら体育館やらに置いてある、奥行きのある、でっかいんがのー、グランドじゃ」「お前、なんでそんな事に詳しいんじゃ」「満子に習う
2024年6月28日 09:37
「サッちゃん。ちょっと」 振り返ると、人混みの中にしのぶさんが立っていた。今日は祭りなんで神社の白い半被を着ている。「あ。こんばんは」 しのぶさんは、うちのお母さんの親戚だ。姪とかいってたっけ。この神社に嫁に入った。お母さんが出て行ってから、親戚同士はなんとなく疎遠になっていったけど、しのぶさんだけは、今も何かと私を気にかけてくれている。「ちよっと、いいかな」 しのぶさんがまた言う。側に
2023年12月24日 16:20
「健ちゃん。二種取れたんだって?」「はい。お陰様で」 この春の試験で、ようやっと電気工事士2種の資格がとれた。これで、屋内配線の工事も、電器製品の取り付けもできるようになった。時間はかかったが。 運転席の義正さんは、大学が休みの間、親父さんの電器店を手伝っている。アルバイト代も出るらしい。親子といえども、そこはしっかりしている。「幸子が言ってたぞ。随分勉強、頑張ったって」「三年かかりまし
2024年2月12日 13:01
家を出て、頼るところもなくて、結局、駅でひと晩明かした。始発で東京に出ようかと思っていた。 それなのに夜が明けて、始発が来ても乗れなかった。勤め人の人とか通学の生徒さんやらがだんだんに増えてきて、駅を離れた。 行くところがなくて、結局木村電器店の前にいた。親父さんが店を開ける時、私に気づいて店に入れてくれた。いきさつを話して、朝ご飯をいただいて、奥の部屋で寝かせてもらった。気を遣って幸子ちゃ
2024年3月14日 09:33
アパートのドアを開けると、駅前の駐在さんが立っていた。「ああ、ヨッちゃん。朝早うからすまんの」「なんですか」 昨日も出歩かず、家で飯を作って食った。酒は飲まない。だから、喧嘩も随分ご無沙汰だ。「実はの、ちょっと確かめたいことがあっての。この人、知っちょるか」と、住所と人名の書かれた紙を渡される。「・・・」「いや、県警から問い合わせがあっての」「親父ですが」紙を突き返そうとしたが
2024年2月18日 10:00
今年から、7月12日の夏祭りを舞祭とした。別に10月20日に収穫祭としての秋祭りを復活させ、ここでも舞を披露する。正月の舞始めと合わせると、計三回、神楽舞を奉納することになる。 一時期、神楽舞は舞手を失って存続が危ぶまれた。舞手は氏子の中から、未婚の女性が選ばれる。おそらく百年単位で繋がる伝統だったが、堅苦しい、古臭い、練習に時間が取られるなどと敬遠され、とうとう誰も舞手のいない年があった。