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【短編連作】神木町

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2024年2月の記事一覧

01神木町【プロローグ】

01神木町【プロローグ】

神木町・あらすじ

はじめは六人の若者の話。
小学生のタツは母親の汚名をカナコと晴らそうとする。
中学を卒業して働く健ちゃんとさえ子は、経済的な自立を模索する。
中学生の研ちゃんは漫画家に憧れ、同級生の幸子は失踪した母と残された父を思う。
6人は、精一杯生き成長してゆく。

それから、三人の物語。
OLの町田さんはヨッちゃんに危ないところを救われる。
高校生の相良は、近所のお婆さん達と交流する中で

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04 丸出だめ夫

04 丸出だめ夫

 今日はタツが休みじゃった。どうせまた、父ちゃんの手伝いさせられとんのじゃろう。と、思っていると。
「まずいのー! なんじゃこれ。人の食うもんじゃねえど」
まあた始まった、相良の給食クサシが。旨かろうが不味かろうが、黙って食え。バカモンが。まあ、確かに、そんなに旨くはないけどな。

 ヒジキの煮物に、ナスと竹輪と豆が入っている。あと微かな肉片。

 それがオカズ。あとコッペパンとマーガリン、脱脂粉

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10 母帰る

10 母帰る

 見たのは三度目だった。
台風で、山田川の堤防が崩れて、後少しで決壊しそうになった。それをコンクリートで固める護岸工事があって、今、川に以前の面影はもう残っていない。次には老朽化した橋を架け替えると、もっぱらの噂だった。
 それが証拠に、護岸工事で集まってきた労務者たちの多くは、近くの安アパートを引き払わず住み続けている。
 ワシはこの橋に愛着があった。この春、学校の宿題で、幸子と橋の由来について

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15 家出

15 家出

 家を出て、頼るところもなくて、結局、駅でひと晩明かした。始発で東京に出ようかと思っていた。
 それなのに夜が明けて、始発が来ても乗れなかった。勤め人の人とか通学の生徒さんやらがだんだんに増えてきて、駅を離れた。
 行くところがなくて、結局木村電器店の前にいた。親父さんが店を開ける時、私に気づいて店に入れてくれた。いきさつを話して、朝ご飯をいただいて、奥の部屋で寝かせてもらった。気を遣って幸子ちゃ

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17 まんが道

17 まんが道

 研ちゃんが電器店にやってきたのは、漫画のノートを幸子に渡した翌日だった。恐らく学校でそれを見て、ひと晩考えて、ここにやってきたのだろう。
 名前は幸子から聞いて知っていた。昔の俺に劣らぬ漫画馬鹿であると。作品を見て、ああ確かに馬鹿野郎だと、懐かしく嬉しかった。
「健ちゃんさんですか。こんにちは。山本研二と申します」
そう言って、もうひとりのケンちゃんは、俺の描いた"赤マント"のノートを机に置く。

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18 エピローグのようなプロローグ

18 エピローグのようなプロローグ

 中学を卒業して、タツくんとカナコちゃんは大角建設に就職してきた。タツくんは半分正規でカナコちゃんはアルバイトだ。大角建設は、会社の規模を少しずつ大きくしている。
 まあ、見習いのタツくんもアルバイトみたいな給料ではあるけれど。18になって、重機の免許が取れるようになれば、正社員の約束である。
 タツくんもいろんな重機の免許を取りたいと言っている。眺めてて面白かったのだろう、この間は、フォークリフ

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29 舞祭【エピローグ】

29 舞祭【エピローグ】

 今年から、7月12日の夏祭りを舞祭とした。別に10月20日に収穫祭としての秋祭りを復活させ、ここでも舞を披露する。正月の舞始めと合わせると、計三回、神楽舞を奉納することになる。
 一時期、神楽舞は舞手を失って存続が危ぶまれた。舞手は氏子の中から、未婚の女性が選ばれる。おそらく百年単位で繋がる伝統だったが、堅苦しい、古臭い、練習に時間が取られるなどと敬遠され、とうとう誰も舞手のいない年があった。

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